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麦・大豆

麦編 品種の選定 ビール用二条大麦

(2021年12月 改訂)

はじめに

「ビール用二条大麦とは」
●ビール用二条大麦とは、ビール醸造用に用いる麦芽原料となる大麦の名称で、日本では二条大麦がビール用として生産されています。

「ビール用二条大麦栽培はちょっと違う」 
●ビール業界と品種育成地、各農業試験場、各生産団体が協力して実施しているビール大麦合同比較試験において、栽培、製麦、醸造上の品質が優れていると認められた品種のみが、ビール用二条大麦契約対象品種となります。
●ビール会社との契約により栽培が行われているため、契約のないところで栽培しても、ビール用二条大麦としては購入してもらえません。
●栽培する品種は、契約対象品種の中から、道府県生産者団体と契約会社との協議で決定されます。

契約対象品種紹介

●2022年産における道府県別の契約対象品種は以下のとおりです。

●北海道:りょうふう、札育2号(限定品種:普及にあたり特定の条件が付される品種)
●栃木県:ニューサチホゴールデン
●群馬県:サチホゴールデン、アスカゴールデン
●埼玉県:彩の星
●滋賀県:ニューサチホゴールデン
●京都府:ニューサチホゴールデン
●鳥取県:しゅんれい
●岡山県:スカイゴールデン、サチホゴールデン
●山口県:サチホゴールデン
●福岡県:ほうしゅん、はるさやか
●佐賀県:サチホゴールデン
●大分県:サチホゴールデン

「契約対象品種の特性」
◆サチホゴールデン
●早生、短稈、大粒で整粒歩合が高く、多収です。
●オオムギ縞萎縮病ウイルスⅠ~Ⅲ型抵抗性で、うどんこ病にも抵抗性です。
●穀皮が薄く、側面裂皮がやや発生しやすいです。
●麦芽品質は優れています。
●契約対象品種となっている地域は、群馬県、島根県、岡山県、佐賀県、大分県の5県です。

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左から あまぎ二条、サチホゴールデン、ミカモゴールデン

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左 :株の写真。左から、サチホゴールデン、ミカモゴールデン
右 :穂と粒の写真。左から、サチホゴールデン、ミカモゴールデン


◆ニューサチホゴールデン
●「サチホゴールデン」にリポキシゲナーゼ(※)欠失の形質を導入した準同質遺伝子系統です。
 リポキシゲナーゼ:脂質酸化酵素で、ビールの鮮度劣化の原因物質
●原麦リポキシゲナーゼ(LOX-1)が欠失しているため、ビール鮮度が劣化しにくく香味安定性が良く、麦芽品質は優れています。
●栽培性はサチホゴールデンと同程度で、早生、多収です。
●穀皮が薄く、側面裂皮がやや発生しやすいです。
●オオムギ縞萎縮病ウイルスⅠ~Ⅲ型抵抗性で、うどんこ病にも抵抗性です。
●契約対象品種となっている地域は、栃木県、滋賀県、京都府の3府県です。

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左から サチホゴールデン、ニューサチホゴールデン

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左 :株の写真。左から、サチホゴールデン、ニューサチホゴールデン
右 :穂と粒の写真。左から、サチホゴールデン、ニューサチホゴールデン


◆りょうふう
●短稈で、耐倒伏性が強いです。
●多収です。
●蛋白含量が低く、醸造適性に優れています。
●契約対象品種となっている地域は、北海道です。

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りょうふう(提供 :地方独立行政法人北海道立総合研究機構 北見農業試験場)

◆札育2号
●北海道で栽培されている「りょうふう」に、リポキシゲナーゼ欠失(LOXレス)の形質を導入した準同質遺伝子系統です。
●栽培性および麦芽品質は「りょうふう」と同等です。
●LOXレスのため、ビール鮮度が劣化しにくく香味安定性が良いです。
●契約対象品種となっている地域は、北海道です。

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左から、札育2号、りょうふう(提供 :サッポロビール株式会社)

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左 :株の写真。左から、札育2号、りょうふう
右 :穂と粒の写真。左から、札育2号、りょうふう
(提供 :左右ともにサッポロビール株式会社)


◆彩の星
●早生、やや短稈、多収です。
●オオムギ縞萎縮病ウイルスⅠ~Ⅴ型抵抗性で、うどんこ病にも抵抗性です。
●麦芽品質は優れています。
●契約対象品種となっている地域は、埼玉県です。

