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飼料作・畜産

飼料作・畜産編【3】 イネWCS(稲発酵粗飼料)

(2020年3月 一部改訂) 
(2014年7月 一部改訂) 

品種と栽培上の注意点

●稲発酵粗飼料(以下、=イネWCS/ホールクロップサイレージ)とは、イネの子実が完熟する前に穂部(籾)と茎葉部を同時に収穫し、サイレージ化した粗飼料です。
●イネWCS用として、各地域に適した多くの品種(以下、専用品種)が育成されており、専用品種は、「茎葉多収型品種」と、茎葉も子実も多く飼料用米を中心にWCS用にも利用できる「兼用型品種」に分けられます。なお、これらの品種は、以下の極短穂型品種に対して、従来型品種と呼ばれています。
●イネWCSは、籾殻を有しているため、籾の消化率が低いことから、茎葉多収型品種の中でも、近年特に、極短穂で籾割合が非常に低く、しかも、茎葉部の糖含量と消化性の高い「極短穂型品種」が注目されています。
●現在、晩生の「たちすずか」や中生の「たちあやか」、さらに極晩生の「つきすずか」が市販化されており、早生系統の極短穂型品種の育成も進められています。

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各地域に適したWCS用の専用品種

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「たちすずか」の草姿

●専用品種は食用品種と比べて、種子の大きさが異なる場合があります。特に茎葉子実多収型品種では、食用品種よりも種子が大きいため、籾の千粒重を確認して播種量を設定することが必要です。
●専用品種の多収能力を最大限に活かすためには、食用イネの1.5~2倍程度の肥料が必要です。
●農薬の使用にあたっては、「稲発酵粗飼料生産・給与マニュアル」に掲載されている薬剤を使用します。
●刈り取り適期は糊熟期から黄熟期で、出穂後30日を目安として乳牛向けではやや早めに、肥育牛向けではやや遅めに収穫します。
●なお、「たちすずか」などの極短穂型品種は黄熟期にかけて糖含量が高くなり、その後も高い水準を維持する特徴があるため、これらの品種については、早刈りは避けた方が高品質なイネWCSができます。

収穫調製

●収穫調製の作業体系には、牧草用の作業機を利用した体系と、専用収穫機や汎用型飼料収穫機による体系があります。
●牧草用の作業機を利用した体系は、モーアで刈り落とし、テッダレーキなどで拡散(反転)して集草列をつくり、トラクター牽引式や自走式のロールベールで梱包し、ベールラッパで密封する体系です(牧草収穫機体系)。
●牧草収穫機械体系は、大型機械を用いるので、大区画圃場では効率的な作業が行えますが、収穫時に地耐力が得られように早期落水し、しっかりと地面を固めておくことが必要です。また、子実(籾)の脱粒や土砂の混入を避けるため、強度な反転作業は避けてください。
●牧草収穫機体系に比べて、圃場条件に影響されることなく、WCS用イネを立毛状態のままダイレクトに収穫してロールベールに梱包し、密封作業を行うことができる体系が、走行部にゴムクローラを装着した自走式の専用収穫機体系や汎用型飼料収穫機体系と呼ばれています。
●専用収穫機には、コンバイン型とフレール型と呼ばれる2機種が市販化されていましたが、フレール型専用収穫機は、現在では販売が中止になっています。コンバイン型専用収穫機は、自脱型コンバインの刈取部をそのまま利用していることから、長稈品種には不向きであり、2011年度から市販されている長稈品種対応タイプでも、稈長で150cm程度が限界です。

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長稈対応のコンバイン型専用収穫機

●専用収穫機体系における密封作業は、軟弱な水田での作業を考慮して、走行部にゴムクローラを利用した自走式ベールラッパで行います。本機にはオプション装備として、ロールベールをターンテーブルに積載した後、コントローラの測定スイッチを押すと、自動的にロールベールの重さを計量して表示される機能がついています(計量法に定める特定計量器ではない)。

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ディーゼルエンジン仕様の自走式ベールラッパの作業状況

●牧草用ロールベール体系、専用収穫機や汎用型飼料収穫機体系とも、ロールベールを密封する場合のフィルムの巻き数は、6層巻を基本として、特に長期保管する場合には8層巻にすることで、良質な発酵品質が保たれます。また、安定した品質を確保するためには、乳酸菌を添加します。特に、寒冷地や極短穂品種のサイレージ調製に適した畜草2号も市販化されています。この畜草2号は、酢酸を生成し、バンカーサイロに調製する場合やロールベールサイレージを開封した後の2次発酵(変敗)防止に効果があります。

保管と流通

●密封したロールベールは、その後の搬出作業を考慮して、農道付近に集積しておくことが必要です。
●ロールベールを2段積みにする場合は、荷崩れしないように注意します。
●近年では、地域内の流通だけでなく、地域や市町村を超えた広域的な流通も始まっており、広域流通においては、輸送業務の外部委託も必要になってきます。
●輸送経費を低減するためには、大型トラックでの大量輸送が必要です。そのためには、ロールベールの一時保管場所(ストックヤード)を設けることが必要です。ストックヤードを設置するにあたっては、大型トラックへのロールベール荷積みができ、浸水しない場所を選定することが必要です。
●ストックヤードでは、多くのロールベールが保管されることから、サイレージ臭の地域住民への配慮も必要になってきます。
●ストックヤードとしては、水田圃場周辺の遊休地や米麦共同乾燥施設等が考えられます。

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 :遊休地を利用したストックヤード
 :大型トラックを用いた輸送

給与

●収穫・密封後、3~4週間すると乳酸発酵が安定し、芳香を伴った良質なサイレージができ上がり、家畜に給与することができます。
●イネWCSは乾物中に粗蛋白質が約7%、NDFが約50%、TDNが約55%含まれています。その中でも「たちすずか」などの極短穂品種には、TDNが約60%も含まれています。給与にあたっては、乳用牛、肥育牛、繁殖牛などの用途によって、飼料計算に基づいて適正な給与量を決めます。

執筆者
浦川修司
国立大学法人山形大学農学部附属やまがたフィールド科学センター
エコ農業部門 教授

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