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経営・販売・加工

米粉の食品利用の現状と今後

(2014年6月 一部改訂) 

はじめに

●世界規模で食料問題がますます深刻化していますが、わが国の穀物自給率は40%と極めて低い状態にあります。
●食料の自給率と自給力を高めるために、国産農産物を消費拡大する取り組み「FOOD ACTION NIPPON(フード アクション ニッポン)」が平成20年度より立ち上がりました。その一つの取り組み「米粉を通じて、新しい食の可能性を広げ、日本の食料自給率を向上させる」ことを目的とした活動「米粉倶楽部」が発足しました。
●国内で生産可能な米をパンや麺に利用することは、自給率と自給力を高める有力な方法です。

米粉生産の現状

●平成22年に制定された食料・農業・農村基本計画(第3次)には、米粉の生産数量目標は50万t(平成32年度)と記されています。
●米粉の生産促進に関する施策(新規需要米制度)が行われ、生産量は平成23年度に4万tとなりましたが、その後は減少し平成25年度は2.1万tに減少しました。
●農林水産省は、平成26年度「米粉用米」の取り組み計画認定数量と流通量を2.1万tと見通しており(平成26年3月発表)、市場は拡大していない状況にあります。

米粉原料の特徴と用途

●米の「粉として期待される特性は何か?」に対する回答は一つではなく、粉用として期待される特性(価格、品種=米粒の品質特性、米粉品質、等々)は製品により異なります。
●小麦と米粉の価格差があっても需要を呼ぶには、「特長ある米粉」が必要です。
●原料に多収穫米や製粉しやすい米(品種)を用いることで、米の価格を下げることが必要です。
●低コストで製粉する技術の開発も必要です。
●小麦粉と比較すると、吸油性が低い傾向があり、天ぷらはサクサクとした食感になります。
●米のアミロース含有率は、米粉パンの膨らみ、形や柔らかさ・硬さに影響します。アミロース含有率が高いと形は良いのですが、硬くなりやすいパンとなります。
●一般的に、米粉パンは硬くなりやすい、日持ちがしない特性があります。
●"米"らしさや"米らしい風味"は、米粉食品にとって、小麦との"差別化"が可能な最も重要な項目です。

「一般米」
●新潟「コシヒカリ」や熊本「ヒノヒカリ」、兵庫「山田錦」等々地元産地の米で米粉製品を作ると、地場消費、地産地消になります。
●調整方法や加工方法を工夫することで、一般米の米粉でも、良い製品を作ることができます。

「多収米」
●多収性品種を用いることで、コストを削減することが可能です。
●外観品質が悪く、精米特性は良くないのですが、比較的製粉性が良い品種が多いようです。

(参考)新しい多収品種(農林水産省)


多収米および高アミロース米の米粉パンの形状 (提供:(独)農研機構 作物研究所) 

「高アミロース米」
●アミロース含有率が一般米品種よりも高い「越のかおり」や「ミズホチカラ」「モミロマン」等の米は、米粉麺を作りやすい傾向があります。これらの米粉で作った麺は「麺離れ」が良いようです。
●高アミロース米以外でも、普通程度のアミロース含有率の米にアルギン酸を添加して作った麺は、高アミロース米の米粉麺に匹敵するとの報告もあります。
●今後、米粉麺の消費を増大させるためには、「米らしさ」を感じさせる「米粉麺」の開発や、「米粉麺用専用品種」の育成が必要です。

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高アミロース米で製造した米粉麺は、「麺ばなれ」が良い
(提供:(独)農研機構 中央農業総合研究センター・北陸センター) 
 

