流し込み施肥法
流し込み施肥の特徴
「流し込み施肥とは」
●流し込み施肥(流入施肥)はおもに、大区画水田や大規模経営農家の稲作栽培での施肥作業の軽労化を目的とし、水田の水口から灌漑水と一緒に液体肥料や専用流し込み肥料、あるいは肥料を溶かした肥料溶液を施用する、省力・低コスト施肥技術です。また、固体肥料を水口に設置する方法もあります。
●稲の生育に合わせていつでも対応でき、機械を使うことなく誰でも施肥作業ができるという点で、魅力的な施肥法です。
「流し込み施肥のメリット」
●流し込み施肥のメリットは以下の通りです。
(1)水田に入らず施肥ができる。
(2)背負って追肥する動力散布機などの機械設備が不要である。
(3)機械散布や手散布と同等以上に均一に施肥できる。
(4)施肥時間が大幅に短縮できる。
(5)複数水田に同時施肥が可能。
(6)直接、水稲に肥料が接触しないため肥料やけが皆無。
(7)大規模水田には特に適している。
(8)降雨、風時にも施肥でき、全天候型施肥法である。
(9)その年の気象や稲の生育状態に応じて即実行できる。
●「省力」、「低コスト」、「高品質」を十分に満足できる施肥法として各種栽培方式の中に取り入れられ、次第に浸透拡大しつつあります。
液体肥料による流し込み施肥
●大区画圃場でも簡単にムラなく追肥できる液体肥料(「おてがるくん」)を用います。
「メリット」
●水田に入らずに追肥作業を行える肥料です。
●水田の水口に「おてがるくん」をセットし、灌漑水といっしょに液体肥料を流し込むので、楽に追肥作業ができます。
●キャップに微細な穴が開いており、そこから液体肥料が吐出するので、ゆっくり肥料成分を流し込むことができます。
●灌漑水とともに圃場全体に広がるので、ムラなく追肥をすることができます。
「製品と成分」
「おてがるくん」
保証成分(%)
窒素全量 12.0(内アンモニア性窒素 1.7)
水溶性リン酸 5.0
水溶性カリ 7.0
※荷姿は、20kg容器入り(外装:ダンボール箱)
「使用方法」
●あらかじめ、灌漑水が所定の水深になるまでの所要時間を確認しておきます。
●肥料が走りやすい状態にするため、施肥する前に、「ひたひた状態」(水深1cm程度)まで水を落としておきます。
●吐出時間は、約2時間と約4時間の2段階に調整できます。流入時間にあわせて調整します。
●吐出時間は、キャップの穴数で調整できます。
表1 吐出時間の設定方法
●灌漑水流入と同時に「おてがるくん」のキャップが水口の真上にくるようにセットします。このとき水平にセットするのがポイントです。
●「おてがるくん」のダンボール箱底面にある空気抜き用穴のミシン目を手で押して、抜き取ります。
●カッター等で内装容器に穴をあけます。空気孔を確保し、一定量流れるようにします。
●施肥終了後、施肥ムラを防ぐために30分程度「押水」をした後、灌漑水を停止します。
●施肥後は2~3日落水しないでください。
「使用上の注意」
●圃場を均平にするため、代かきはていねいに行ないます。
●田面の高低差の大きな圃場では、施肥ムラがでる可能性があるので注意します。
●流し込み施肥に先立ち、田面水の水深を1cm程度に落水しておきます。
●均一な施肥を行うため、灌漑水の水量が一定な水口で使用します。施肥中は、灌漑水を絶やさず、水深5cm以上を確保します。
●施肥後、3日程度は落水しません。
●減水深の大きな圃場には適しません。
●溝切りの跡などには肥料が残り、ムラになる恐れがあるので注意します。
●畦畔から漏水しないように、施肥前に、ネズミ穴等の漏水個所の補修を行ないます。
固形肥料による流し込み施肥
●流し込み専用肥料(「らくらく施肥」)を用います。
「らくらく専用肥料の特徴」
