提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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雑穀・山菜・その他

ヒエ栽培

(2022年6月 改訂)

概要

「起源と栽培の歴史」
●日本の栽培ヒエは、一年生野生種のイヌビエやヒメイヌビエと近縁であり、これらが栽培ヒエの祖先種と考えられています。一方、インドヒエはコヒメビエが祖先種であり、それぞれ別に起源したと考えられています。
●各地の縄文時代中期の遺跡から、炭化したヒエの種子が多く見つかっていることから、最も古い穀物の一つとして、イネの伝来以前から栽培されてきたであろうと考えられています。
●ヒエは、縄文時代から神話の時代、江戸、明治を経て、昭和の戦後まもなくまで、全国で栽培されてきました。
●特に、イネが作れない低湿地や険しい山間の田畑でも栽培でき、イネが凶作の年でも良く実ることから、庶民の貴重な食料源として重宝されてきました。
●戦後、寒さに強いイネ品種の開発や、栽培技術の進歩、換金作物への転換などから、昭和20年代に3万ha以上あったヒエの栽培は、昭和47年には5千ha以下にまで減少し、その後も減少の一途をたどりました。
●2019年の栽培面積はわずか43.6haであり、その91%が岩手県で栽培されています。(公益財団法人日本特産農作物種苗協会、2021年)
●近年は、健康志向の高まりとともに雑穀の栄養的価値が見直され、主に水田転換作物として栽培されています。水稲用の田植機、収穫機、乾燥機などを汎用的に使えることから、作業の機械化、省力化が可能になっています。

「栄養的価値と利用法」
benri_2022hie_0.jpg●ヒエの精白粒には、マグネシウム、リン、鉄などのミネラルが白米の2倍以上含まれています。また、胚芽が大きいこともあり、ビタミンB1は白米の約3倍含まれ、タンパク質含量も高いなど、非常に優れた栄養的価値があります。(日本食品標準成分表2020年版(八訂)より)
●ヒエの精白粒の食物繊維は白米の約8倍と豊富です。利用可能炭水化物(質量)に対する食物繊維の割合(F/C)は、白米が0.6%なのに比べ、精白ヒエでは6.0%と10倍の差があります。(日本食品標準成分表2020年版(八訂)より)
●このため、炭水化物による血糖値の上昇しやすさを表す指標、グライセミックインデックスは、白米が77前後であるのに対して精白ヒエは50前後(Roopashree Ugareら 2014)と極めて低い値です。ヒエは血糖値を上昇させにくい穀物であると言えます。
●一方で、必須アミノ酸のリジンは白米よりは多いものの、一般の穀物と同様に少ないことから、調理や副食で補っていく必要があります。
●調理方法としては、精白粒を米に混ぜてヒエ飯にしたり、お粥に炊いたりします。玄ヒエを発芽させて水飴にしたり、精白粒を発酵させて甘酒にしたりして楽しみます。
●味噌、醤油、ヒエ酒等の醸造にも用いられています。最近は、ヒエカレーやヒエそうめんなど、新たな食品も数多く販売されています。

「ヒエの精白方法と特徴」
●ヒエは稃(ふ:米のもみに当たる部分、頴:えい)が密に玄穀に張り付いているため、脱稃(だっぷ)が非常に難しく、様々な方法が工夫されてきました。
●古くから岩手県北地方などで行われてきた、黒蒸し法、白蒸し法、白乾し法の特徴は、次の通りです。

<黒蒸し法>
●水洗い、水漬け、蒸しあげ、乾燥の工程により、脱稃しやすくする方法です。その後、もみすり、精白しますが、砕粒が少なく、精白歩留まりが高いのが特徴です。
●デンプンがアルファ化し、精白後のヒエはアメ色になります。

<白蒸し法>
●水洗い後、蒸しあげて、乾燥します。黒蒸し法に比べて、水漬け工程がない分、簡便です。精白歩留まりは黒蒸し法に劣ります。
●精白度はやや良好で、色沢は淡い黄白色になります。

