薬用植物解説【2】
薬用植物に注目が集まっています
健康に対する意識の高まりなどを背景に、漢方製剤などの市場規模は拡大傾向で推移しています。
原料の生薬は、おもに中国からの輸入に頼っていますが、価格の高騰や生産国の輸出規制などにより、必要量の確保が厳しくなってきています。このため、薬用作物の産地化に向けた会議や栽培講習会が全国各地で開催されるなど、国内生産に向けた動きが活発化しています。
ここでは、おもな生薬を写真とともに紹介します。
ミシマサイコ(セリ科)
(生薬名)サイコ(柴胡)
(利用部位)根
提供 :薬用植物総合情報データベース
●効用、用途等
生薬サイコは特異なにおいがあり、わずかに苦い味がします。
第17改正日本薬局方では、総サポニン(サイコサポニンaおよびサイコサポニンd)を0.35%以上含むことが規定されています。
解熱、解毒、鎮痛、消炎などの作用があり、小柴胡湯(しょうさいことう)、大柴胡湯(だいさいことう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、四逆散(しぎゃくさん)など多くの漢方処方に配合されます。
▼「ミシマサイコ」について、さらに詳しく知りたい方はこちら
アミガサユリ(ユリ科)
(生薬名)バイモ(貝母)
(利用部位)りん茎
提供 :薬用植物総合情報データベース
●効用、用途等
生薬バイモは特異な弱いにおいがあり、苦い味がします。
鎮咳、去痰、排膿などの作用があり、滋陰至宝湯(じいんしほうとう)、清肺湯(せいはいとう)、当帰貝母苦参丸料(とうきばいもくじんがんりょう)などの漢方処方に配合されます。
▼「アミガサユリ」について、さらに詳しく知りたい方はこちら
ムラサキ(ムラサキ科)
(生薬名)シコン(紫根)
(利用部位)根
提供 薬用植物総合情報データベース
●効用、用途等
生薬シコンは弱いにおいがあり、わずかに甘い味がします。
肉芽形成促進、抗炎症、抗菌などの作用があり、紫雲膏(しうんこう)、紫根牡蛎湯(しこんぼれいとう)などに配合されるほか、染料や化粧品としても利用されます。紫雲膏は火傷に効果があることで知られますが、熱帯地方の風土病であるリーシュマニア病に効果があることを、当薬用植物資源研究センターのグループが世界で初めて明らかにしました。
▼「ムラサキ」について、さらに詳しく知りたい方はこちら
カラスビシャク(サトイモ科)
(生薬名)ハンゲ(半夏)
(利用部位)塊茎(球茎)
提供 薬用植物総合情報データベース
●効用、用途等
生薬ハンゲはほとんどにおいがなく、味は初めなく、やや粘液性で、後に強いえぐ味を残します。
去痰、鎮吐、鎮静などの作用があり、小柴胡湯(しょうさいことう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) 、小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)などの漢方処方に配合されます。
▼「カラスビシャク」について、さらに詳しく知りたい方はこちら
キキョウ(キキョウ科)
(生薬名)キキョウ(桔梗根)
(利用部位)根
提供 :薬用植物総合情報データベース
●効用、用途等
生薬キキョウはわずかににおいがあり、初め味はありませんが、後にえぐくて苦くなります。
第17改正日本薬局方では、灰分4.0%以下、希エタノールエキス含量25.0%以上と規定されています。
去痰、鎮咳薬として、桔梗湯(ききょうとう)、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)などの漢方処方に配合されます。
朝鮮半島では、キキョウの根が食用として利用されており、えぐみの少ない白花種が用いられていると言います。
▼「キキョウ」について、さらに詳しく知りたい方はこちら
カミツレ(キク科)
(生薬名)カミツレ
(利用部位)頭花
●効用、用途等
生薬カミツレは日本薬局方外生薬規格2015に収載されています。
特異な芳香があり、わずかに苦い味がします。
抗炎症、健胃、鎮静、鎮痙、鎮痛、強壮、利尿、発汗など多くの作用があり、ヨーロッパでは古くから感冒、健胃、婦人薬等として用いられてきました。カミツレは抗炎症作用が強く、ハーブティーとして、ローマカミツレは鎮静作用が強く、精油として多く利用されています。
