麦編 乾燥・調製
はじめに
●麦に限らず、穀物の乾燥は、工業製品とは異なり、同じ種類であっても年次変動や地域性が見られるため、基本を踏まえた上で的確な取扱いをする必要があります。
●麦類も水稲と同様に乾燥・調製を行いますが、収穫期間が水稲に比較して短く、荷受けが集中しやすいこと、収穫時期は気温が高く、気温の日較差も大きく、湿度も高いため、運搬・乾燥時に品質事故が起きる危険があります。
小麦の乾燥作業
「乾燥の必要性」
●乾燥することで穀類の含水率(以下、水分)を下げ、貯蔵の安全性を高めるだけでなく、品質の劣化を防ぐことや出荷時期を調節することができます。
●穀類一般に言えますが、小麦は水分が高いままだと、貯蔵性が悪くなります。規格を満たす水分12.5%以下に水分ムラ(バラツキ)がないように乾燥する必要があります。
●水分が高いままで製粉をすると、ふすまと粉の分離がうまくいかず、十分な製粉ができません。そのため、乾燥後の戻り水分を考慮し乾燥作業をする必要があります。
「乾燥方法」
●麦類はほぼ機械乾燥で行われています。
●乾燥方法は、穀類を堆積したまま乾燥する静置法と、穀物を動かしながら乾燥する循環法に分けられます。
●日本の場合、麦類はほとんど循環法によって乾燥されます。
●共同乾燥施設における乾燥・調製作業の概略は図1のようになります。図1はカントリーエレベータなどの共同乾燥施設を参考に、乾燥・調製作業の流れがわかりやすいように示しています。しかし、具体的な乾燥・調製作業の説明は、自家乾燥の場合を対象としており、共同乾燥施設で行われている作業などと必ずしも一致しない場合がありますのでご注意ください。また、自家乾燥(生産者などで個別に乾燥作業をする場合)では乾燥のみを行い、共同乾燥施設へ運搬するなど、地域や生産者により調製行程が異なります。
図1 カントリーエレベータでの麦類の乾燥・調製作業の概略
(クリックすると大きく表示されます)
カントリーエレベータ
麦用大型循環式乾燥機
▼詳しくは「稲編 乾燥・調製」を参照してください
「乾燥前の注意点」
●乾燥する前に、乾燥機の清掃作業を行います。
●小麦で使う乾燥機は、水稲と共用されることが多いため、水稲などの混入を防ぐためにも清掃を徹底する必要があります。
●清掃方法は取扱説明書に従い実施します。特に、小麦は三角風洞部の端に頴(えい)が溜まるので、確認しながらエアーブローしてください。また、高所作業が伴う場合もあるので安全対策が必要です。
●異種穀粒や異物が混入すると、品質低下の原因になるので注意します。あまりにも混入物が多い場合には別に乾燥させることで、調製作業の負担軽減や収穫物全体の品質低下を防ぎます。
●収穫・乾燥時の天候や温度・湿度によって異なりますが、一般的には、すみやかに(収穫後2~3時間以内)乾燥機に入れる必要があります。
●収穫直後の小麦は水分が高いことが多いので、袋詰めやコンテナなどの中でそのまま長時間放置すると、変質して異臭や変質粒が発生します。このようになると発芽率が低下するだけではなく、低アミロ化(※)による問題が生じます。
※「低アミロコムギ」
外観は穂発芽しているように見えなくても、種子の内部でデンプンなど貯蔵物質が分解されている状態を「低アミロ」と言います。
低アミロコムギは、コムギ収穫後の長時間放置だけでなく、収穫間際の気象条件で雨が多い場合(特に低温・多雨)に発生することが多く、日本は多湿なので天候が良くても刈遅れの場合にも発生します。低アミロ化すると、粘度(フォーリングナンバー)が大きく低下し、1次加工適性(製粉歩留まりなど)や2次加工適性(製麺、製パン適性など)の低下につながり問題となります。
▼コムギの穂発芽はこちら
▼フォーリングナンバーはこちら
「乾燥時の張込量」
●小麦では、張込量を減らすように乾燥機の取扱説明書などで指示され、規定量の70~80%程度が目安となっています。
●小麦は籾や大麦に比べて堆積見かけ密度が大きいため、張込量を減らして、相対的な風量比(穀物重量に対する風量の値)を増し、テンパリング時間を減らします。
●高水分小麦は、乾燥時に茎葉などの夾雑物や湿っている粒同士で付着することから、流動性が悪く、乾燥機のホッパー面等で結露し、乾燥ムラや粒が残留して発酵することもあるので、乾燥中に詰まりが起こっていないかなどの確認が必要です。
●さらに高水分小麦は、乾燥が進むにつれ容積が減るため吹き抜けを起こし、うまく乾燥できないことがあるので、乾燥機の状態に注意が必要です。
「送風温度」
●穀粒水分ごとの適切な送風温度は、以下の通りです。