<白干し法>
●よく乾燥したヒエを直接機械で精白する方法です。もみすり機で脱稃し、循環式の精米機で精白します。蒸し工程は省略できますが、砕粒しやすいため慎重に作業を行います。精白歩留まりは50~60%と高くはありませんが、現在は、この精白方法が一般的です。
●製品は白くて綺麗で、味にくせがなくほんのりした甘さがあるので、そのままヒエ飯やお粥に炊区など、美味しく調理することができます。また、製粉して麺類やパンなど白色の食品に利用することもできます。
●白干し法の機械作業工程(岩手県農業研究センター県北農業研究所研究成果2002年及び中西商量ら2014年を参考)

1.乾燥 :仕上がり水分12~13%までよく乾燥する。
2.粗選 :粗選機で、茎葉等の夾雑物を除去する。
3.脱稃 :インペラ型もみすり機を用いて脱稃する。脱稃後に、揺動型比重選別機または風選機を用いて、脱稃粒と脱稃していない粒とを選別する。未脱稃粒は再度この工程を繰り返す。
4.精白 :ヒエにも対応した循環式精米機を用い、慎重に精白する。必要に応じて、雑穀用受け網への取り替え、研米ロールの調整などを行う。

主な品種と種子の入手方法

「品種と特徴」 
●各地域に根ざした在来種や、品種特性が公表されている改良品種を選択すると良いでしょう。
●寒冷地や高評高地では主に早生種を選択します。晩生種は苗を育てて移植するなど、生育を早める栽培法を組み合わせます。温暖地、暖地では早生種の遅播きや、晩生種の早播きができるので選択できる品種が多くなります。

<ウルチ性在来種の例>(長谷川聡2002年及び中條眞介ら2013年を参考)
○軽米在来(白ヒエ)
 :早生、稃色は濃灰褐、やや長稈、穂数が多く多収、脱粒性は易。
○飛騨在来(早生)
 :早生、稃色は灰褐、短稈、長穂、穂数はやや少、脱粒性は易。
○もじゃっぺ
 :中生、稃色は褐、長稈で倒伏しやすい、やや少収、脱粒性は易。アミロース含有率が13%前後と低いため加熱炊飯した穀粒の粘りが強い。
○達磨
 :晩生、稃色は淡黄灰白、短稈で倒伏に強い、穂数は少、1穂着粒数は多、大粒、多収、脱粒性はやや難。

<モチ性品種の例>(星野次汪ら2012年、同2020年などを参考)
○長十郎もち
 :岩手大学育成の世界初のモチ性ヒエ、稃色は褐、かなり長稈で倒伏しやすい、穂数はやや少。
○なんぶもちひえ
 :岩手大学育成のモチ性ヒエ、長十郎もちより短稈で耐倒伏性が改善、収量性は劣る。

●農研機構ジーンバンク事業においては、栽培種のヒエ1,224点、うち国内品種系統1,210点(2019年現在)の種子が保存されています。
●岩手県雑穀遺伝資源センターでは、ひえ126系統(2020年現在)の種子が保存されています。

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ヒエ種子の外観(岩手県農業研究センター県北農業研究所)

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左 :軽米在来(白ヒエ)の穂(出穂後)/ 右 :達磨の穂(成熟期)

「入手先」
●各産地では独自に種子の供給を行なっています。しかし、いずれも一般販売はしていません。
●品種は限られますが、以下の種苗会社などで販売を行なっています。(2021年現在)
 ○タキイ種苗 白ヒエ(極早生)
 ○佐藤政行種苗店 白ヒエ(岩手県産)
 ○野口のタネ 白ヒエ(岩手県産)

水田移植栽培

●水田移植栽培は、育苗や移植に労力を要しますが、安定した収量が期待でき、栽培管理も比較的容易です。

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ヒエの水田移植栽培(岩手県軽米町)

表1 水田移植栽培の生育時期と主な作業(岩手県 晩生種)
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「圃場及び種子の準備」
●ヒエは適用土壌が広く、よく育ちますが、雑草防除には労力を要します。このため、荒地や休耕田は避け、前作でしっかりと雑草対策を行なった水田を選択しましょう。
●前年の秋にプラウなどで耕起を行ない、春には砕土・整地・代かきをていねいに行い、雑草発生を抑制しましょう。

「種子の精選」
●しっかりと乾燥させて保存したヒエの種子は、低温貯蔵(5、15℃)で5年程度は発芽率が保たれます。室温貯蔵(冷暗所)では発芽率の低下が大きい場合があるので、長い年月を経た種子には注意が必要です。

