提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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サトウキビの栽培技術

概要

●サトウキビ(学名:Saccharum officinarum L.、経済品種:Saccharum spp. hybrid)は甘味資源作物です。
●わが国で育成され品種登録された糖生産用の品種は、2020年3月時点で、以下の38品種となります。
「RK65-37」6)
「農林1号」~「農林29号」
「KY01-2044」
「黒海道」
「KN00-114(農林30号)」
「KY99-176(農林31号)」
「KTn03-54(農林32号)」
「RK97-14」
「はるのおうぎ」10)
「RK03-3010」
●他方、製糖用品種とサトウキビ野生種(Saccharum spontaneum)等との交配の取り組みの中から、製糖用品種のみならず、バイオマス生産能力に優れる特徴を持つ「飼料用サトウキビ」という新しいジャンルが開拓されました。
●現在、南西諸島における飼料生産に「KRFo93-1」、「しまのうしえ」、「やえのうしえ」の3品種が導入されています。

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写真1 2019年3月に品種登録出願された新品種「はるのおうぎ」10)(種子島での導入実証試験圃場にて、2019年9月30日撮影)

●サトウキビの栽培起源種(オフィシナルム種(高貴種)、Saccharum officinarum)は、 今からおおよそ1万年前、 ニューギニア島周辺で誕生したと言われています。その直接の祖先とされるロバスタム種(S. robustum)は、 長太茎、 多分げつで、 高い物質生産力が特徴です1、2、3)
●サトウキビ属にはこの2種の他、 水中や海浜にも見られる野生種(スポンタニウム種、S. spontaneum)、 幼穂を食用にするエデュレ種(S. edule)、 かつての栽培種で和三盆の原料として今も栽培されるシネンセ種(中国細茎種、S. sinense)、インドで成立したとされるバルベリ種(インド細茎種、S. barberi)の計6種が知られています1、2、3、4)

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写真2 台湾の圃場端で見られたオフィシナルム種(高貴種)の品種「バディラ」 (提供: 九州沖縄農業研究センター(種子島研究拠点) 2018年9月14日撮影)

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写真3.台湾の台南市善化区付近の曽文渓の河川敷に群生するサトウキビ野生種 (提供 :九州沖縄農業研究センター(種子島研究拠点) 2018年9月14日撮影)

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写真4.サトウキビ野生種の花(上述の曽文渓の河川敷にて)(提供 :九州沖縄農業研究センター(種子島研究拠点) 2018年9月14日撮影)

●わが国のサトウキビ栽培は、シネンセ種(中国細茎種、竹蔗(ちくしゃ))の中国から琉球への伝搬により始まりました3、4)
●13世紀にはすでに栽培されていたようですが、1600年代に沖縄では儀間真常が福建省から黒糖製造技術を導入し、奄美大島では、直川智(すなお かわち)によりサトウキビ栽培と製糖技術が導入されています4、5)
●その後の本土への伝搬は比較的速やかであり、徳川吉宗の奨励策に支援されて各地に普及したのがこのシネンセ種(中国細茎種)であり、香川、徳島では和三盆の原料として今も現役を続けています4、5)
●この他に、日本で普及した外国育成品種としては、1924年に導入された「POJ2725」(東ジャワ糖業研究所育成)、第2次大戦後の1951年に導入された「NCo310」(南アフリカ共和国ナタール育成)があり、後者は瞬く間に普及して寡占状態が続きましたが、後に「F177」や「NiF8(農林8号)」等に主導品種の席を譲りました5)
●わが国で普及した台湾育成品種としては、「F177」、「F160」、「F161」、「F172」等があります。他に、米国のルイジアナ州立大学で育成されわが国に導入された品種に「L60-14」があります5)