●肥料の粒が中空になっていますので、水に溶けやすく、瞬時に液肥となって水とともに広がっていきます。
●らくらく専用肥料「千代田化成」の代表的な銘柄と保証成分は以下の通りです。
千代田化成(らくらく)550 15-15-10
千代田化成(らくらく)472 14-17-12
「らくらく施肥法の圃場条件」
●灌漑水が安定して確保できること。
●畦畔の高さが最低でも10cm以上であること。
●減水深が1日あたり 3cm以下の水田であること。
●水口、水尻が独立していること(かけ流しではないこと)。
●田面の高低差が少ない(±10cm以下)水田であること。
●以上の条件を満たす圃場であれば、あらゆる生育ステージ(基肥・追肥)で施肥できます。
「らくらく施肥法の準備と施肥の手順」
●畦畔にねずみ穴、モグラ穴や低いところがないか確認し、必要に応じ補修します。
●田面水をいったん落水し、脚ツボに水が溜まっている「ひたひた水」(水深1cm)程度に調節し、水尻をしっかり止めておきます。
●中干し後は前日から水を入れ、土壌を水で飽和状態にしておきます。
●溝や亀裂を水で埋める溝切りをしている場合や田面に亀裂が入っている場合は、溝や亀裂を水で埋めておきます。
●水口から灌漑を始めますが、入水開始直後は水口付近の土が水の勢いで掘り返されて水が濁るので、肥料の投入は、この濁りがおさまるまで5~10分待ちます。
●水口から流し込み専用肥料を20kg一袋当たり、2~5分を目安として施肥します。ただし、1時間に20t程度の水量を確保できない場合には施肥時間を10分程度と延長し、ゆっくり施肥します。
●なお、複数水口がある場合は、入水しているすべての水口から肥料を投入します。また、一辺が150m以上の水田では、2回以上に分けて施肥します。
大区画圃場での流し込み施肥の状況(秋田県大潟村)
●施肥が終了したら、そのまま灌漑を続け、水位がスタート時から7~10cm上昇したら(基肥、根付け肥では5cmくらい)灌漑を止めます。
●施肥終了後3~4日間は落水や入水、かけ流しはせず、自然減水にまかせます。また、田んぼには入らないでください。
表2 流し込み施肥の目安
尿素や硫安などを用いた流し込み施肥
●液体肥料または固体肥料を溶かした肥料溶液を、灌漑水と同時に流し込む追肥方法です。
流し込み施肥器(古川農試)
「コンバイン袋を用いた簡易な流し込み施肥方法」
●透水性を抑制した袋(コンバイン収穫用籾袋(ポリプロピレン製)を3重にしたもの)に硫安を充てんし、メッシュコンテナに入れ水口に設置し、袋の底部のみを用水に浸けて徐々に肥料を溶解させて入水する方法により、簡便かつ均一性の高い流入施肥ができます(関矢ら 2009)。
コンバイン袋を用いた簡易な流し込み施肥
「作業手順」
●コンバイン収穫用籾袋(ポリプロピレン製)を3重にして粒状硫安を投入します。
●メッシュコンテナに入れ、水口に配置します。下にブロックを敷くと安定します。
●水口、コンテナ周りを波板で囲み、用水が混ざるように流路(幅30cm、2m程度)を作ります。
●落水状態から流入施肥を開始し、用水が流れている状態でコンテナの水深を7cm程度に調整します(底に板をはさむ等)。
●溶け具合に応じて深さを調整します。
「コスト削減効果(JA全農試算)」
●追肥にかかる時間を提言できます。慣行施肥(NK化成肥料(26kg/10a))で10a当たり13分が流し込み施肥(尿素・塩化カリ(24kg/10a))では3.3分ですみます。
●尿素等の単肥を用いれば、化成肥料と比べ肥料費を指数で100から63と約4割低減できます。
土屋一成
農研機構 作物研究所 企画管理室
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