提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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水稲の有機栽培技術とカバークロップの利用法

(2015年5月 一部改訂) 

はじめに

●水稲の有機栽培には、さまざまな実践事例がありますが、ここでは有機栽培技術の概要と留意点について紹介します。
●水田での有機輪作やカバークロップ(被覆作物)の利用法について説明します。

水稲の有機栽培技術~圃場の選定と田植え前の準備

「圃場の選び方」
●有機栽培を行う圃場は、畦畔などで、慣行栽培圃場と明確に区別されている必要があります。
●水路などから、慣行栽培圃場で使用した農薬や化学肥料の成分が流入しないことを確認します。
●周囲圃場の生産者に有機栽培を行うことを連絡し、農薬などが飛散しないよう要請します。
●周囲圃場の生産者と良好な関係を築くことが重要です。
●深水管理ができ、減水深ができるだけ少ない圃場を選びます。
●輪作を行う場合には、暗きょ排水設備がある圃場を選びます。

「圃場の準備」
●土壌診断を行い、その結果をみて有機資材の投入計画を立てて、土づくりを行います。
●圃場を均平に保つことが重要です。
●水稲の有機栽培では、深水管理を基本としますが、圃場が均平でないと、土壌表面が露出した場所から多くの雑草が発生してしまいます。
●レーザーレベラを利用することで、圃場を均平にできますが、ない場合は、代かきの際に水位を確認しながら、できるだけ均平になるよう作業します。 

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レーザーレベラによる圃場の均平作業
(提供 :東北農業研究センター東北水田輪作研究チーム)


「代かき」
●水稲の有機栽培では、「2回代かき」が励行されています。
●1回目の代かきは、田植えの3~4週間前に行います。
●2回目は、田植えの1~2日前に行います。
●1回目と2回目の代かきの間隔が短い場合や、2回目の代かきから田植えまでの期間が長い場合は、雑草を上手く抑えられないので注意します。

「施肥」
●投入する有機物の種類によって、投入量や時期は異なります。
●肥料は、市販の有機JAS規格肥料(「有機アグレット666特号」など)の使用をお勧めします。
●有機栽培技術が習得できたら、自分の圃場にあったオリジナルの「ぼかし肥料」などを製造し、利用してみましょう。
●「有機アグレット666特号」は、化成肥料と同じような利用が可能です。入水前の耕起時、もしくは田植え時(側条施肥)に施用します。

育苗

「種子の準備と温湯消毒」
●「有機栽培圃場で生産された種子」を使うのが望ましいですが、JAS法では、慣行栽培圃場で生産された種子(無消毒のもの)の使用も可能です。
●塩水選もしくは篩(ふるい)(コシヒカリの場合は2.2mm以上)により、充実した種籾を選別します。
●馬鹿苗病などの病害防除のため、温湯消毒(60℃10分間)をします。湯温、時間を厳守してください。
●湯温や時間を間違うと、消毒効果の低下や発芽率の低下につながります。

「播種・育苗」
●移植直後から深水管理を行うためには中苗以上の育苗が必須です。
●移植する苗の種類や栽植密度によって育苗法は異なりますが,ここでは中苗(葉令4程度)の育苗法について説明します。
●育苗用培土は、市販の有機JAS規格に適合した育苗培土を利用します。
●1箱当たり、吸水籾で80~100g程度(乾燥籾で60~80g程度)を播種します。育苗培土によっては吸水性がやや悪いものもあるので、覆土後は、少量ずつ繰り返し灌水します。
●出芽器などで発芽させた後は、プール育苗を行います。プール育苗を行うことにより、苗立枯細菌病などの病害抑制が可能です。
●プール育苗前半の水位は、育苗箱がかくれる程度とし、一定量の水を掛け流して培土表面が露出しないようにします。 
●育苗後半には水位を育苗箱の1~2cm上に設定します
●高温時期には苗が徒長しないよう、野外でプール育苗をします。
●葉が黄色くなりはじめたら,早めに追肥(窒素成分で箱当たり1~1.5g程度)を行います。

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 :播種した吸水籾(播種量:箱当たり80g) /  :プール育苗(野外)

田植え

●中苗~成苗の苗を、1株当たり2~4本移植します。
●欠株率を低減させるため田植機のかき取り量を通常よりやや多め(かき取り回数を少なめ)に設定します。
●育苗箱は10a当たり25~28箱程度(播種量90g、株間18cmの場合)準備しましょう。
●慣行栽培よりも遅く移植することで、イネミズゾウムシによる被害が少なくなるという報告があります。
●極端な疎植や晩期移植は、㎡当たり穂数や籾数が減少し、減収につながる恐れがあります。

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 :田植え時の苗の状況 /  :田植え

除草

●除草は、深水管理、機械除草、米ぬか散布などの除草法を組み合わせます(→「農薬に頼らない雑草防除」参照)。

「深水管理」
●田植え直後から、水位は5cm以上にし、水稲の生育にあわせて徐々に水位を上げていき、最終的には15cmくらいに維持します。
●水位が10cmくらいまでしか上らない場合も、土壌表面を絶対に露出させないようにします。
●深水管理はヒエ類の防除に有効ですが、コナギやイヌホタルイには効果はほとんどありません。他の除草法と併用する必要があります。

