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栽培・管理_施肥

化学肥料を低減した飼料用稲栽培 -家畜ふん堆肥の有効利用-

(2014年3月 一部改訂) 

はじめに

●飼料用稲により生産される飼料には、稲発酵粗飼料と飼料用米があります。
●飼料用稲による飼料生産は、水田を有効活用しながら、飼料自給率を向上させる取り組みとして、期待されています。
●耕種農家と畜産農家の連携によって、家畜ふん堆肥に含まれる養分の循環利用をはかり、水田の地力を維持する点からも重要です。

飼料用稲における堆肥施用の考え方

「メリット」
●家畜ふん堆肥には肥料成分が含まれており、化学肥料の代替として、大変効果があります。
●畜産農家と連携して家畜ふん堆肥を利用することで、コストダウンにつながります。
●家畜ふん堆肥の利用により、鉱物資源に依存しているリン酸やカリ肥料の使用量を減らすことにより、資源の循環利用につながります。
●稲全体を収穫する稲発酵粗飼料の生産や稲わらの持ち出しを長く続けると、土壌の生産力(地力)が落ちていきますが、堆肥を施用すると地力を保つことができます。
●具体的には、土壌を柔らかくしたり、土壌に養分を貯めることにより、水稲の活力が維持されます。
●冷害時や干害の際でも影響を受けにくく、安定生産の効果があります。

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ブロードキャスタによるペレット堆肥散布

「注意点」
●散布のための機械装備や労力が必要となるので、耕畜連携の取り組みが大切です。
●成分含有率の確認や、雑草種子が混入していないかなど、堆肥の品質に注意します。

飼料用稲の窒素施肥量の考え方

「飼料用米栽培」
<目標収量の考え方>
●北海道から九州までの全国各地で、飼料用米生産に適する多収品種が育成されています。
●多収品種では、適切な管理を行うと粗玄米収量が800kg/10a以上にもなります。
●飼料用米の目標収量を粗玄米として800kg/10aとして解説します。

<必要な窒素施肥量>
●目標収量(800kg/10a)を得るには、食用米栽培(収量550kg/10a)よりも、稲の窒素吸収量を5kg/10a程度増やすことが必要となるため、食用米に比べて1.6~2倍量程度の窒素施肥を行います。

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同一施肥条件下における食用米品種と多収品種の生育の違い①
左 :きらら397/右 :きたあおば ( ともに窒素成分で基肥10kg/10a)
(提供 :北海道農業研究センター) 


<計算法>
●多収品種は、食用米品種と同じ窒素施肥量でも、土壌からの窒素吸収量が2kg程度多く、100kg/10a程度増収する場合が多いと考えられます。
●したがって、飼料用米で目標収量を得るには、食用米の施肥に比べて3(=5-2)kg/10a程度多く窒素が吸収されるよう施肥量を調節します。
●通常の施肥条件では、化学肥料の窒素利用率は40~50%なので、食用米栽培よりも6~7.5kg/10a増肥すれば、計算上、目標収量が得られます。 
●以上はモデル的な試算です。目標収量や窒素吸収量、窒素利用率などは、品種、地域、土壌、施肥法や施肥資材、田畑輪換などの各栽培条件で違ってくるので、地域の普及指導センターなどの指導機関と相談し、それぞれの条件にあわせて調整するようにします。


同一施肥条件下における食用米品種と多収品種の生育の違い②
左 :日本晴/右 :北陸193号 ( ともに窒素成分で基肥6kg+穂肥3kg/10a)
(提供 :中央農業総合研究センター北陸研究センター)


<飼料用米の多収を得るための窒素の施用法>
●北海道では基肥の増肥が中心ですが、生育後半まで窒素供給を維持するため、被覆尿素を含んだものが望ましいとされています。
●本州以南では、基肥と穂肥(幼穂形成期の追肥)に加えて、分げつ期の追肥が、茎の充実を図り、穂数を確保するのに有効です。飼料用米用に窒素多肥としている場合には、基肥量を減らして、分げつ期に追肥します 。

「稲発酵粗飼料栽培」
●稲発酵粗飼料生産においても、多肥栽培に向く耐倒伏性の専用品種を用いるときには、食用米品種の1.6~2倍の窒素施肥が可能です。。
●稲発酵粗飼料の場合も、分げつ期の窒素追肥は効果があります。多収のために窒素多肥としている場合には、基肥量を減らして、分げつ期に追肥することが有効です。

堆肥の肥効率を用いた肥料代替の考え方

「肥料代替の考え方」
●堆肥中には、窒素、リン酸、カリの肥料成分が含まれています。
●代表的な値を表1に示しました。

表1 堆肥の種類と肥料成分含有率
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家畜ふん尿処理・利用の手引き(1998)畜産環境整備機構より抜粋

