トマトの施設栽培の作業体系
作型
●九州地域の秋冬~春トマトの主な作型は、抑制作型では定植が早い地域で8月上旬から始まり、9月中旬頃まで定植されます。促成作型は主に9月下旬から10月頃に定植されます。
●収穫は抑制作型で10月上旬から始まり、2月上旬頃まで、抑制長期どり作型では6月まで収穫されます。促成作型では12月から7月上旬頃まで続きます。
作型の特徴
●このような作型では、生育前半及び春先以降は高温、冬季は低温日照不足での栽培となり、台風被害や秋雨による気象災害も受けやすくなります。
●とくに育苗期から定植期にかけては高温になり、低段花房の着果節位の上昇や着果数減少、生理障害果等が発生しやすくなるため、換気の徹底、遮光処理や循環扇を利用した昇温対策が必要です。
●さらに栽培が長期におよび、全期間を通して黄化葉巻病や土壌病害ほか病害虫の発生が多い作型であり、圃場環境の整備と計画的な防除が重要です。
圃場の準備
「圃場周囲」
●圃場周囲は、病害虫対策として除草を行い、圃場管理に努めるとともに、暗きょやハウス周囲の明きょを設置して、排水対策に努めます。
「太陽熱消毒」
●収穫終了後は、害虫対策としてハウスの密閉処理(蒸し込み)及び土壌病害等対策として太陽熱消毒を実施します。
「前作で土壌病害が発生した場合」
●前作で土壌病害が発生した場合は、太陽熱消毒及び薬剤による土壌消毒を行います。
●その後、土壌水分が適切な時に耕起、堆肥等の土壌改良材を投入し、土壌分析結果を踏まえて基肥を施用、畦づくりを行います。
●地下水位の高いところでは高畦とし、畦には白黒マルチを張ります。遅い定植では、黒マルチを利用します。気温が高い時期は定植後、マルチを畦肩まで上げ、気温が下がってからマルチを下げます。
育苗
●自家育苗と購入苗を利用する体系があります。
●自家育苗では、土壌病害対策として台木への接ぎ木が主流となっています。暑い時期の接ぎ木作業になるので、簡易養生施設を利用した幼苗接ぎ木や、呼び接ぎが行われます。
●購入苗は、セル苗を購入してポットに鉢上げする二次育苗が主体です。
●どちらも高温期の育苗で、苗が徒長しやすいため、換気の徹底と適正なかん水管理が重要です。
定植
●抑制作型では、第1段花房の開花数日前、促成作型では第1段花房の第1花開花直前~開花頃に定植します。
●8月から9月の高温期の定植は早朝または夕方に行い、植え付けは浅植えにします。
●定植後は鉢回りに十分かん水し、活着までは極端なしおれがないように、こまめにかん水して活着を促進し、その後はひかえめにします。
施肥・かん水
●第1回目の追肥時期は、草勢をみて調整しますが、第1段花房がピンポン玉程度、第3段花房開花時期頃に、有機質肥料等を10 a当たり窒素成分で3㎏程度を目安に肩施肥または穴施肥として施します。また、草勢に応じて液肥を施用します。
●かん水は、気温や草勢、生育ステージに応じて行います。pF値(※1)1.8~2.2程度をかん水開始の目安にして、天候に応じてかん水量を調整します。
●なお、本圃の地下水位によってかん水量、かん水時期とも異なりますので、本圃の土壌条件に合ったかん水管理が重要です。
※1 土壌水分計(テンシオメータ)の値
栽培管理
「誘引」
●抑制無加温栽培では約5段花房収穫、抑制加温栽培では約7段花房前後まで収穫されるので、早めに誘引します。
●促成作型では栽培が長期におよぶため、最初は立てて誘引し、その後は斜めに誘引していきます。
●できるだけ茎葉が重なり混み合わないように注意します。最上段花房の上に2葉を残して摘心します。
「摘果」
●摘果では第1、2段花房は3~4果、それ以降は4果を目安に摘果して、変形果等、生理障害果は早めに除去します。
●促成作型では厳寒期の低温、寡日照時期を考慮して、草勢に応じた栽培管理が重要です。
「交配」
●ホルモン処理では、各花房3~4花開花時に、高温期は2~3日ごと、低温期は4~5日ごとを目安に、生長点部分にかからないように処理します。
●重複処理は空洞果等の原因になるので注意が必要です。
●処理時期が早すぎると花抜けが悪くなり、灰色かび病の原因となることがあります。
●マルハナバチを利用する場合は、第1段~2段花房は確実に着果させるためにホルモン処理を行います。
●導入後はバイトマーク(※2)を必ずチェックし、5~7日経過後に子房の肥大を確認し、肥大していない場合には、すぐにホルモン処理を行います。
●ハウス内はマルハナバチの活動に適応した温度、湿度等の環境を心がけてストレスをかけないようにします。
●農薬の散布は、殺虫剤は安全日数を厳守し、殺菌剤も忌避効果のあるものに注意します。
●セイヨウマルハナバチの利用には使用許可が必要です。また、ネット展張など、野外への逃亡防止策を実施します。
●クロマルハナバチ利用の場合にもネットの展張等、同様の対策が必要です。
※2 マルハナバチが受粉させたあと
「摘葉、玉出し」
●腋芽の除去は病害伝染を回避するため、晴天の日に実施し、摘葉は収穫花房の下2枚を残して行います。ただし、下葉が込み合っている場合は、病害虫を抑制するため早めに除去します。
●低温、寡日照期には玉太り、着色を良くするため、玉出しを実施します。
病害虫防除
「黄化葉巻病対策」
●育苗期の黄化葉巻病(タバココナジラミ)対策として、本圃施設と同様に、開口部に防虫ネット(目合い0.4mm以下)の展張や黄色粘着板の利用、反射マルチ等を圃場周辺部に設置して、コナジラミの侵入を防止します。
●さらに育苗に紫外線カットフィルムを利用することで侵入防止効果が高くなります。施設内が高温になりやすいため、換気の徹底、遮光資材、循環扇および細霧冷房の利用などの昇温対策が重要です。
●黄化葉巻病対策は「入れない」「増やさない」「出さない」対策を徹底します。特に育苗期に徹底することで、初期の病害発生を抑えることができ、収量安定につながります。
●防虫ネットの利用や計画的な防除は基本ですが、最も効果的な対策は、地域全体で設定したトマトの作期を遵守して、地域内のウィルス密度を低下させ、収穫終了後のハウスの密閉処理を徹底して、コナジラミ等のハウス外への飛散を防止することです。
「地上部の病害虫」
●地上部の病害虫として、葉かび病、灰色かび病、すすかび病の発生があるので、薬剤散布だけでなく、効率的な換気や摘葉等での除湿対策及び葉かび病抵抗性品種を利用します。
●害虫ではオオタバコガ、マメハモグリバエ、コナジラミ等が発生するので、防虫ネット利用や適期薬剤散布で早めに抑制します。
「地下部の病害」
●地下部の主な病害では、萎凋病、青枯病、褐色根腐病等があるので、収穫終了後の太陽熱消毒や薬剤による土壌消毒を行います。
●また、土壌病害抑制のため、発生する病害に応じた台木の選択が重要となります。
熊本県農業研究センター農産園芸研究所野菜研究室
三原順一
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