「米粉パン専用新品種「ゆめふわり」とその仲間たち」
●米粉パン利用を目的とした品種「ゆめふわり」が、東北農業研究センターから平成25年に育成されました。
●「ゆめふわり」の米からは、微細かつデンプンの損傷が少ない米粉を作ることができます。また、小麦粉と混合して、やわらかく、しっとり、もっちりとしたパンを製造できます。
「農林水産研究成果10大トピックス2013」に採択されました。
●平成26年度から大手製パン企業が、「ゆめふわり」米粉を用いた食パン(米粉25%混合)の製造販売を始めます。
●九州沖縄農業研究センターからも、米粉用品種として「こなだもん」が育成されました(平成25年度)。また、「ゆめふわり」と比較的よく似た特性を有する品種を(独)農研機構が育成中です。

「その他の新形質米」
●「粉質米」特性を有する米では、胚乳組織が粉質状で砕けやすいので、高速粉砕機で粉砕しても比較的でん粉の損傷が少なくなります。
●砕けやすいがために、精米歩留まりが良くない、収量性がやや低いなどの欠点もあります。
●これらの理由から、玄米をそのまま粉砕した「玄米粉」パン(後述)への利用が考えられています。

「パンや麺以外の用途」
●もともと米粉は、主に和菓子原料として使われてきました。
●最近、新形質米を用いて和菓子の試作をしたところ、いろいろな風味のものが得られたとの報告もあります。
●また、米粉は洋菓子材料としても用いられ、シフォンケーキや、ロールケーキ、バームククーヘン等、風味が良く美味しい製品が開発されています。
●中華ソバ、スパゲッティ、餃子、ピザ、天ぷら粉等にも使用されています。「米粉原料の特徴と用途」で記したように、米粉は吸油性が低いので、より低カロリーの天ぷら粉になります。

米粉パンへの利用

●米粉は小麦粉と異なり、パンの骨格となるタンパク質「グルテン」を持っていません。
●そのため、次の3つのいずれかの工夫が、米粉パンの製造では必要となります。
1)米粉に、小麦粉から取りだしたグルテンを、2割程度添加する(グルテン添加米粉パン)
2)小麦粉に、米粉を1~5割程度混合する(米粉混合パン)
3)グルテンや小麦粉を加えず、米粉だけ、ないしは米粉に増粘多糖等の粘性物を添加する(小麦・グルテンフリー米粉パン)

「グルテン添加米粉パン」
●米粉に、小麦粉から取りだしたグルテンを2割程度添加します。
●「朝つゆ」等の低アミロース米を用いて製造した食パンはパンの側面が潰れる傾向(腰折れ)がありますが、しっとり感とモチモチ感が強く認められます。
●「夢十色」等の高アミロース米を用いて製造したパンの形状はしっかりしており、パンの膨らみ(比容積)も高いが、製造後の時間の経過とともに硬くパサパサする傾向があります。
●「コシヒカリ」等のアミロース含有率が中程度の一般的な炊飯米で製造したパンは、これらの中間の特性となります。
●アミロース含有率に加え、アミロペクチン構造も米粉パンの品質に影響し、長い鎖長のアミロペクチン鎖割合が高い米で製造したパンは硬くなる傾向があります。
●損傷でん粉含有率の少ない米粉を使うと、製パンの作業性が良く、膨らむパンができます。


グルテン添加米粉パンにおけるアミロース含有率と米粉パンの形状の関係。低アミロース米(青字)、黒字(中程度のアミロース含有率の米)、高アミロース米(赤字)。
(提供: 新潟県農業総合研究所 食品研究センター) 


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損傷でん粉割合と米粉パンの膨らみの関係
粉砕方法により損傷でん粉割合の異なる米粉が調整できる。これらの米粉で、グルテン添加パンを製造し、パンの比容積(膨らみ)を測定した。


「米粉混合パン」
●小麦粉に、米粉を1~5割程度混合します。
●グルテン添加米粉パンと同様に、アミロース含有率やアミロペクチンの構造は米粉混合パンの形や柔らかさ・硬さに影響します。
●やはりグルテン添加米粉パンと同様に、損傷でん粉含有率の少ない米粉を使うと、製パンの作業性が良くなります。


