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麦・大豆

麦編 施肥基肥

(2021年 9月 一部改訂)

はじめに

●イネは土でとり、ムギは肥料でとるといわれるほど、麦類にとって肥料は重要です。
●基肥では、植物の多量元素であり肥料三要素である「窒素」、「リン酸」、「カリウム」を施用するとともに、必要に応じて、堆肥などの有機物やpH矯正資材などを投入します。

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小麦の播種作業(基肥を施用した圃場)

適正施肥料の判断

「窒素」
●収量が多いほど、収穫期までに吸収する肥料成分の量も多くなります。関東のめん用小麦品種「さとのそら」を用いた研究では、収量400kg/10a時の収穫期の全窒素吸収量は約10kgN/10a、600kg/10aの時は約20kgN/10aでした。
●目標収量を達成するのに必要な窒素吸収量と、土壌からの供給量を推定し、適性施肥量を判断するのが理想的です。しかし、水稲作では葉色や土壌の窒素無機化法を用いた窒素栄養診断等が確立されているのに対して、麦類では一部の地域を除いて確立されていません。
●そのため、地域や作付体系等により決められた適量を施肥することが基本となります。

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 収量と収穫期の全窒素吸収量の関係の一例
 品種は関東のめん用小麦品種「さとのそら」。
 2015年から2020年に、茨城県つくば市にある農研機構 中日本農業研究センター試験圃場で行った栽培試験の結果から作図。


「リン酸」
●土壌のリン酸濃度は、一般的に、畑では黒ボク土の圃場で10~100mg/100g、その他の圃場では10~75mg/100gが望ましいとされています。
●作土に下層土が混入した造成初年度の圃場など、リン酸が少ないことが予想される場合はリン酸を多めに施用します。
●リン酸は利用率が低い(土壌中でアルミニウムや鉄と結合して不溶化される)ため、植物の吸収量より多く施肥されてきた結果、長年の多投入によって土壌へのリン酸蓄積が言われています。
●加えて、最近の肥料価格高騰を受けて、リン酸肥料減肥のための土壌診断手法の研究が進められています。

「カリウム、カルシウム、マグネシウム」
●水田転換畑では、排水不良で湿害を受けるとカリウム不足になりやすいのですが、排水対策に加えて、カリウムを多めに施肥すると生育不良が改善されると言われています。
●カルシウム、マグネシウムは、作付けごとに施肥する必要はありませんが、土中に十分あることと、カリウム、カルシム、マグネシウムのバランスがよいことが大切です。

適正な基肥施用

「窒素」
●施肥基準は地域、麦種、品種、用途、作付体系等によって大きく異なります。めん用小麦の場合、総窒素施用量は6~18kgN/10a、うち基肥での施用量は4~8kgN/10aの範囲です。

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 めん用小麦の地域ごとの窒素施肥基準の例

●窒素肥料として用いられるアンモニア態窒素は、畑条件では時間の経過とともに硝酸態窒素に変化し、地下に流れ出て失われます。
●麦類の基肥窒素の利用率は低く、20~40%とされています。基肥での施用量は、多くても総窒素施用量の50%程度とし、残りは必要時期に応じて分施(追肥)します。
●子実タンパク質含有量を上げるには、基肥でなく、生育後半の止葉期から開花期頃の窒素追肥が有効です。

「リン酸」
●リン酸の標準的な肥料施用量は、10aあたり7~9kgです。
●リン酸、カリウムは、土壌中であまり移動しないので、基肥で全量施用します。
●リン酸は、根の生育促進などの初期生育や寒地での耐寒性、分げつ数、開花結実などに影響します。
●麦類のリン酸吸収力は水稲と比べて少ないため、土壌のリン酸濃度を水田より高くする必要があります。
●生育の早い段階の吸収力が高いため、生育前半に十分に吸収できる基肥施用が重要です。

「カリウム」
●カリウムの標準的な肥料施用量は、10aあたり8~10kgです。
●カリウムは肥料要素のうちもっとも吸収量が多く、土壌からの収奪量も多くなります。
●茎葉に多く含まれ、収穫残さの投入によって圃場に再供給されるために、収穫により持ち出された量を補う施肥が必要になります。

「施用の位置」
●肥料成分を効率よく利用するためには、基肥を施用する位置が重要です。
●リン酸のように移動しにくい成分は、特にリン酸吸収係数が高い火山灰土壌では、種子の近くに局所施肥すると増収するという報告があります。
●カリウムは、比較的多く土壌に吸着されているため、施肥位置による違いは少ないと考えられます。

「その他の注意点」
●微量要素は、堆肥などを定期的に投入することで、十分に供給されていると考えられます。
●ただし、土壌のpHが低すぎたり、高すぎたり、塩基のバランスが崩れていると、微量要素をうまく吸収できずに欠乏症となる恐れがあるので、注意します。
●播種前に堆肥を施用して、微量要素の補給だけでなく、有機物を補給することで、土壌の保肥力や物理性を改善するようにします。

肥効調節型窒素肥料の利用

肥効調節型窒素肥料を用いた全量基肥施用技術や、初めの追肥で肥効調節型肥料を施用して後期の追肥を省略する技術が開発されており、一部の麦作で活用されています。
●肥効調節型肥料には、施肥後すぐに一定の割合で窒素肥料を溶出するリニア型と、施肥後しばらくは溶出が抑制された後に溶出を開始するシグモイド型があります。
●肥効調節型肥料を25℃水中に置いたときに成分の80%が溶出するのに必要な期間(日数)を溶出期間といい、商品名に含まれる数字(たとえばLP30の「30」)などにより示されています。
●温度によって成分が溶出する期間が変化し、低温になるほど溶出がゆるやかになるため、冬期のコムギ作付け期間中では、実際の溶出期間が長くなります。 
●地域によって気温、降雨などの気象条件が異なるため、条件にあった溶出期間、溶出パターンの肥料を選ぶようにします。

執筆者
木村秀也
農研機構 中央農業総合研究センター 大豆生産安定研究チーム

松山宏美
農研機構 中日本農業研究センター 転換畑研究領域

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