シドケ(モミジガサ)
由来と特徴
●和名がモミジガサのキク科コウモリソウ属の宿根草で、全国のやや湿った野山に自生します。
自生地のシドケ(撮影地:金山町)
●キク科の山菜にはクワダイ(和名イヌドウナ)やタマブキ(和名)などが知られています。どれも似たような食味の山菜で、同じような食べ方をします。その中でも、最も知られているのがシドケ(和名モミジガサ)です。
●春に若芽が伸び、山形県では8月上旬~上旬の夏に茎の上部に円錐花序を付け、白色の頭花をたくさん咲かせます。10月~11月にかけて種子が稔実します。
●種子には休眠があって、一般には自然の低温に遭遇した後、春になってから発芽を開始します。
●地下部には、切り花ギクと同様に、夏~秋にかけて冬至芽(うど芽)(以下、芽と記述)が着生します。この芽は翌年の春に伸びだす若芽となります。
●茎は直立し、各節に一枚の葉をつけます。
●若芽の茎の色は赤から緑と変化があり、赤味の強いものを通称「赤軸」、赤味がほとんどないものを「青軸」と呼んでいますが、加熱調理した場合はどちらも緑色になります。
●芽には休眠があります。山形県では1月上旬には自発休眠は終了しています。
●根は切り花ギクと同じように、細根の多い植物です。そのため、排水の悪い土壌は栽培には適していません。自生地でも尾根近くの、比較的排水の良い場所に自生しています。
●日照条件は、直射日光があたらない場所が適しますが、中山間地域のように、夏季に涼しい地域では、日除けがなくとも十分生育させることができます。栽培事例からは、青軸の系統の方が日向に強いといわれています。
●促成物も出回っていますので、比較的なじみのある山菜です。キク科山菜特有のアクがありますが、この食味が好まれています。
●おひたし、和え物などに料理されます。
●青軸の方が、やや高値で取引されています。
●株の場合は、種苗会社から購入することが可能です。ただし、種子は販売されていません。
●多くは、既存の栽培者から直接購入されています。
増殖方法と育苗
●増殖は、実生、挿し芽、株分けの三とおりの方法があります。
「実生繁殖:直播」
●種子が稔実する時期は、山形県では10月下旬です。
●種子が飛散する直前に採取し、2、3日乾燥させ、風選で種子を選り分けます。
●採取した種子は、多くの「しいな」(不稔種子)を含んでいるため水選します。
●小さなポリバケツや洗面器に水を張り、採種した種子を入れると「しいな」が水面に浮いてくるので、網じゃくしなどで取り除きます。
●水選した種子は、ただちに播種します。
●播種後、自然の低温を受け、地温が上昇する翌年の春に発芽をはじめます。
●種子を保存する場合は、0~5℃の冷蔵庫で乾燥しないように密封します。
●保存期間が30日以上になると種子の休眠はなくなるため、播種が可能です。
●播種は、散播や条播です。本畑1a当たりに必要な苗床の面積は3㎡程度です。
●播種後は種子が隠れる程度に覆土し、播種床が乾燥しないように日除けを行ないます。
●この状態で越冬し、翌年に育苗を継続することで、6月下旬から7月上旬に定植期を迎えます。
「実生繁殖:箱育苗など」
●育苗箱(プラントバットなど、以下同様)で育苗することができます。その他、セルトレイに播種する方法もあります。
●用土は育苗箱の場合は市販の園芸培土を、セルトレイの場合は専用用土を使用します。
●低温期に播種した場合は、地温を20~25℃に加温すると発芽が促進します。
●定植に適した苗の大きさは3、4葉苗です。山形県の場合、2月播種で加温育苗した場合、5月には定植適期になります。
シドケの花(撮影地:最上産地研究室)
「挿し芽繁殖」
●挿し穂の調整する茎は、山形県の場合。開花前の茎が、やや固くなる梅雨期(6月上旬)に採取します。
●採取した茎は、各節ごとに切断して、挿し穂を調製(節挿し)します。
●茎の先端部分は、葉を2、3枚残して、挿し穂として使用します。
