麦編 作付体系
- はじめに
- 輪作による雑草害の軽減
- 連作に伴う病害回避のための麦類の作付体系
- 麦の生育に適した排水性の高い圃場作りを目指した作付体系
- 作付体系を見通した施肥体系で地力と施肥効率の向上を
- 効率的な施肥体系の導入
はじめに
●小麦や大麦などの 麦類は、冬場に栽培されるため、作付体系に組み込むことで耕地の利用率を高め、生産者の収益性、そして食料自給率の向上に役立つ重要な作物です。
●他の作物と組み合わせて、麦の連作による雑草害や病害の発生を回避するとともに、効率的な作業体系、施肥体系を構築する必要があります。
●水田輪作体系においては、土壌の畑地化を図る排水対策を見越した作付体系も重要です。
輪作による雑草害の軽減
●水田転換畑で、田畑輪換を行わないで麦作を続けていると、畑雑草が優占してきます。
●特に小麦や大麦の近縁種のネズミムギやカラスムギは、麦用の除草剤での防除が困難です。
左上 :ネズミムギ / 右下 :カラスムギ
●しかし、これらの雑草の種子は湛水によって死滅させることができるので、水稲栽培と組み合わせた作付体系や休作時の湛水管理が有効になります。
●ソバは、収穫時の落ち種が翌春に出芽、結実し、麦の収穫物に混入すると大きな問題になります。次に麦の栽培を予定している畑では、ソバの栽培は行わないような作付順序にする必要があります。
連作に伴う病害回避のための麦類の作付体系
●小麦や大麦を毎冬作付けすると、土壌伝染性の病害が発生しやすくなります。
●土壌伝染性の主な病害には、コムギ縞萎縮病、オオムギ縞萎縮病 、麦類萎縮病、立枯病などがあるほか、なまぐさ黒穂病や雪腐れ病は、麦の収穫残渣を介して感染することがあります。
左上 :コムギ縞萎縮病 / 右下 :立枯病
●ウイルスによって感染する萎縮病類は、麦を数年程度休作しても十分な効果がありません。抵抗性品種への切替や、縞萎縮病では小麦と大麦の麦種変更が必要です。
●近年育成され、現在広く作付けされている品種の多くは、コムギ縞萎縮病、オオムギ縞萎縮病に対して抵抗性を持っていますが、「きたほなみ」、「農林61号」、「ナンブコムギ」、「カシマムギ」、「シュンライ」等の品種はこれらの病害にかかりやすいため、注意が必要です。
●コムギ縞萎縮病の病原ウイルスの増殖適温は10℃なので、播種時期を遅らせることで、生育初期の発生を抑制することもできます。
●萎縮病類は、排水性が悪い圃場で発生が助長されるので、各種の排水対策徹底や後で述べる排水性を高める作付体系導入により、被害の軽減が期待できます。
●一方で、立枯病やなまぐさ黒穂病の病原菌は湛水によって死滅させることができるので、水稲を組み込んだ田畑輪換が有効です。
麦の生育に適した排水性の高い圃場作りを目指した作付体系
●麦類は、原産地の中央~西アジアの乾燥した気候に適応した作物なので、保水性を重視した水田での栽培では湿害を受ける場合があります。
●したがって、積極的な排水対策を実施して、土壌を乾かすとともに、その物理性をできるだけ畑の状態に近づける必要があります。
●播種前の排水対策については、別項の「排水対策」をご覧ください。
●ここでは、麦の排水対策を考慮した前作物の水稲の管理法や、より効果が期待できる輪作体系について述べます。
●多くの水田で水稲栽培を行う場合、後作に麦の作付けを予定している水田から水稲の植え付け作業を始め、また早生品種を作付けるなど、できるだけ収穫時期が早くなるようにし、水稲収穫後に圃場を乾かす期間を長く確保します。
●水稲の中干しを強めにすることで、土壌中に亀裂の形成を促進させ、麦作時の排水性を高めます。
●水稲収穫後は、早めに明渠施工などの排水対策を行うことで、土壌の畑地化を促進します。
●後作に麦の作付けを予定している水田では、乾田直播栽培や無代かき移植栽培を行うことで、代掻きを行う移植栽培や湛水直播栽培に比べて、排水性が高まるとともに、耕耘したときの砕土性が良くなり、麦の出芽率や除草剤の効果が高まります。
代掻き後/乾直後
●麦前の夏作に大豆やトウモロコシなどの畑作物を作付けると、水稲後と比べて、やはり排水性や砕土性が向上します。
●また、畑転換時に毎回実施する明渠や弾丸暗渠の施工、深耕等の排水対策を簡略化することができ、作業効率の向上にもつながります。
●したがって、従来の水稲-麦-大豆の2年3作のような短期輪作体系を、畑作物を2~4年程度続けて作付ける中期輪作体系に変更することも検討してください。
作付体系を見通した施肥体系で地力と施肥効率の向上を
●「麦は肥料で穫る作物」と云われていて、多収のためにはしっかりと施肥を行う必要がありますが、農水省が発表した「みどりの食料システム戦略」では、化学肥料の削減がうたわれています。
●したがって、その実現のためには、有機資材を活用したり、肥料の利用効率の高い施肥体系が重要になってきます。
●麦類が吸収する窒素は、生育が進むほど土壌から供給される窒素の割合が高くなるとされているため、地力を高める取り組みが重要です。
●そのためには、堆肥の投入のほか、緑肥作物や収穫残渣の多いトウモロコシ等を組み入れた輪作体系が有効です。
●また、肥料の利用効率を高めるためには、健全な根をしっかり張らせることが重要であり、そのためには上述したような排水性の良い圃場作りが必要です。
●夏作で畑作物を作付けすると土壌中の有機物が分解して、結合していた窒素が作物に吸収されやすい形に変化するため(乾土効果)、麦栽培時の窒素施肥量を減らすことが可能になります。
●ただし、それだけでは土壌中の有機物は減る一方になるので、やはり前述したような地力を高める輪作体系の導入が前提になります。
●一方で、水稲-麦-大豆の水田輪作体系の中で、水稲をリン酸とカリを含まない肥効調節型肥料のみで栽培したり、一部の地域では大豆を無施肥栽培としていることがありますが、長期的には土壌中のリン酸とカリが不足してくることが予想されます。
●このような場合は、例えば土壌中の移動が少ないリン酸については麦の基肥で増施し、またカリは麦自体の要求量も大きくなる茎立期の追肥(穂肥)で増施するなど、輪作体系を通じて肥料分の過不足がない施肥体系とすることが必要です。
渡邊和洋
農研機構中日本農業研究センター転換畑研究領域栽培改善グループ
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