難防除雑草対策
(2014年7月 一部改訂)
ノビエ
「ノビエの種類」
●ノビエ(野稗)はタイヌビエ、イヌビエ、ヒメタイヌビエ、ヒメイヌビエ、コヒメビエなどの雑草ヒエの総称です。
●ノビエに効果のある除草剤が多く使われている現在でも、残草しやすい雑草の一つです。
●水田ではタイヌビエ(全国)、ヒメタイヌビエ(暖地、温暖地)、コヒメビエ(暖地)が多くみられます。
●最近は、畑地、休耕田、路傍、空き地、果樹園などでよく発生するイヌビエ(有芒タイプ、無芒タイプ)が水田の中でも目立つようになりました。
タイヌビエ
左上 :イヌビエ有芒型 / 右下 :イヌビエ無芒型
「ノビエの観察と対策」
●除草剤の使用時期(晩限)は、ノビエの葉令で示されることが多いので、水田でのノビエの観察は大切です。
ノビエの葉令の数え方
(出典 :日本植物調節剤研究協会(2002)除草剤試験の手法(7)-雑草の葉齢の数え方-.植調36(3)、105-110)
●イネは最初の葉(鞘葉の次に出てくる葉)には葉身がなく不完全葉と呼ばれますが、ノビエは鞘葉の次の葉にも葉身があり、本葉第1葉として数えます。
●2枚目の葉全体が抽出・展開して、まだ3枚目の葉先が見えないときが2葉期です。
●3枚目が抽出して予想される長さの半分まで伸びたときを、2.5葉期と数えます。
●除草剤の使用時期を少しでも過ぎると、効果は大きく低下します。
●畦畔から見えるノビエが2.5葉だとしても、水田の中にはそれより生育の進んだノビエが生えているかも知れません。
●3葉期までの一発処理剤ならば2.5葉期までに、2.5葉期までの剤ならばノビエ2葉期までに散布するなど、安定した除草効果を得るためには、早め早めの使用が望ましいとされています。
●シハロホップブチルに対して抵抗性を示すヒメタイヌビエ,イヌビエ,ペノキススラムに対して抵抗性を示すヒメタイヌビエのバイオタイプが見つかっています。除草剤のローテーションを行い,抵抗性バイオタイプの出現を回避することが重要です。
多年生雑草
「多年生雑草の種類と特徴」
●種子だけでなく栄養繁殖器官(株基部、塊茎、鱗茎、根茎など)からも発生する雑草を、多年生雑草と呼びます。
●クログワイ、オモダカ、ウリカカワ、ミズガヤツリ、シズイ、コウキヤガラは塊茎から出芽します。
●初期生育は旺盛で、除草剤によるダメージからの回復力が強いので、除草剤の効果が小さい傾向があります。
「オモダカとクログワイ」
●特にオモダカとクログワイの塊茎は、土中の深いところに形成され、クログワイは鋤床の下からも発生してきます。
●オモダカの塊茎の芽は1つだけですが、クログワイの塊茎にはいくつもの芽があります。
●一つの塊茎から出てきた個体を防除しても、その年(または次の年)に同じ塊茎の別の芽から発生してきます。
●両種とも発生期間が長いという特徴があり、だらだら発生することで、除草剤の影響を回避しています。一回の除草剤散布で完全に防除できない原因です。
難防除多年生雑草。オモダカ(左上)とシズイ(右下)
「シズイとコウキヤガラ」
●シズイは、寒冷地や標高の高いところでよく問題となる多年生雑草です。
●5mm前後の小さな塊茎を多数形成し、水田ではその小さな塊茎から出芽します。
●種子も作られますが、シズイの種子は休眠が深く、一年間程度の土壌中貯蔵ではまったく発芽しません。
●コウキヤガラは、沿岸近くで発生することが多く、干拓地の代表的な難防除雑草です。
●コウキヤガラ、シズイともに水田での発生時期が早く、多発した場合には、水稲の生育を大きく抑制する強害雑草です。
「難防除多年生雑草の防除」
●これら難防除多年生雑草は、一発処理剤とそれぞれの草種に有効なベンタゾンなどを含む除草剤との体系処理で防除します。
●オモダカ、ウリカワ、シズイ、ミズガヤツリの塊茎の寿命は1~2年、クログワイの塊茎の寿命は3~5年です。
●したがって、数年間完全に防除すると水田土壌中の塊茎はなくなるので、これら多年生雑草は出てこなくなります。