栽培状況

●わが国におけるサトウキビ生産は、2018年/2019年期では、鹿児島県と沖縄県の両県での収穫面積が22,600ha、収穫量は119.6万tとなっています11)
●南西諸島の栽培環境は、台風・干ばつなどの厳しい気象条件に加えて、温暖帯から亜熱帯の気候帯に属して土壌有機物の分解・消耗が早く、地力の低い痩せた土壌が多く存在しています。そうした影響によりサトウキビの生産は不安定です。
●このため、土地生産性を高めるための多収性品種の開発や、育成した品種に適合する機械化一貫体系の栽培技術の開発と確立が強く求められています。
●また、将来的には生産者戸数の減少も大きな懸念となっており、労働生産性の向上が大きなテーマとなっています。

栽培

●サトウキビ栽培では、透水性改善のための耕盤破砕(写真5)、土づくりのための堆肥施用または緑肥栽培とすき込み、土壌分析に基づく石灰等の施用が大切です。根域拡大と土壌への有機物補給を進めながら、耕うん・整地します(写真6)

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左 :写真5 サブソイラによる耕盤部分破砕作業7)
右 :写真6 パワクロを利用したロータリ耕うん7)


●サトウキビ栽培には、芽が付いた節が2節付いた苗(2芽苗、長さ25cm程度)を用意して植え付け、苗から発芽させて栽培する「新植栽培」と、12月~翌年3月の間にサトウキビを収穫した後に、収穫後の株から萌芽させて栽培する「株出し栽培」があります。
●株出し栽培は、苗の準備や植付けの手間がないため、新植栽培と比べて、格段に低コスト・省力的な栽培であり、この株出し栽培を2回、3回と繰り返すことにより、サトウキビ生産のコストを下げることができます。
●ここでは、新植栽培と株出し栽培に分けて説明します。

「新植栽培」
●新植栽培には、1月中旬~3月下旬に植え付け、およそ1年間栽培して1月~3月に収穫する「春植え」と、8月~9月下旬に植え付け、およそ1年半栽培して12月頃から収穫する「夏植え」があります。
●健全に生育して病虫害のない良質なサトウキビ茎を採苗用圃場から採取して、切断することにより2芽苗を準備します。春植えでは10a当たりおよそ3300本以上、夏植えではおよそ2500本以上の苗を用意します。全茎式植付機を使う場合には、切断しない茎(全茎)を相当する本数用意します。
●土壌分析と施肥基準を参考にして施肥を行います。
●うね幅は120cm~150cm、株間は25cm~30cmとします(鹿児島県熊毛地域・奄美地域の栽培ごよみ、沖縄県サトウキビ栽培指針8)を参照)。
●サトウキビでは、植付け位置に植え溝を掘り、うね間部分の土を盛り上げ(高さ30cm程度)、植え溝に苗を植え付けて、3cm程度に薄く覆土します(深溝・浅植)。植付け時の殺虫剤散布、除草剤散布を行います。
●植付け機械には、手落し式の2芽苗プランタ、茎(全茎)を切断しながら植え付ける全茎プランタ、ハーベスタ収穫した茎を用いて効率よく植え付けるビレットプランタ(写真7、8)があります。

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写真7 ビレットプランタによる植付け作業(提供 :九州沖縄農業研究センター(種子島研究拠点) 徳之島にて、2017年8月30日撮影)

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写真8 ロータリ式覆土装置の付いたビレットプランタ(左 :令和元年度鹿児島県普及に移す成果より引用 9)、 右:提供 :松元機工株式会社)

「株出し栽培」
●株出し栽培は、前作(春植え・夏植え)収穫後に萌芽する茎を仕立てて、およそ1年間栽培し、1月~3月に収穫する栽培法です。(萌芽:収穫後に地下株の腋芽から出芽すること)
●株出し栽培では、萌芽を促進し、揃い(時期や高さ)を良くするために株出し管理を行います。株出し管理には、株を地表から5cmほどの深さで水平に切り戻す株揃え作業と、古い根の一部を切断する根切り作業があります(写真9)