●品質変化しない穀粒温度の限界は、穀粒水分20%程度では60℃、穀粒水分40%程度のものでは35℃以下とされます。
●収穫開始穀粒水分である30%程度では、40~45℃くらいと言われています。
●高水分小麦では、退色して白っぽい小麦に仕上がることがあるため、送風温度が高くならないよう、注意が必要です。
小麦の調製作業
●乾燥を終了したものは、粒選別機、石抜機、比重選別機によって細麦、屑麦や夾雑物を除去し、整粒率を上げます。自家乾燥では、麦にも利用できる籾すり機を調製作業に利用している例もあります。
左上 :粒選別機 / 右下 :石抜機
比重選別機
●仕上げ後は、梅雨の時期であるため、貯蔵中に水分が戻らないように十分注意します(12.0%以下)。
●出荷前に水分を確認し、適正水分を超えている場合には再乾燥を行います。
●赤かび病に感染した小麦の被害粒は、粒厚が小さく、千粒重が軽いことから、粒厚選別と比重選別を併用すると、デオキシニバレノール(DON)濃度が高い粒を選別でき、低減対策となります。
●乾燥機に入れる前に粒を確認し、被害粒があった場合には仕分けを行い、別に乾燥調製すると効果的です。
●乾燥時の仕上げ水分(多くは11.5%以下)や粒選のふるい網目(多くは2.3mm以上)は、JAなどの指定に従ってください。
▼コムギの赤かび病についてはこちら
麦の乾燥・調製作業のスマート化
●農業機械などによる農作業のスマート化が、KSAS(クボタ スマートアグリシステム)やその対応機により、導入や利用が進んでいます。麦に限らずポストハーベストのスマート化は、特に自家乾燥では遅れていましたが、KSASに対応した乾燥調製システムの登場によりポストハーベストのスマート化が進み、乾燥・調製作業、作業工程の見える化や運転状況の遠隔確認による負担軽減などが可能となりました。
●麦類では主に乾燥作業の利用となります。
●乾燥ロットごとの荷受けの収穫物情報、乾燥時間、乾燥過程、灯油消費量などがわかることで、作業の効率化だけでなく、圃場とポストハーベストのデータが容易に結び付き、次年度の栽培や作業計画に反映しやすくなります。
●収穫から出荷までの一連についてデータ等を収集する場合には、接続キット等が必要な場合があります。
▼KSAS乾燥調製システムについてはこちら
小麦の乾燥・調製時に品質項目(ランク区分)に影響を与える要因
●小麦のランク区分の品質項目4項目のうち、灰分以外の3項目について、乾燥・調製作業で改善できる方法が示されています。
◆タンパク質含有率
●タンパク値に応じた仕分け乾燥・調製を行うことで、バラツキを解消できます。
◆容積重
●比重選別、粒厚選別を行うことにより、容積重を高めることができます。
◆フォーリングナンバー
●低湿度で貯蔵・保管すると、値が低下する恐れが少なくなります。
▼コムギの品質ランク区分はこちら
小麦以外の麦類の乾燥・調製作業の注意点について
●大麦の乾燥・調製作業は小麦とほぼ同じですが、若干異なる点がありますので、ポイントを記します。
「ビール用二条オオムギ」
●ビール用二条大麦は、ビールの原料となる麦芽を作るため、発芽勢(※)が重視されます。
●発芽勢を低下させないため、穀粒水分が25%以下になった時を収穫の目安としています。
●乾燥作業でも、発芽勢を低下させないための注意が必要です。
●穀粒水分は25%程度と他の麦に比べて低い水分で収穫し、乾燥機に張込みます。送風温度は40~50℃で、穀物温度は35℃程度と他の麦より低く設定します。
●注意点は、剥皮粒の発生を避けるため乾燥時間が長時間にならないこと、他の麦より低い仕上げ水分が求められることです。
●ビール用二条大麦は検査基準が厳しいので、乾燥方法や調製については、必ず指定に従い実施する必要があります。
(※)発芽勢とは、発芽時のタネの揃いの度合いをいう。発芽は揃うのが望ましい
「大麦(ビール用二条大麦以外)」
●小麦と同様に、大麦でも収穫後すみやかに乾燥機に入れる必要があります。
●長時間放置すると、大麦では、白度の低下や粒質硬化の恐れがあります。
●乾燥時の仕上げ水分(多くは12.5%以下)や粒選のふるい網目(多くは2.2mm以上)は、JAなどの指定に従ってください。
--------------
●以上が麦の乾燥・調製の概略ですが、地域特性や品種などにより異なる場合も多いので、注意が必要です。
関 正裕
中日本農業総合研究センター上越研究拠点 水田利用研究領域
※画像はすべて株式会社クボタより提供
◆麦づくりの、その他の情報はこちらから