●ミズガヤツリの塊茎は、酸素が少ないと出芽できないので、よく代かきして土壌中に埋め込んでしまうと発生数が少なくなります。
●温暖地以西では、水稲収穫後にも多年生雑草が生育して多数の塊茎を作ります。
●水稲収穫後の除草剤処理や耕耘が、塊茎の形成防止に有効です。
最近増えている一年生雑草
「湿性雑草の増加」
●アメリカセンダングサ、タウコギ、クサネム、アゼガヤといった湿性雑草が増加し、田畑共通雑草としてよく問題になります。水田の周りで転換畑が増えているところや、水稲直播栽培の取り組みが普及している地域では、落水条件(湿潤な土壌)で出芽して湛水条件でも旺盛に生育します。
「センダングサ属雑草(アメリカセンダングサ、タウコギ)」
●落水条件や水かかりの悪い場所でよく発生する、大型のキク科一年生雑草です。
●畦畔際、無代かき栽培での出芽が多く、湛水直播栽培の播種後落水や芽干し時期にも出芽します。
●できるだけ水深を深くして、5cm以上を保つように管理すれば、出芽や生育を大きく抑えることができます。
●アメリカセンダングサは、スルホニルウレア系除草剤を含む一発処理剤を散布して、その後発生したものは、MCPBやベンタゾンを含む中期剤や後期剤で防除します。
●タウコギは、スルホニルウレア系除草剤の中でも、特にピラゾスルフロンエチルの効果が高いとされています。
左上 :アメリカセンダングサ / 右下 :タウコギ
「クサネム」
●マメ科の一年生雑草で、種子は茶褐色です。
●長さ3.5mm、幅2.5mmほどで、米選機でも除去できないため、収穫した玄米に混入して品質低下の原因となります。
●落水条件や浅水で出芽しやすく、直播栽培でよく問題となります。
●生育の進んだ個体には有効な除草剤が少ないのですが、中期除草剤ではビスピリバックナトリウム塩液剤、後期除草剤ではMCPA等のホルモン剤の効果が高いことが知られています。
「アゼガヤ」
●湛水条件では発芽せず、湿潤から畑水分条件で良好に発生するイネ科一年生雑草です。
●直播栽培や浅水管理を行う水田で問題になります。
●シハロホップブチルの効果が高いことが知られています。
左上 :クサネム / 右下 :アゼガヤ
畦畔から水田内に侵入する雑草
「イネ科ほふく性多年生雑草」
●畦際で多発して、茎が地面をはうようにほふく茎を伸ばして水田に侵入します。アシカキ,エゾノサヤヌカグサ、キシュウスズメノヒエ、チクゴスズメノヒエなどがあります。
●耕起前に本田内で発生した個体が、耕起や代かきによって切断され、その稈切片が増殖源となります。
●草種によって除草剤の反応が異なります。同定を正確に行い、適切な防除法を選択することが重要です。
「イボクサ」
●ツユクサ科の一年生雑草です。
●畦際で多発して、茎が地面をはうように伸び、節から根や茎を出して水田内に広がります。
●特に乾田直播栽培で繁茂しやすく、イネにからみつくと減収や倒伏の原因となり、収穫作業の障害にもなります。
●播種後、土壌処理剤の成分であるブタクロールや、乾田期の茎葉処理剤であるビスピリバックナトリウム塩の効果が高いので、これらの成分を利用した除草体系で防除します。
イボクサ
SU抵抗性雑草
「SU抵抗性雑草の出現」
●一発処理剤の多くに含まれるスルホニルウレア系除草成分(SU剤)の各種(ベンスルフロンメチル、ピラゾスルフロンエチルなど)に抵抗性を示すバイオタイプが、これまでイヌホタルイ、コナギ、アゼナ類など21種の水田雑草で見つかっています。SU剤を適正に使用しているにもかかわらず特定の雑草が大量に残草している場合はSU抵抗性雑草の可能性が高いです。
左上 :SU抵抗性バイオタイプが見つかっているイヌホタルイの実生 / 右下 :コナギ
「SU抵抗性雑草の防除」
●一発処理剤を利用してSU抵抗性雑草を防除する場合は、SU剤の他にその雑草に効果のある成分が含まれている一発処理剤を選択します。