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写真9 収穫後に株揃え・根切り排土作業を行ったサトウキビ株の様子(提供 :九州沖縄農業研究センター(種子島研究拠点) 種子島にて)

●株出し管理の際には、新植栽培の時と同様に、施肥・殺虫剤・除草剤散布を行います。

「中間管理」(新植栽培・株出し栽培共通)
●雑草防除のために、適期の除草剤散布と中耕・培土作業による除草を行います。
●生育状況に応じて追肥作業、中耕・培土作業を行います。中耕には除草効果がある他、通気性や透水性を高めます。培土作業には、植え溝に土を寄せる平均培土と、平均培土の後にさらにサトウキビの株元に土を寄せる高培土があります(写真10)
●メイチュウ類やカンシャコバネナガカメムシ(チンチバック、ガイダー)、カンシャワタアブラムシ、他の害虫防除のための殺虫剤散布を適期に行います(写真10、11)

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左: 写真10 小型トラクタによる中耕+薬剤散布作業7)
右 :写真11 パワクロを利用したブームスプレーヤによる薬剤散布作業7)


「収穫」(新植栽培・株出し栽培共通)
●以前は手刈りで収穫が行われていましたが、機械収穫が急速に普及し、現在ではハーベスタを用いた機械収獲が大部分を占めるようになりました(写真12、13)。2018年/2019年期統計でのハーベスタ収穫率(面積)は、鹿児島県では93.8%12)、沖縄県では78.7%13)となっています。

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左: 写真12 小型ハーベスタによる収穫作業 (提供 :松元機工株式会社)
右: 写真13 小型ハーベスタによるビレットプランタ用苗の収穫作業 (提供 :九州沖縄農業研究センター(種子島研究拠点) 徳之島にて、2017年8月30日撮影)

参考文献等

1)杉本明(2000a)島を飾るさとうきび.砂糖類情報、2000年7月.
2)杉本明編(2000b)そだててあそぼう サトウキビの絵本.農山漁村文化協会.
3)杉本明(2007a)お砂糖豆知識 甘み・砂糖・さとうきび(4) ~薬になる作物-officinarum-の生い立ち~.砂糖類情報、2007年1月.
4)杉本明(2007b)お砂糖豆知識 甘み・砂糖・さとうきび(6) 「緑の宝」の歩み~世界史の拡大と各地への伝播~.砂糖類情報、2007年3月.
5)杉本明(2007c)お砂糖豆知識 甘み・砂糖・さとうきび(10) さとうきびの品種改良.砂糖類情報、2007年7月.
6)杉本明(2007d)お砂糖豆知識 甘み・砂糖・さとうきび(11) さとうきびの品種改良~日本で育成した品種の来歴と特徴~.砂糖類情報、2007年8月.
7)株式会社クボタ(2016)公的機関の実証に基づくサトウキビの生産安定のための機械化提案.2016年作成.
8)沖縄県農林水産部(2014)さとうきび栽培指針.平成26年3月(HP掲載).
9)鹿児島県農業開発総合センター(2019)44kw(60PS)級半履帯トラクタに装着可能な中型ビレットプランタ.普及に移す成果、令和元年度.
10)服部太一朗(2020)種子島で期待される株出し多収なサトウキビ新品種「はるのおうぎ」.農研機構九沖農研ニュース、No.63、6.
11)農林水産省(2019)統計表、6工芸農作物、平成30年産工芸農作物の収穫量(4)さとうきび.令和元年8月(HP掲載)
12)鹿児島県農政部農産園芸課(2019)平成30年産さとうきび及び甘しゃ糖生産実績.令和元年8月(HP掲載).
13)沖縄県農林水産部(2019)平成30/31年期さとうきび及び甘しゃ糖生産実績.令和元年8月(HP掲載).

執筆者:
株式会社クボタ アグリソリューション推進部・営農技術グループ
技術顧問 安達克樹