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一般生産圃場の「彩の星」(提供 :サッポロビール株式会社)

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左 :株の写真。左から、彩の星、ミカモゴールデン
右 :穂と粒の写真。左から、彩の星、ミカモゴールデン
(提供 :左右ともに、サッポロビール株式会社)


◆ほうしゅん 
●早生で整粒歩合が高く、多収です。
●オオムギ縞萎縮病ウイルスⅠ型抵抗性で、うどんこ病にも抵抗性です。
●穀皮が薄く剥皮しやすいため、調製作業に注意が必要です。
●麦芽品質は優れています。
●契約対象品種となっている地域は、福岡県です。

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登熟期のほうしゅん (提供 :福岡県農林業総合試験場)

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左 :株の写真。左から、ほうしゅん、あまぎ二条
右 :穂と粒の写真。左から、ほうしゅん、あまぎ二条
(提供 :左右ともに、福岡県農林業総合試験場)


◆はるさやか
●穂数が多く、多収です。
●オオムギ縞萎縮病ウイルスⅠ~Ⅴ型抵抗性で、うどんこ病にも抵抗性です。
●穂発芽しにくく、被害粒の発生が少ないです。
●麦芽品質は優れ、醸造上問題となる麦汁β-グルカンは低いです。
●契約対象品種となっている地域は、福岡県です。

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はるさやか(提供 :福岡県農林業総合試験場)

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左 :株の写真。左から、はるさやか、ほうしゅん、しゅんれい
右 :穂と粒の写真。左から、はるさやか、ほうしゅん、しゅんれい
(提供 :左右ともに、福岡県農林業総合試験場)


◆しゅんれい 
●早生で多収です。
●オオムギ縞萎縮病ウイルスⅠ型抵抗性で、うどんこ病にも抵抗性です。
●被害粒の発生が少なく、早播き適応性があります。
●麦芽品質は優れています。
●契約対象品種となっている地域は、鳥取県です。

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しゅんれい(提供 :福岡県農林業総合試験場)

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左 :株の写真。左から、しゅんれい、あまぎ二条、アサカゴールド
右 :穂と粒の写真。左から、しゅんれい、あまぎ二条、アサカゴールド
(提供 :左右ともに、福岡県農林業総合試験場)


◆スカイゴールデン
●早生で整粒歩合が高く、多収です。
●オオムギ縞萎縮病ウイルスⅠ~Ⅴ型抵抗性で、うどんこ病にも抵抗性です。
●タンパク質含量が高くなりやすいので、注意が必要です。
●皮の貼り付きがやや劣るため、調製作業には注意が必要です。
●麦芽品質は優れています。
●契約対象品種となっている地域は、岡山県です。

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登熟期のスカイゴールデン

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左 :株の写真。左から、スカイゴールデンと、あまぎ二条
右 :穂と粒の写真。左から、スカイゴールデンと、あまぎ二条


◆アスカゴールデン
●早生で整粒歩合が高く、多収です。
●オオムギ縞萎縮病ウイルスⅠ~Ⅴ型抵抗性で、うどんこ病にも抵抗性です。
●被害粒の発生が少ないです。
●麦芽の溶け特性が適正で、麦芽品質は優れています。
●契約対象品種となっている地域は、群馬県です。

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左から、スカイゴールデン、サチホゴールデン、アスカゴールデン

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左 :株の写真。左から、アスカゴールデン、ミカモゴールデン、スカイゴールデン
右 :穂と粒の写真。左から、アスカゴールデン、ミカモゴールデン、スカイゴールデン

品種選びの注意点

「ビール用二条大麦契約対象品種であるか、契約のある道府県か」 
●ビール用二条大麦は、ビール会社との契約で栽培されているため、すべての都道府県で栽培できるわけではありません。
●また、契約対象品種は各道府県によって異なっています。
●契約のある道府県で契約対象品種を栽培すると、ビール用二条大麦として売り渡しをすることができます。
●県によっては複数の契約対象品種があり、地域等により栽培されている品種が異なることがあります。
●詳しくは、各都道府県の普及指導センターや農業関係の試験研究機関、JA等にお問い合わせすることをおすすめします。

執筆者 
高山敏之
栃木県農業試験場栃木分場 ビール麦育種研究室 二条大麦育種指定試験地主任

渡邉浩久
栃木県農業試験場 研究開発部 麦類研究室

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