「機械除草」
●田植え後10日目までに第1回の機械除草を行い、その後は、約10日間隔で、計2~4回程度行います。
●除草機には、歩行用除草機と乗用型除草機があります。(→「機械除草法」参照)
●多目的田植機装着式の除草機(高精度水田用除草機)を利用すると、大面積を効率的に除草できます。
●農研機構では、高精度水田用除草機による除草と米ぬか散布を組み合わせた除草技術に関する試験を実施しています。 

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 :水田除草機による除草作業 /  :除草機部分の拡大 

「米ぬかなど有機物の施用」
●田植え直後や除草時に、米ぬかやくず大豆などを散布すると、アゼナ類やミゾハコベなどの雑草が抑制されます。
●コナギに対しては、抑草効果が低い場合が多いようです(→「米ぬかを使った除草法」参照)。
●1回当たりの散布量は、米ぬかでは、10a当たり30~60kg程度です。
●米ぬかの抑草メカニズムについては、まだ十分に解明されていません。

「手取除草」
●タイヌビエなどの大型の雑草が残っている場合は、雑草の埋土種子量を増やさないために、中干し時期などに、手取りで除草します。

収穫前後の圃場管理

「追肥」
●追肥は、葉色をみて行います。穂肥の時期に葉色が濃い場合(疎植や米ぬか散布量が多いとおこりがち)や徒長している場合は、追肥を省くか、減肥します。

「水管理」
●中干しや間断かん水などの水管理は、慣行栽培と同様にしますが、農家によっては中干しを行わず、収穫前まで湛水したままの場合もあります。

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 :中干し期間中の水稲 /  :水稲の条間に残存している雑草は少ない  

「畦畔管理」
●畦畔の管理を怠ると、畦畔からの害虫や雑草の侵入が増加します。出穂前までは、刈り払い機などで、可能な限り草刈りをします。
●出穂期頃の草刈りは、カメムシを水田内に追い込む場合があり、斑点米が増加するという報告があります。

「収穫後の管理」
●収穫後は、残存している雑草種子が成熟するのを防ぐため、できるだけ早く秋耕をします。

※参考
・農研機構では、「機械除草技術を中心とした水稲有機栽培技術マニュアル(暫定版)」をホームページで公開していますので参考にしてください。


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 :登熟期の水稲 /  :収穫後にも残存しているコナギ (早めの秋耕が必要)  

水田での有機輪作やカバークロップの利用法~水田輪作の有効性

「有機栽培と水田輪作」
●水田輪作(田畑輪換)は、水稲に対しても、畑作物(転作作物)に対しても病虫害や雑草害の危険度を下げる効果を持つことから、農薬を使用しない有機栽培にはうってつけの技術です。
●水稲栽培1~3作、畑作物栽培1~2作での輪作が一般的です。
●水田輪作は、暗きょ排水設備があり、排水性が良好な圃場で行います。

「水田輪作の効果」
●水稲栽培時には、オモダカなどの多年生雑草の発生が減少します。
●畑作物の栽培時には、雑草、センチュウ、病害虫(すべてではない)による被害が減少します。
●水田から畑への転換初年目には、窒素成分が無機化されやすくなるため、窒素成分の施用量を減らすことができます。
●カバークロップの栽培や適切な有機物の投入を行わないと、地力が低下する場合があります。

カバークロップの利用法

「カバークロップの特徴」
●ライムギやイタリアンライグラスなどのイネ科のカバークロップは、地力を高め、窒素成分が地下に流亡するのを防ぎます。
●レンゲやヘアリーベッチなどのマメ科のカバークロップは、土に窒素成分を供給し、すきこみ前までの雑草発生を防ぎます。
●シロカラシやハゼリソウなどは地力を高め、景観の形成にも役立ちます。

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カバークロップ 
左から上から ヘアリーベッチ / クリムソンクローバ 


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ハゼリソウ

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水田有機輪作に利用可能なカバークロップの草種と播種時期、播種量

「カバークロップの栽培法」 
●カバークロップは、湿害に弱いものが多いので、排水性の良い圃場を選んで栽培するようにします。
●カバークロップは、水稲や畑作物の収穫後(秋期)に播種しますが、寒冷地などでは初期生育を確保するため、立毛中に播種する場合もあります。
●播種後は覆土(浅耕)し、ローラなどで鎮圧すると、発芽が安定します。
●肥料分が少ない圃場で栽培する場合は、播種前に有機質肥料を窒素成分で2~3kg/10a程度、施肥してください。

「カバークロップのすきこみ」
●すきこみは、ロータリまたはプラウ耕により、次作物を播種(移植)する3週間前までにすませます。
●カバークロップの生育量が大きい場合には、モアなどで刈り取った後、ロータリですきこみます。
●水稲の栽培前にマメ科のカバークロップを栽培する(すきこむ)と、窒素成分が多くなりすぎて、倒伏したり品質や食味が落ちる原因となるので注意してください。

「カバークロップの輪作体系への組み込み事例」
●秋田県大潟村では、水稲と大豆の有機輪作を行っています。大豆の栽培前に主として排水性の改善を目的に、ヘアリーベッチを導入しています。

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 :有機大豆の栽培(秋田県大潟村)
 :ヘアリーベッチとライムギの混作 (茨城県中央農研圃場:4月上旬)
 

●農研機構では、下記のような体系を組んで、有機輪作試験を実施しています。


農研機構で試験を実施している有機輪作体系 

執筆者 
三浦重典
農研機構 中央農業総合研究センター 生産体系研究領域 上席研究員(有機農業研究プロジェクトリーダー)

(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)

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