主な用途は、ハーブティーはじめ入浴剤、シャンプー、乳液や化粧水等の化粧品類、育毛剤、香料原料等です。キク科植物にアレルギーを持つ人は、カミツレ類の使用に注意が必要です。
▼「カミツレ」について、さらに詳しく知りたい方はこちら
サンショウ(ミカン科)
(生薬名)サンショウ(山椒)
(利用部位)成熟した果皮
●効用、用途等
生薬サンショウは特異な芳香があり、味は辛く舌を麻痺させます。
第17改正日本薬局方では、精油含量が1.0mL/30g以上と規定されています。
芳香性健胃薬、駆虫薬として、大建中湯(だいけんちゅうとう)、当帰湯(とうきとう)などの漢方処方に配合され、また苦味チンキ(芳香性苦味健胃薬:構成生薬はサンショウ、センブリ、トウヒ(橙皮))の製造原料としても利用されます。さらに、若芽・若葉は木の芽、雄花は花山椒、未熟な果実は佃煮やちりめん山椒、果皮は香辛料として、それぞれ食材としても用いられます。
▼「サンショウ」について、さらに詳しく知りたい方はこちら
センブリ(リンドウ科)
(生薬名)センブリ(当薬)
(利用部位)開花期の全草
提供 :柴田敏郎
●効用、用途等
生薬センブリ(別名「とうやく(当薬)」)はわずかににおいがあり、味は極めて苦く、残留性です。
第17改正日本薬局方では、スウェルチアマリンを2.0%以上を含むと規定されています。
漢方処方としての使用はなく、民間薬で苦味健胃薬、整腸剤として用いられます。また苦味チンキ(サンショウの項参照)の製造原料として利用されており、育毛剤に配合されることもあります。
▼「センブリ」について、さらに詳しく知りたい方はこちら
ガジュツ(ショウガ科)
(生薬名)ガジュツ(莪蒁)
(利用部位)根茎
提供 :薬用植物総合情報データベース
●効用、用途等
生薬ガジュツは特異なにおいがあり、味は辛くて苦く、清涼です。
第17改正日本薬局方では、精油含量が0.5mL/50g以上と規定されています。
一般用漢方処方の原料としての使用はなく、芳香性健胃薬として胃腸薬の原料に用いられています。
▼「ガジュツ」について、さらに詳しく知りたい方はこちら
エビスグサ(マメ科)
(生薬名)ケツメイシ(決明子)
(利用部位)種子
提供 :薬用植物総合情報データベース
●効用、用途等
生薬ケツメイシは、砕くと特異なにおいおよび味があります。
一般用漢方処方の原料としての使用はなく、もっぱら民間薬として利用されます。緩下薬、強壮薬として、整腸や便通のため、お茶(ハブ茶)などで用いられます。また、目の炎症等に用い、視力を回復する効能があると言われています。
▼「エビスグサ」について、さらに詳しく知りたい方はこちら
ボタン(ボタン科)
(生薬名)ボタンピ(牡丹皮)
(利用部位)根皮
●効用、用途等
生薬ボタンピは特異なにおいがあり、わずかに辛くて苦い味がします。
第17改正日本薬局方では、ペオノール1.0%以上を含むと規定されています。生薬の外面や内面にペオノールの無色板状結晶が析出することがあります。
消炎、鎮静、鎮痛、駆瘀血などの作用があり、大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、温経湯(うんけいとう)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)などの漢方処方に配合されます。
▼「ボタン」について、さらに詳しく知りたい方はこちら
ハトムギ(イネ科)
(生薬名)ヨクイニン(薏苡仁)、ハトムギ
(利用部位)種皮を除いた種子(ヨクイニン)、果実および苞鞘(ハトムギ)
●効用、用途等
生薬ヨクイニンは第17改正日本薬局方に、生薬ハトムギは日本薬局方外生薬規格2015にそれぞれ収載されており、種子の糯性に関しては、薬局方に確認試験、局外生規に純度試験が規定されています。
ヨクイニンは弱いにおいがあり、わずかに甘く、歯間に粘着します。
利尿、消炎、鎮痛、排膿、滋養強壮などの作用があり、薏苡仁湯(よくいにんとう)、麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)などの漢方処方に配合されるほか、民間薬として、いぼ取りや肌荒れに用いられます。さらに、ハトムギとしての利用も含めて、お茶、麺類、お菓子などの食品や化粧品の原料としても利用されます。
▼「ハトムギ」について、さらに詳しく知りたい方はこちら