●施用前に成分分析して、堆肥の肥料成分含量を知っておくことが必要です。 
●堆肥の成分毎に肥効率が設定されているので、この値から化学肥料相当量を算出します。

表2 家畜ふん尿の新たな窒素肥効率(%)
表2 家畜ふん尿の新たな窒素肥効率(%)
牛ふん系堆肥では5年目以降、豚ぷん系堆肥では3年目以降、鶏ふん系堆肥では2年目以降
西尾道徳(2007)「堆肥・有機質肥料の基礎知識」農文協より抜粋 


<算出例>
●乾物あたり窒素含量が2.2%(現物あたり1.1%)の牛ふん堆肥1tには、11kgの窒素が含まれます(表1の例)。
●牛ふん堆肥の窒素肥効率は30%とされているので、窒素化学肥料の代替量として、3.3kg(=11kg(堆肥中養分含量)×30%(肥効率)÷100)相当となります。
●堆肥中の窒素成分は残効があるので、施用を続けていると肥効率が高くなります。
●肥効率はとても便利な考え方ですが、堆肥や栽培条件で(表2の値とは)違ってくるので、大まかな目安と考えて、水稲の生育等をしっかりと見ながら堆肥の肥効を判断しましょう。

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堆肥散布などに使用するマニュアスプレッダ

「注意点」
●リン酸とカリは、ほぼ化学肥料に匹敵する肥効があると見なします。
●鶏ふん堆肥は、一般に肥料代替効果が高いといわれますが、窒素含量等の違いで窒素成分の肥料的効果にばらつきが大きいので注意します。
●水田への堆肥散布量が計量できない場合は、堆肥舎から持ち出される堆肥の堆積と容積重から、おおまかに推定します(表3)。

表3 堆肥の容積重の設定例(kg/m3)
表3 堆肥の容積重の設定例(kg/m3)
畜産環境整備機構(2004)「家畜ふん尿処理施設の設計・審査技術」

飼料用稲栽培における堆肥施用量について

「稲発酵粗飼料や稲わらを持ち出す場合」
●稲発酵粗飼料の多収・低コスト栽培として、完熟牛ふん堆肥を2t/10a(窒素成分として20kg/10a)程度、施用するとリン酸とカリが補給され、窒素成分のみを化学肥料として補えば、多収で地力を消耗させない養分補給が可能となるという報告があります。 
●水分が約50%の牛ふん堆肥2tには、約22kgの窒素が含まれ(表1)、肥効率は30~60%(長期連用条件)となるので、およそ6~13kgの窒素肥料に相当すると考えます。

「稲わらが圃場還元される場合」
●稲わらを還元する飼料用米生産では、堆肥による施肥窒素量の代替は、基肥窒素+分げつ期追肥合計の窒素の3割程度とすることが、現時点では無理のない施用量です。
●食用米の基肥窒素量の2倍量(10kg/10a)の3割を、堆肥で代替する量を試算します。堆肥を継続的に施用する条件では窒素肥効率が60%となるので(表2)、堆肥成分含量が表1の場合には、10aあたり牛ふん堆肥0.45t、(0.45×1.1×60÷100=3)、豚ぷん堆肥0.19t、鶏ふん堆肥0.18tとなります。
●これまでに堆肥が継続的に施用されていない場合、堆肥の窒素含量が低い(CN比が高い)場合には、肥効率を60%から置き換えます。例えば、牛ふん堆肥がこれまで十分に施用されず、窒素濃度も2%よりも低い場合には肥効率を20%とします。
●この条件では、堆肥施用によって、飼料用米としてほ場から持ち出されるリン酸とカリを補うことができますので、土壌養分が診断基準内にあれば化学肥料は不要です。
●資源の持続的利用やコストの観点から、堆肥による化学肥料の代替割合を上記よりも高めつつ、安定収量を得るための試験研究が、全国各地で実施されています。
●飼料用稲生産に必要な窒素施用量の全量を堆肥だけでまかなおうとすると、肥効調節が難しく目標収量が得られにくくなったり、直播栽培での苗立率の低下などが起きやすくなります。

飼料用稲栽培における家畜尿の施用について

●牛尿や豚尿、メタン発酵消化液を水口から流入させると、飼料用稲の追肥として効果があります。
●施用量は、液肥中のアンモニア態窒素濃度を測定して決めます。
●基肥利用では、活着後~移植4週目までに施用します。ムラの発生を避けるため、用水により希釈しながら施用し、施用後、数日間は湛水深を維持します。
●利用に当たっては、曝気して臭気を低めたものを利用することや、ポリタンクでの運搬、水田外に流出させないことなどにも配慮します。

食用米栽培に転換する場合の注意点

●堆肥の多量施用を続けると、土壌からの窒素供給量が高くなります。
●食用米栽培に転換する場合には、倒伏や食味の低下が心配されるので、土壌の可給態窒素の増加分に応じて窒素肥料を控えたり、施用しないなどで対応します。
●食用米生産でも、堆肥の施用を推奨している地域があるので、食用米栽培に切り替える場合は、普及指導センターなどの指導機関に相談することをお勧めします。

執筆者 
原田 久富美
農研機構 畜産草地研究所 飼料作物研究領域

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