提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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麦・大豆

麦編 品種の選定 裸麦

(2021年12月 全面改訂)

はじめに

●裸麦(ハダカムギ)は、穀皮が穀粒に貼りついている皮麦(カワムギ)とは異なり、脱穀すると穀皮が容易にはがれる特性をもつオオムギです。
●生産物に穀皮がないため、全粒粉を利用できる、搗精加工時に生じる糠に穀皮の残骸が含まれない、などの利点があります。
●裸麦品種の多くは六条種ですが、近年は二条種も開発され作付けされています。皮麦と同様、二条種は六条種と比べて一穂着粒数は少ないのですが、粒が大きく穂数も多い特徴があります。
●主な生育特性は皮麦と同じなので、栽培法は皮麦に準じて構いません。ただし、現在の品種は寒冷地や積雪地域での栽培には適しません。
●主な産地は愛媛県・香川県・大分県などの瀬戸内海周辺地域と九州北部ですが、関東以西の温暖地で栽培することができ、品種によっては北海道での春播き栽培も可能です。
●麦味噌の原料として多く用いられているほか、麦ごはんや焼酎などにも利用されています。
●近年はモチ性品種(もち麦)の作付けも増え、麦ごはんのほか、粉利用や新規用途にも用いられています。

品種の紹介

※特記したものを除き、いずれも農研機構西日本農業研究センター(旧 近畿中国四国農業研究センター、旧 四国農業試験場)で育成された品種で、グラフなどのデータは同所で調査したものです。

◆ハルヒメボシ
●2011年度に育成された、多収で品質が優れるウルチ性六条の早生品種です。
●硝子率が低く、精麦白度が高い特長がある高品質品種です。
●穂数は少ないが、穂が長く、「イチバンボシ」より1割程度多収です(写真1)
●愛媛県で「マンネンボシ」に替わって普及し、2021年産では全国のハダカムギの作付けシェア第1位になっています。
※愛媛県で産地品種銘柄(2021年産)

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写真1 ハルヒメボシの収穫期の穂

◆イチバンボシ
●1992年度に育成されたウルチ性六条の早生品種で、2001年産の作付けシェアが94.1%を占めるなど、およそ30年間に渡り裸麦の代表的な品種として作付けされています。
●栽培特性・収量性・品質がいずれも安定的に高水準で、実需者にとって最も使い慣れた裸麦品種と言えます。
●近年は硝子率が高くなる傾向があり、低硝子率の品種や、より安定多収の品種が育成されつつあることから、作付面積は減少傾向にあります。
※埼玉県・滋賀県・島根県・岡山県・徳島県・香川県・福岡県・佐賀県・熊本県で産地品種銘柄(2021年産)

◆マンネンボシ
●2000年度に育成されたウルチ性六条品種で、稈が強く粒形が丸いのが特徴です。
●愛媛県の奨励品種として作付けシェア第2位の座を占めてきましたが、硝子率が高くなりやすいため低硝子率「ハルヒメボシ」に品種転換されました。
※愛媛県で産地品種銘柄(2021年産)

◆トヨノカゼ
●2005年度に育成されたウルチ性六条の早生品種で、やや円形で軟質の穀粒が特徴です。
●イチバンボシ・マンネンボシに次ぐ裸麦品種として、大分県と山口県で主に味噌原料用として作付けされてきました(写真2:右)
※山口県・大分県で産地品種銘柄(2021年産)

◆ハルアカネ
●2019年度に育成された、極めて多収のウルチ性六条の早生品種です。
●「イチバンボシ」より穂数は少ないですが、穂長が1cm程度長い穂重型の草姿で(写真2:左)、2~3割多収です。
●従来のウルチ性品種よりβ-グルカン含量がやや多く、穀粒硬度が高いため搗精時間は長いですが、砕粒率が低く、精麦白度が高い高品質品種です。
●大分県が「トヨノカゼ」の代替品種として採用し、普及を進めています。
※大分県で産地品種銘柄(2021年産)

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写真2 ハルアカネ(左)とトヨノカゼ(右)(2021年4月24日 大分県国東市)

