プール育苗の失敗事例と対策
はじめに
●現場の農家を巡回すると、プール育苗にはさまざまな様式が見られ、いろいろな障害等が見受けられます。
●プール育苗とは、本来、出芽・緑化終了後の水管理を、プール内に水を入れて育苗する方法です。
●プール育苗では、徒長以外の失敗事例はとても少ないのですが、現場では無加温出芽方法での出芽不良が極めて多く見受けられます。
●ここでは、農家の経験談や、プール育苗の試験研究成果等から、主な失敗事例と、その原因及び対策について紹介します。
無加温出芽方式における出芽不良
「ハウス全体の育苗箱が出芽不良になりました」
<被覆資材の密閉不良が原因>
●シルバーポリトウ等の被覆資材の密閉が悪く、過乾燥になったのが原因です。
●周辺に板等の重しを置き、被覆資材を、しっかり密閉します。
●床土が過乾燥になり、どうしても水をかける必要がある場合には、育苗箱の底から1cm程度の深さの水をプールにいれ、底面給水で水を補給します。
●出芽前には、ジョロ等で覆土の上から水をかけないこと。
床土の過乾燥
<加湿が原因>
●出芽前にプール内に水を入れると、加湿状態になって出芽不良になります。
●原則として、出芽前にはプールに水を入れないようにします。
●上記の「どうしても水をかける必要がある場合」の対策は、非常手段です。
出芽前に水を入れた
<ハウス内の高温が原因>
●ハウス内の温度が高温になると、籾が焼けてしまいます。
●ハウス内の温度が35℃以上にならないように、換気をしっかり行います。
●特に、ハウスの屋根のビニールを新しくしたときには、注意します。
●籾が焼けた場合には、ハウス内に異臭がおきる場合が多いです。
ハウスにおける高温障害
<カビの発生>
●被覆資材を除覆したら、白いカビが発生していたということがあります。
●カビを避けるためには、播種前に育苗箱や被覆資材をしっかり洗い、日光消毒等を行っておきます。
●必要に応じて、播種時にカビ対策の薬剤散布等を行います。
●床土に水田土や山土を使用している場合には、土壌消毒を行います。
「ハウスの外側ほど生育(出芽)が不良になりました」
<夜間の低温>
●ハウス内が夜間に低温になったものと思われます。
●特に、足場パイプのように鉄製の資材をプール枠に使用すると、この周辺の温度が低下しやすくなります。
●夜間に保温資材を被覆します。
●低温時には、ストーブ等によりハウス内の空気を循環させます。
●ハウス周辺の50cmくらい内側に、高さ1m位のビニール(HSカーテン)を巡らし、ハウス周辺にたまりやすくなる寒気団をブロックします。
鉄資材のプール枠で出芽不良
<被覆資材の密閉状態>
●シルバーポリトウ等の被覆資材の密閉が悪いと、過乾燥になることがあります。
●被覆資材をしっかり密閉することで乾燥を防ぎます。
「プール枠周辺の出芽が不良になりました」
<空間による高温障害1>
●育苗箱の床土とシルバーポリトウ等の被覆資材との間に空間ができると、高温障害になります。
●特に、プール枠の高さが5cm以上あり、被覆資材を直接プール枠にかけた場合に、高温障害が発生しやすくなるので注意します。
●被覆資材は育苗箱の床土と同じ高さにし、プール枠の内側で密閉します。
床土と被覆資材との間に空間が発生
<空間による高温障害2>
●プールの置き床が余り、育苗箱を並べていない周辺の出芽が不良になることもあります。
●シルバーポリトウ等の被覆資材とプールの置き床との間に空間ができると、この周辺に高温障害が発生しやすくなるため、被覆資材は育苗箱のある部分で密閉し、被覆資材の下に空間を空けない(作らない)ようにします。
置き床に空間が発生し、高温障害
「育苗箱の片側に出芽不良が発生しました」
<育苗箱の傾き>
●播種直後の育苗箱の運搬時に、苗箱が傾き、片側に水が流れ寄ると発生します。
●播種直後に育苗箱を運搬する時は、箱を傾けないように注意します。
