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アイガモ・水稲同時作(アイガモ農法)

(2020年3月 改訂)

アイガモ農法とは

●水田にアイガモのヒナを放飼し、無農薬による安全な米と鴨肉を同時に生産する農法です。
●アヒル肉や卵を食べる文化がある東南アジアや中国で、アヒルの水田放飼は古くから行われてきました。
●わが国でも、アヒルやアイガモの水田放飼は一部の地域で古くから行われてきました。1990年代に福岡県の有機農家の古野隆雄氏が"アイガモ・水稲同時作"を提唱し、全国に広まりました。

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アイガモのヒナの水田放飼

水稲栽培からみたアイガモ放飼の効果

●アイガモのヒナを水田に放飼することにより、除草、駆虫、中耕・濁水、稲への刺激効果が得られることが科学的に証明されています。
●中でも、アイガモのヒナによる除草や駆虫効果は顕著です。

「除草効果」
●アイガモのヒナが水田内を泳ぎ回る際に、地表面に生えた小さな雑草を脚で浮き上がらせたり、採食したりすることで、除草します。

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 :アイガモの脚かきによって浮き上がった雑草
 :アイガモにより除草された水田の状況と脚かきによって濁った田面水(中耕濁水効果)


「駆虫効果」
●アイガモは雑食性であり、特にヒナの時期は旺盛な食欲を示します。飛来したウンカに対しても、アイガモのヒナは活発に採食し、その駆虫効果は極めて大きいです。

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 :アイガモのヒナによる害虫の採食
 :アイガモのヒナの胃内で確認されたウンカの成虫(1時間で1羽が300~400匹のウンカを採食)


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 :ウンカによる被害で枯死した水稲(手取り除草による無農薬水田)
 :アイガモを放飼した田んぼの水稲(左の写真とは隣接した水田であるが、ウンカは見当たらない)

アイガモ農法の実際

●田植えを終えた水田をネットや電気柵で囲みます。アイガモの脱走と外敵の侵入防止を兼ねています。
●田植えから7~10日後に、約7日齢のヒナを放飼します。放飼密度の目安は、10~15羽/10aです。
●田植え後、できるだけ早くアイガモのヒナを水田に放すことで、上述した除草・駆虫効果が高まります。
●水田に放飼したアイガモには、補助飼料(屑米など)を1日当たり100g/羽程度給与します。
●出穂するとアイガモが穂を採食してしまうため、水田から引き上げます。
●水田から引き上げたアイガモは1~2カ月間肥育し、食肉利用をします。

アイガモの飼養管理

●アイガモのヒナは専門の孵化業者から購入できます(要予約、400~1,000円/羽)。
●孵卵機でヒナを孵化する場合は、およそ28日で孵化します。
●届いた(孵化した)ヒナは、水田放飼までしっかりと水浴訓練を行う必要があります。
●ヒナは7日齢で体温調節機能を獲得し、水田放飼が可能になります。
●アイガモは雑食性です。そのため、水田内を昼夜問わず泳ぎ回り、水田内の害虫、雑草などを活発に採食します。
●アイガモの種類にもよりますが、成体重は1500~3000gで、肥育時には1日に100~200g/羽の穀物飼料を採食します。
●およそ6カ月で性成熟に達し、卵を産み始めます。この頃が食べ頃でもあります。

アイガモ農法の課題

「外敵問題」
●水田放飼直後にアイガモのヒナが外敵に襲われるケースが多いです。
●主な外敵はカラス、オオタカ、イタチ、タヌキ、キツネなどです。
●カラスやオオタカなどに対しては、テグスを張ることで上空からの侵入を防ぐことができます。また、イタチ、タ ヌキ、キツネなどに対しては、電気柵の設置が有効です。

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アイガモのヒナを襲い、持ち去るカラス

「アイガモ肉の販路拡大」
●アイガモ農法で生産された米は高値で取り引きされ、その販路は安定的に確保されています。
●一方、水田放飼を終えたアイガモの肉利用は、処理場の確保や市場流通しているアヒルに比べ、1羽当たりの肉量が少ないなど解決すべき課題が多いです。

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 :一般に市場流通しているアヒル肉
 :水田放飼したアイガモの肉(市場価値の高いムネ肉が小さいのが分かる)


●こうした状況の中で、生産者が食鳥処理場を運営し、自ら処理・解体したアイガモ肉を販売するケースが増えてきました。
●また、アイガモ農法に適したアイガモの作出や、生産物(卵や肉)の付加価値を向上させるための加工品の開発や給与飼料の検討も行われています。

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アイガモ農法向けに鹿児島大学と地元企業が作出した薩摩黒鴨。水田でよく働き、成体重が3kgに達する

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麺汁製造過程で生じるカツオ節だし残さ(高タンパクでDHAを多く含む)。これを飼料に添加することで生産物(卵や肉)中のDHA含量がアップする

執筆者 
髙山 耕二
鹿児島大学農学部准教授

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