●用土には、川砂:鹿沼土:赤玉土=1:1:1に混合したものなどを使用します(一例)。
●挿し穂は、用土の表面に葉の付け根(節)が触れる程度に差し込みます。
●遮光率70%程度で管理し、乾燥しないように数日おきに散水します。
●挿し穂の地下切断面や葉の付け根から発根します。
発根した挿し芽(撮影地:最上産地研究室)
●翌年に伸長する芽は、葉の付け根に発生した腋芽、または腋芽の下方に発生する芽です。
●腋芽からの発根を促すため、挿し穂を挿す深さは、用土に触れる位置がポイントです。
●腋芽から発根が確認できたら挿し芽は終了です。秋季や翌春に本畑に定植します。
「株分けの場合」
●切り花ギクと同じように、多くの芽を地下に形成します。
●株分けでも、多くの苗を確保することができます。
●刃物を使用しなくとも、容易に1芽ごとに分割できるのが特徴です。
定植
●定植する圃場は、排水が良いことが前提です。堆肥を1a当たり400kg以上施用して土づくりを行ないます。
●弱光化でも良く生育します。夏季に高温で乾燥しやすい地域では、遮光率70%の資材で日除けを行います。ただし、夏季冷涼な中山間地域では遮光は必要がありません。
●施肥は、基肥と追肥を合わせて、窒素成分で2kg程度を施します。
●栽植距離は、うね幅100~120cm、株間10~15cmの4~5条植えです。
●山形県では、種子育苗の場合は5~6月、挿し木育苗や株分けの場合は、秋や早春に定植時期です。
●定植後は雑草対策のため、除草を行ないます。雑草防止のため、完熟の籾殻堆肥でマルチングするのも効果的です。
植付後の管理
●通路の雑草が重点的な作業になります。
●有機質肥料中心に、窒素成分で1a当たり1.6kgを施用します。
●雑草防止と乾燥防止のために、毎年切り藁をうねの上に敷きます。切り藁がない場合は、完熟堆肥で代用できます。その場合は、施肥量を約30%減らします。
●葉がしおれるなど、乾燥が激しい場合は、葉が枯れ込んだりしますので、かん水が必要な時期があります。
●連作は好ましくありません。
生育状況(撮影地:最上産地研究室)
露地どりの収穫
●定植2年目の春から収穫できます。
●伸びた若芽が15~20cmになったら収穫します。株当たり1、2本を残すと次年度も収穫を継続することができます。
●収穫した物は、15~17cmに調整して、100~300gに結束して出荷します。
●収量は1a当たりで80~100kg程度です。
促成(早熟)栽培
●促成(早熟)栽培は、促成と株養成を隔年行う方法です。
●この場合は、あらかじめパイプハウス等の施設内で株養成します。株養成は、露地どりに準じます。
●自発休眠が終了する1月上旬(山形県の場合)から、ハウスを被覆して生育を促進します。
●カーテンやトンネルを設置して保温します。昼温は25℃以上に上昇しないように換気します。
●土の表面が乾燥した場合は散水します。
●山形県の場合は3月中旬から収穫が可能です。
「加温の場合」
●夜温は10℃以上を保ちます。昼温は、無加温栽培と同様に25℃以上に上昇しないように温度管理します。
●2月下旬から収穫できます。
「収穫」
●露地栽培と同じように、株当たり1、2本残して収穫するようにします。
●50または100gのトレイなどにパッキングするのが、この時期の荷姿です。
「収穫後の管理」
●露地栽培に準じて施肥を行ない、株養成に努めます。
●ハウスは晩霜の危険がなくなった時期に被覆を除去し、株養成を行います。
「ハウス促成栽培」
●伏せこみによる促成方法です。
●晩秋に露地圃場から株を掘り上げ(積雪地域は促成開始まで仮伏せ)、自発休眠が終了する1月上旬以降(山形県の場合)に、促成床に植えつけます。
●若芽を最後まで収穫するのが特徴です。
●移動が容易な、育苗箱に伏せ込んで生育させる方法も事例があります。
●温度管理、収穫は加温栽培と同様です。
公益財団法人 やまがた農業支援センター
阿部 清
◆その他の山菜に関する情報はこちら