●特に、一輪車で運搬する時や、プール置き床に育苗箱を並べる時に、傾けないように気をつけます。
一輪車が傾いて、水が流れる
<被覆資材の重なり>
●無加温出芽において、保温マットなどの被覆資材の重なり部分があると、出芽不良になります。
●被覆資材の重なり部分では、日中の温度が低くなりやすく、出芽が遅れることがあるので、できるだけ被覆資材が重ならないようにします。
水管理の失敗事例
「ビニールに穴が開き、プールに入れた水が半日でなくなってしまいました」
●育苗箱の床土の上まで水が溜まり、プールの水が半日でなくなっても、育苗箱がビニールの上に直接、設置されている場合、床土には相当の水が含まれています。
●気象条件によっても異なりますが、5日間程度、灌水しなくとも良い場合があります。
●プールに毎日、湛水するのをやめて、床土が乾燥したらプールに水を入れる管理に切り替えた方が得策かもしれません。
●この場合、湛水による病害防除効果は期待できませんので、カビやムレ苗の発生等に注意してください。
温度管理による失敗事例
「慣行育苗のように温度管理を行ったら、苗が徒長してしまいました」
<高温による徒長>
●慣行育苗のように、朝方にサイドビニールを閉めた状態にすると、晴天日の午前8時頃にはハウス内の温度は40℃以上になり、しかも水分が豊富なため、徒長しやすくなります。
●特に屋根のビニールが新しい場合には、高温になりやすいので注意します。
<夜間の水温が外気温より高い>
●プール育苗では、夜間の温度は外気温より高く推移するので、慣行育苗に比べ苗が伸びやすくなります。
●プールに水を入れるようになったら、原則として、夜間もサイドビニールを開放状態にします。
●なお、最低気温が低いことが予想され、夕方にサイドビニールを閉めた場合には、翌朝、できるだけ早い時間帯に換気を行います。
「夜間もサイドビニールを開放状態にしたら、早朝、外に霜が降りてしまいました」
●ハウス内では霜の影響はあまりないと思われますが、念のため、できるだけ早い時間帯に苗に灌水し、霜を水で解かします。
●霜注意報が出たり、最低気温が4℃以下になる場合は、夕方に、プールに水をたっぷり入れ、サイドビニールを閉めます。
追肥に関する失敗事例
「育苗初期に追肥したら、プール内の水に藻が発生しました」
●液肥などのようにリン酸の成分が含まれている肥料を施用すると、藻が発生しやすくなります。
●藻が発生しても、苗の生育にはあまり影響しないようですが、発生量が多い場合にはプールの水を抜いて、藻を洗い流してください。
「プール内に肥料溶液を流し込む追肥を行ったら、苗が黄色くなり、移植時の苗の根が褐変していました」
●追肥に硫安や尿素を用いる場合は、1,000培程度、液肥では500倍程度の肥料溶液を作り、それをプール内に流し込みますが、蒸発等でプール内の水が少なくなるにつれ、肥料溶液の濃度が高くなり、根が肥やけをおこすようになります。
●肥料の濃度障害は、硫安が最も起きやすく、次いで、尿素、液肥の順です。
●追肥した溶液が半分程度になったら、水を深く入れるか、追肥後、3日程度経過したらプール内の溶液を捨て新しい水を入れれば、濃度障害は起きません。
肥料による濃度障害
「床土に本田分の肥料を混和(床土全量施肥)したら、育苗後半に苗の生育がおかしくなりました」
●床土全量施肥法は、原則として、畑(慣行)育苗の技術です。
●プール内の水温が高くなると肥料の溶出が多くなり、肥料の濃度障害が発生する場合があります。
●特に、プール内の水が少なくなると、床土内の肥料濃度が極めて高く、根が焼ける場合があります。
●床土全量施肥を行う場合は、プール内の水温が低くなるように管理し、プール内の水が少なくならないようにして注意しましょう。
床土全量施肥における肥料濃度障害の発生
藤井薫
宮城県大河原農業改良普及センター
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