◆ダイキンボシ
●2019年度に育成された、多収で品質の優れるウルチ性六条の早生品種です。
●「イチバンボシ」より10cm近く長稈ですが倒伏はしにくく、うどんこ病に抵抗性で、2割程度の多収です。
●登熟期に脱芒しやすい特性が認められています。
●硝子率が低く、精麦白度が極めて高く、砕粒率が低いなど、原麦・精麦品質が極めて優れる品種です。

◆長崎御島
●2016年度に長崎県と西日本農業研究センターの共同研究で育成された、ウルチ性六条の品種です。
●長崎県における麦味噌原料用として長く使用されていた「御島裸」を早生化・短稈化・多収化した特性で、代替品種として全面転換されました。
※長崎県で産地品種銘柄(2021年産)

「主なウルチ性六条品種の主要特性比較」
 ご紹介したウルチ性六条品種(長崎御島を除く)の主な特性について、育成地(西日本農業研究センター/香川県善通寺市)での累年成績をグラフにまとめました。品種選定の際に参考にしてください(図1~図6)

●収量性
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●生育特性
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●収穫物特性
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●品質特性
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●健康機能性成分と穀粒特性
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◆ユメサキボシ
●国内初の実用的二条裸麦品種として2008年度に育成されました。
●成熟期が遅いのが欠点ですが多収で、六条品種と比べて大粒で軟質です。
●うどんこ病や縞萎縮病に抵抗性です。
●佐賀県と愛媛県で作付けされています。
※愛媛県・佐賀県で産地品種銘柄(2021年産)

「モチ性および高β-グルカン含量品種」
 いわゆる"もち麦"はモチ性大麦のことです。古来より主に瀬戸内地域で紫粒のモチ性裸麦在来品種が栽培されて、餅や団子にして食されていたようですが、ごくわずかに栽培されるのみで、商業的栽培に供されることはありませんでした。
 近年になって、"もち麦"は麦ごはんにすると食感が良いこと、健康機能性成分のβ-グルカンがウルチ性の1.5倍程度多く含まれることから注目され、皮麦を含めてモチ性大麦が品種開発されるようになり、作付面積も増えています。

◆ダイシモチ
●在来品種と同様に登熟後期に穂が紫色になり、粒の外観も紫色のモチ性の六条品種で(写真3)、初めて公的機関が開発した"もち麦"品種として1997年度に育成されました。
●"もち麦"在来品種を早生化・短稈化・多収化した品種ですが、収量性は「イチバンボシ」よりやや劣ります。
●6次産業や食品会社との契約栽培などで作付けされていましたが、2016年の"もち麦ブーム"で作付面積が拡大し、産地銘柄指定県も増えています。 ※滋賀県・岡山県・徳島県・香川県・愛媛県・佐賀県・熊本県で産地品種銘柄(2021年産)

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写真3 登熟後期のダイシモチの穂

◆キラリモチ
●2009年度に育成された二条裸麦で、極低ポリフェノール含量の特性も合わせもつため、炊飯など加熱加工後も変色しにくいという特長がある(写真4)、高品質のモチ性品種です。
●短稈で倒伏に強く、うどんこ病や縞萎縮病に抵抗性ですが、収量性は「イチバンボシ」や「ユメサキボシ」などのウルチ性の普及品種より劣ります。
●二条種ですが開花受粉性なので、赤かび病防除時期は六条種に準じます。
●奨励品種に採用されているのは茨城県だけですが、6次産業や地域興しの品種として、関東以西の温暖地の広域で栽培されるようになりました。
●秋播性がIなので、北海道でも春播き栽培されています。
※北海道・茨城県・埼玉県・滋賀県・兵庫県・岡山県・広島県で産地品種銘柄(2021年産)

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写真4 炊飯麦 キラリモチ(左)とイチバンボシ(右)(18時間保温後)

◆もっちりぼし
●サッポロビール(株)が2009年度に食用として育成した、モチ性の二条裸麦です。
※埼玉県で産地品種銘柄(2021年産)

◆ビューファイバー
●農研機構作物研究所(現 作物研究部門)が2010年度に開発した、極高β-グルカン含量のウルチ性二条品種です。
●「キラリモチ」と同様に、うどんこ病や縞萎縮病に抵抗性ですが、開花受粉性なので、赤かび病防除時期は六条種に準じます。
●β-グルカンを通常の二条品種の3倍近く含みますが(図7)、穀粒は"しわ粒"なので(写真5)、従来品種より収量性が低く、整粒歩合が劣り、精麦に加工しての利用には向きません。
●めん類・菓子類などの粉利用、グラノーラなどのシリアル原料など、健康機能性が高く、高付加価値の新規用途食品向け素材として使用されています。
※栃木県・愛知県で産地品種銘柄(2021年産)