小麦粉に米粉を3割添加した米粉混合パンにおけるアミロース含有率と米粉パンの形状の関係。低アミロース米(青字)、黒字(中程度のアミロース含有率の米)、高アミロース米(赤字)。(提供: 加工プロ4系)

「小麦・グルテンフリー米粉パン(100%米粉パン)」
●グルテンや小麦粉を加えず、米粉だけ、ないしは米粉に増粘多糖等の粘性物を添加します。
●米粉に米麹を添加して前醗酵することで、膨らみが2倍程度向上した100%米粉パンを作ることができます。タンパク質分解酵素を添加して前発酵させても、製造できます。
(参考)米麹を用いた100%米粉パンの新たな製法技術

●アミロース含有率が15%程度以上の米でパンは膨らみますが、膨らみと食感の両方が良好なパンになるのは20%~25%程度のアミロース含有率の米です。
●製造したパンにはやや発酵臭がありますが、貯蔵タンパク質に変異がある米を用いると醗酵臭が少なくなり、風味も向上します。
●小麦に含まれるグルテンの摂取によりアレルギー症状が生じる方やセリアック病などの疾患の方から、小麦・グルテンフリーの100%米粉パンの開発が求められています。((注)グルテン添加米粉パンや米粉混合パンは、小麦・グルテンフリー米粉パンではありません。グルテンを含みます)
●欧米には、統計によりますが小麦アレルギーで苦しむ方が500万人もいるとことで、このような小麦・グルテンフリー米粉パンが望まれています。

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麹を加えて前発酵させることで、100%米粉パンが膨らむ

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アミロース含有率と100%米粉パンの膨らみの関係

「玄米粉パン」
●損傷でん粉割合が低く、粒度の細かい玄米粉の製粉方法が開発されました。
●玄米粉の製造には精米操作が必要ないので、粉質米や多収米等の米粒が砕けやすい米も利用可能であり、精米コストも削減可能です。
●玄米には、食物繊維やγ--オリザノール、ギャバ等の機能性成分が存在することが知られています。
●調整した玄米粉で製造した玄米粉パン(グルテン添加米粉)は、白米粉パンと同様に膨らみます。
●玄米粉パンには独特の「風味」と「しっとり」とした食感があり、白米粉パンに比べて同等、あるいはそれ以上の味・食感であると評価されています。
(参考)パンの膨らみが向上する玄米粉の作製法および製パン特性

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吸水時間とパンの膨らみの関係
粉砕前の玄米の吸水時間と玄米粉パンの膨らみの関係。玄米を一定時間浸漬吸水させた後に、気流粉砕機で玄米粉を調整した。白米の吸水時間は、2時間である。(提供:(独)農研機構 作物研究所)

粉砕技術、各種操作技術の紹介

●粉砕技術等の進歩によって、米粉の製粉技術は格段に向上しました。
●粉砕には、「気流粉砕機(ジェットミル)」「胴搗き粉砕機(スタンプミル)」「高速粉砕機(ピンミル)」「ロール粉砕機」が開発されています。

「2段階製粉法」
●米は、外周部が固く粗い粉となるため、米を洗米浸漬して圧偏粉砕後に気流粉砕する2段階製粉技術が開発されました。
●これにより、微細な米粉が調整可能になりました。

「気流粉砕機(ジェットミル)」
●湿式の粉砕により、でん粉の損傷の少ない米粉が調整できます。
●酵素・有機酸を用いて細胞間物質を分解し、組織を壊れやすくした後に気流粉砕して、微粉化する「酵素処理製粉」する技術もあります。
●これらの方法で調整した米粉でパンを製造すると、膨らみの良いパンとなります。


気流粉砕機SPM-R430型。右写真は粉砕室内部 (提供:株式会社西村機械製作所) 

