大豆編 播種前の作業Ⅱ 土づくりと地力の維持
有機物の管理
「堆肥の施用」
●堆肥を施用すると、生育期間中に必要な養分の供給ができます。
●土壌の孔隙(こうげき)を増やし、保水力の向上や、湿害の回避にも効果があります。
●孔隙の多い土壌では、根粒の働きの良い状態が続きます。
●堆肥は、数年間連用することで、肥効も安定します。
「冬作緑肥の利用」
●緑肥によって、手軽に有機物を補給することができます。
●ヘアリーベッチやレンゲ等のマメ科緑肥と、エンバク等の非マメ科緑肥があります。
●マメ科緑肥は、大豆と同様に根粒で窒素固定を行うので、土壌の窒素を増やします。
●すき込まれたマメ科緑肥は分解が早いため、土壌中の硝酸態窒素濃度が高くなり、大豆根粒の着生を妨げることがあります。
●マメ科緑肥をすき込んだ圃場で、大豆根粒の着生がほとんど無いような場合は、マメ科緑肥の作付けは止めて、非マメ科緑肥に切り替えます。
●非マメ科緑肥は、マメ科緑肥と異なり、窒素過多になることはありません。
●施肥した窒素が、すき込まれた緑肥に取り込まれ、大豆の生育初期に窒素不足となることがあるので、緑肥を利用する時は、施肥窒素を多めに施用します。
●緑肥は、すき込み前に、あらかじめフレールモア等で裁断しておきます。
フレールモアによるエン麦の裁断
●降雨で播種作業に支障が出ないように、緑肥のすき込みと大豆の播種は、できるだけ続けて行います。
●緑肥がすき込まれると、土壌のpHが低下するので、石灰資材を施用します。
「水田輪換畑への緑肥作付け」
●緑肥は湿害に弱いものが多いので、水田転換畑では、周囲明渠を作溝する等の排水対策を行います。
●この対策は、翌年の大豆作の排水対策につながります。
●水田輪換畑では耕盤層の透水性が小さいので、鋤床上に滞水しないよう注意します。
●秋耕して緑肥を播種する場合は、浅く耕起して、鋤床が大豆作と同じ深さにならないようにします。
●基本的に、緑肥には施肥の必要はありません。
●水田転換畑では、湿害により、マメ科緑肥であっても窒素欠乏になることがあります。
●排水対策に問題が無い場合、窒素欠乏は一時的な症状なので、1~2kgN/10a程度の追肥を行うと回復します。
●冬作緑肥が越冬期間中に窒素欠乏になった場合は、越冬期間中ではなく、越冬後に追肥します。追肥の時期は、麦作の越冬後を目安とします。
施肥上の注意
「施肥方法」
●根粒の活性をよい状態に保つ最適な土壌pHは、6.0~6.5程度です。
●窒素肥料の施肥は、必要量にとどめます。
●多量に窒素肥料を施用すると、根粒菌の着生が妨げられ、根粒の働きが悪くなるので注意します。
●特に、初期生育が旺盛で蔓化するような圃場では、基肥窒素肥料は省きます。
●カルシウムを多量に吸収するため、石灰資材を施用し、酸度矯正を心がけます。
●光合成に必須の養分であるマグネシウムは、土壌診断の結果に応じて苦土石灰を施用し、補います。
●要求量が比較的高いリン酸、カリは、窒素に比べて施用量が多くなります。
●黒ボク土等の火山灰由来土壌では、リン酸欠乏に注意します。
「前作との関係」
●連作すると、シスト線虫や黒根腐れ病等が発生しやすくなります。
●湿った条件で生成された土壌が多い水田転換畑での連作は、肥沃度が下がったり物理性が悪化しやすいので、輪作を行うようにします。
●これらの障害がみられない地域の水田転換畑のうち、埴土のように土性の細かい土壌では、畑地化が進むと砕土率が向上して、出芽・苗立が安定する等の利点があります。
●麦稈がしっかりとすき込まれていない麦作後では、播種精度が低下するため、必要に応じて裁断処理をします。
●すき込まれた麦稈に施肥窒素が取り込まれて生育初期の葉色が低くなる地域では、施肥窒素を少し多くします。
黒根腐病で葉が枯れ始めた大豆(赤枠で囲った中は株基部)
「大豆の根粒窒素固定」
●大豆は、根粒により空気中の窒素ガスを窒素固定して、栄養源として利用します。
●この根粒窒素固定を、最大限に活用することが重要です。
●基肥として多量に窒素肥料を施用すると、根粒菌の付きが悪くなり、また根粒の働きも悪くなるので注意します。
●根粒を育てる観点からは、施肥よりも、土づくりに重点を置くようにします。
大野智史
農研機構 中央農業総合研究センター北陸水田輪作研究チーム
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