◆ワキシーファイバー
●農研機構作物研究所(現 作物研究部門)が2014年度に開発した、極高β-グルカン含量のモチ性二条性の品種です。
●生育特性や収量性は「ビューファイバー」とほぼ同等で、穀粒も同様に"しわ粒"です(写真5)
●β-グルカン含量は「ビューファイバー」よりさらに1%程度高く(図4)、健康機能性が高く、高付加価値の新規用途食品向け素材として使用されています。
※愛知県で産地品種銘柄(2021年産)

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写真5 穀粒の外観 左から ビューファイバー(しわ粒)、ワキシーファイバー(しわ粒)、ゆめさきぼし

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◆フクミファイバー
●2018年度に育成された、極高β-グルカン含量のモチ性六条裸麦品種です。
●通常の"もち麦"品種のさらに2倍程度のβ-グルカンが含まれます(図8)
●極高β-グルカン含量で穀粒の充実は通常の六条品種より劣りますが、「ビューファイバー」や「ワキシーファイバー」のような"しわ粒"ではないので(写真6)、麦ごはん用に精麦利用することができます。
●「キラリモチ」と同様に極低ポリフェノール含量の特性も合わせ持ち、加熱後も変色しにくいため、麦ごはんのほか、新規用途の健康機能性食品素材としても有用です。
●整粒歩合がやや低いですが、収量性が優れるので整粒収量は「イチバンボシ」より高いです。
●生育環境によって倒伏しやすい欠点があるので、リスクを減らすために冬期に複数回の踏圧を実施することが望ましいです。
●兵庫県・岡山県内および九州北部地域で作付けされていますが、健康機能性成分がたくさん含まれる画期的な品種として、今後の普及拡大が期待されます。

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写真6 穀粒の外観 左から フクミファイバー、イチバンボシ、ワキシーファイバー

品種選びのポイント

●近年はさまざまな生育特性や品質特性の品種が育成されているので、各品種の特性を把握して、生産地や用途に応じて品種選定してください。
●以前の裸麦品種はウルチ性の六条種のみでしたが、近年は「ダイシモチ」「キラリモチ」「ワキシーファーバー」「フクミファイバー」のようなモチ性品種や、「ユメサキボシ」「キラリモチ」「ビューファーバー」「ワキシーファーバー」のような二条種が育成され、普及しつつあります。
●現在普及している六条裸麦品種の播性は秋播型、二条裸麦品種は春播型です。ともに温暖地での秋播き栽培が可能ですが、春播型の品種は寒冷地や標高が高い地域での栽培は適しません。また、耐寒雪性を有する裸麦品種はないので、根雪がある寒冷地での秋播き栽培はできません。北海道(や準ずる気候の地域)では、春播型品種のみ春播き栽培が可能です。
●モチ性裸麦品種を奨励品種(準奨励品種や認定品種を含む)にしている県は少ないので、モチ性品種を選定する際は、加工や販売先についても考慮する必要があります。
●極高β-グルカン含量の「ビューファーバー」「ワキシーファーバー」は、これまでにない"しわ粒"の品種なので、農産物検査で等外・規格外とされる可能性があります。同じく極高β-グルカン含量の「フクミファイバー」も従来品種と比べて穀粒の充実がやや劣るので、等級や品質ランク区分が下がる可能性があります。これらの品種は従来の流通に乗せる作付けではなく、高付加価値品種として6次産業や契約栽培による作付けが適しています。
●本項で紹介した裸麦品種のうち、選択対象となると考えられる品種の主な特性などをまとめた表を、参考にしてください。

表 主な裸麦品種の特性など
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●各裸麦品種について詳細を知りたい場合は、農研機構西日本農業研究センターの裸麦育種担当に、種子の入手に関しては、各品種の育成地にお問合せください。

執筆者
長嶺敬
農研機構 近畿中国四国農業研究センター 大麦はだか麦研究チーム

吉岡藤治
農研機構西日本農業研究センター 善通寺研究拠点

(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)

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