「胴搗き粉砕機(スタンプミル)」
●和菓子に適する製粉方法で、比較的損傷の少ない米粉が調整できます。

「高速粉砕機(ピンミル)」
●少量生産に適するが、米粉はやや損傷でん粉の割合が高くなります。

「ロール粉砕機」
●大量生産に適する粉砕であり、やや角張った粉ができます。

「GOPAN(ゴパン)(ライスブレッドクッカー)」
●米粒から米粉パンを作れることが特徴のホームベーカリーです。
●当時の三洋電機(現パナソニック)が平成22年11月に販売を開始し、大ヒット商品となりました。
●米は硬いので水に浸して柔らかくしてから粉砕し、ペースト状にした米粉を用いてグルテン添加米粉パン等を製造します。
●米粉を購入する必要がなく、地元(自前)の米を用いて米粉パンを作る「地パン地消」が可能となりました。

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GOPAN(パナソニックのホームページより)

開発された加工商品

●全国各地のいろいろな米粉製品を紹介します。

「米粉パン」
新潟産コシヒカリ米粉パン
株式会社タイナイ 新潟県新潟市)
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●小麦・グルテンフリー米粉パン
日本ハム株式会社
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●各米粉商品のミックスについて
100%米粉やミックス粉が販売されている。利用は、パンや麺、菓子等。

(参考)各米粉商品のミックスについて

●R10プロジェクト(新潟県 「米粉のお部屋」
使用している小麦粉の10%を米粉で置き換えよう運動です。パンや麺、洋菓子等で行われています。

●「タカナリ」の米粉パン
(ブランジェ・アプレ 埼玉県松伏町)

市販されているグルテン添加米粉パンの例 (埼玉県・松伏町 ブランジェ・アプレの製品) 

「ヒノヒカリ」のコメロンパン
(熊本県立鹿本農業高等学校食品加工部 熊本県山鹿市)

熊本県鹿本農業高校の米粉パン「コメロンパン」  

●山田錦の米粉パン
(山田錦米パン工房 (JA兵庫みらい) 兵庫県小野市) 

「米粉麺」
ときめきラーメン万代島」各店で、米粉ラーメンを提供しています!
(新潟県内米粉ラーメン取扱店の紹介) 

自然芋そば(「越のかおり」の米粉麺)
株式会社自然芋そば 新潟県上越市) 

●べーめん  
有限会社レイク・ルイーズ 岐阜県海津市)

●グルテンフリー米粉麺
小林生麺株式会社 岐阜県岐阜市)
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「米粉を使った洋菓子」 
べジロールトマト
(野菜専門店のパティスリーポタジエ 東京都目黒区) 


スーパーパティシエ辻口 博啓が語る 古くて新しい食材 米粉の新たな可能性(農林水産省) 

今後の展開

●「食料の自給率を高める」ために、一般の消費者は「不味い米粉パン」を買うことはありません。「飼料米」を家畜は黙々と食べますが、ヒトは「美味しい」や「価値(安い、健康的等々)」がないと、買って食べてくれません。価格と美味しさが重要です。
●米粉食品を買ってもらうには、リピーターを増やすことです。もの珍しさで一回は米粉パンを買ってくれても、美味しくなければ、二度と買ってくれません。
●新規需要米制度により、米粉用米の生産体制はできました。
●今後、美味しく安い米粉食品の開発には、ベーカリーも含む食品企業・産業や製粉企業の努力・協力が必要です。農家、製粉企業、食品企業、そして消費者、全てが喜ぶ米粉食品の開発が求められています。

(参考)
「農林水産省のホームページより」
●農林水産省には「米粉の情報」に関するホームページが設けられています。
米粉用米利用の先進事例集(平成26年1月発行)
●aff(あふ)「米粉の可能性」
●FOOD ACTION NIPPON(米粉倶楽部)

「専門書には次のようなものがあります」
米粉BOOK(大坪研一編著、幸書房)
●米粉(萩田敏監修、日本食糧新聞社)
●米粉食品―食品工業における技術開発とその活用法(食品工業編集部編集 (株)光琳)

執筆者 
鈴木保宏
農研機構 作物研究所 稲研究領域(米品質研究分野)

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