●イヌホタルイ、コナギ、アゼナ類については、抵抗性バイオタイプに有効な成分がわかっています。
●たとえば、SU抵抗性イヌホタルイ対策は、イヌホタルイに効果のあるブロモブチドあるいはベンゾビシクロンなどが含まれている一発処理剤を使います。
●初期除草剤と中期除草剤を用いた体系処理も、SU抵抗性雑草の防除に有効です。
●(公財)日本植物調節剤研究協会のホームページに「除草剤抵抗性雑草とその防除【水稲分野】_2021年更新」が掲載されています。それを参考にして、除草剤や除草体系を選択してください。
雑草イネ
「雑草イネとは」
●雑草イネとは、栽培している水稲品種とは異なるイネで、水田内で自然に出芽して栽培しているイネに混じって生育します。
●雑草イネは、栽培イネと同じ植物種ですが、その形質や生態は異なります。
●雑草イネには玄米が赤いものがあり、収穫したお米に雑草イネの赤米が混じると品質低下の原因になります。
●雑草イネの種子(籾)はこぼれやすく、早いものでは出穂10日後から種子が脱落して、次年度の発生源となります。
様々な雑草イネの籾と玄米
コシヒカリに雑草イネの赤米が混入
「雑草イネの見分け方」
●雑草イネには草丈の高いものや低いもの、出穂の早いものや遅いものなど、さまざまなタイプがあります。栽培しているイネと草姿や出穂期が大きく異なる雑草イネは、圃場でも容易に見つけることができます。
●玄米が赤い雑草イネは芒や籾の先(ふ先)が赤いものが多く、徐々に籾が黒く変色する雑草イネもあります。出穂期に穂や籾をよく観察して見分けます。
●出穂前に雑草イネと栽培イネを見分けることは、極めて困難です。
左上 :赤くて長い雑草イネの芒 / 右下 :ふ先が赤い雑草イネ
「雑草イネの防除」
●雑草イネの種子が脱落する前に(出穂後1~2週間を目安に)、可能な限り雑草イネを見つけて抜き取ります。
●雑草イネが発生する地域では、条間や株間に生えるイネは雑草イネである可能性があるので、早めに抜き取ります。
●水稲収穫後にひこばえが出穂する地域では、雑草イネのひこばえが種子を落とさないように除草剤などで防除します。
●寒冷地や高冷地では、水稲出穂後は耕起しないで、土壌表面の雑草イネ種子の死滅や鳥や虫の摂食による埋土種子の低減を促します。
●雑草イネの発生が確認された水田では、次年度は転作大豆や野菜などを栽培して、イネ科雑草を徹底防除します。
●雑草イネの埋土種子の寿命は3年以内なので、3年間の徹底防除により雑草イネの発生をなくすことが可能です。
●次年度も水稲栽培を継続する場合は、直播栽培を行わず、移植栽培で雑草イネ防除に有効な除草体系で防除します。
「雑草イネ防除に有効な除草体系」
●(公財)日本植物調節剤研究協会のホームページに雑草イネ有効剤として実用化可能と判定された水稲用除草剤(2021.1)が掲載されています。
●代かき後に雑草イネの発生にあわせて、雑草イネに有効な除草剤を用いた2回処理体系(初期剤-一発処理剤)あるいは3回処理体系(初期剤-一発処理剤-中期剤)で防除します。
●雑草イネに有効な除草剤であっても、第1葉が抽出した雑草イネを防除することはできません。したがって、雑草イネが発生する前に除草剤を散布します。
●水稲用除草剤が雑草イネを抑える期間は短く、最初の除草剤処理から10日前後で雑草イネが出芽してきます。その後の体型処理も早め早めに行います。
●除草剤成分ごとに使用回数が決められていますので、除草剤や除草体系の選定にあたっては、地域の普及指導機関と十分相談してください。
※除草剤の選択にあたっては、もよりの農業改良普及センターや農協などにお問い合わせください。
渡邊 寛明
(公財)日本植物調節剤研究協会
小荒井 晃
農研機構 植物防疫研究部門 雑草防除研究領域
(参考)
雑草防除・植物の生育調節に関する技術情報((公財)日本植物調節剤研究協会)
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