「種子準備」
●10a当たり400~500gの種子を準備します。あらかじめ風選(とうみ選)等を行い、充実したものを使うようにしましょう。塩水選の必要はありません。

「施肥」
●堆肥は牛厩肥であれば10a当たり1~2t程度施します。
●堆肥が十分に確保でない場合は、化学肥料で10a当たり窒素3~4kg、リン酸6~8kg、カリ3~4kg程度(いずれも成分量)を目安に施肥を行います。施肥窒素量が多すぎると、倒伏するおそれがあります。

「播種」
●4月下旬から5月上旬に、水稲用育苗箱に1箱20g程度を散播します。覆土は種子が隠れる程度とします。
●栽植密度にもよりますが、10a当たり20~23箱程度を目安に準備します。

「出芽」
加温出芽器で30℃、30~40時間加温し、出芽長5mm程度に揃えます。または、無加温のビニールトンネル内で出芽させます。

「育苗」
●出芽後はビニールハウス内で、徒長させないよう水稲よりもやや低い温度で育苗管理します。育苗期間は20~30日を目安にします。
●出来上がりの草姿は、草丈20cm程度、葉齢2.5~3.0葉程度を目安にします。

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ヒエの育苗  出芽時(左)、移植前(右 プール育苗)

「田植え」
●落水し、水稲用の田植機で移植を行います。
●うね間は水稲と同様に30cmとし、株間は15cm程度とします(約22株/㎡)。植え付け本数は5~6本/株とし、植え付け深さ3cm程度に、しっかりと植え付けます。

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左 :乗用田植機によるヒエの移植作業(岩手県農業研究センター県北農業研究所)
右 :移植1カ月後の生育状況(同)


「水管理」
●移植後は、ヒエの葉先が水面から見える程度の浅水で管理します。

「除草」
●早め、早めに除草機を利用して、うね間、株間の除草を数回行います。
●除草剤としては、以下が使用可能です。

表2 水田移植栽培に適用のある除草剤 農薬登録情報提供システム(2022年1月現在)より
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(使用前に必ず登録内容を確認して下さい)

「病害虫と対策」
<アワノメイガ>
●ヒエ、アワ、キビ、モロコシなどの茎に侵入し、折損や枯死を引き起こします。高温で乾燥気味の気象条件で発生が多くなります。
●被害茎は早めに抜き取り焼却します。

<ニカメイチュウ>
●ヒエやイネの茎に浸入して食害し、生育停止や枯死を引き起こします。
●栽培地付近のイネ科雑草の防除に努めて下さい。
●殺虫剤としては、以下が使用可能です

表3 ヒエに使用できる殺虫剤 農薬登録情報提供システム(2022年1月現在)より
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(使用前に必ず登録内容を確認して下さい)

●農薬の使用に際しては、販売先から取り決めを求められることがあるので、留意する必要があります。

「収穫」
●主産地の岩手県において、5月下旬に移植した晩生種「達磨」の出穂期は8月中旬頃で、収穫適期は概ね出穂後35日です。
●茎や茎葉が黄変し、穀実の80%程度が熟色になり、手で握ると脱粒するようになったなら、素早く収穫します。
●収穫が遅れるほど、鳥害や台風による脱粒が多くなるので、早めに収穫することが必要です。
●汎用コンバインでは、オプションキットを装着し、穀実が漏れるカ所は目張りをします。風量を少なくし、チャフシーブの開度を狭くします。
●刈り取り部を高くして、高刈りを行います。
●稈長が130cm以下であれば、自脱型コンバインで刈り取ることもできます。

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汎用コンバイン(クボタERH450E-CG キャビン・グレンタンク仕様)

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汎用コンバインによるヒエの収穫(岩手県花巻市)

「乾燥・調製」
●コンバインにより収穫された穀実は、平型穀物乾燥機を用います。循環型穀物乾燥機を用いる場合は、風胴部の網を穀実が網から漏れ出さないよう目の細かなもの(1mm程度)にするなど、雑穀の乾燥に必要な部品を取り替えます。
●送風ファンの風量を高め、毎時乾減率0.6%程度で、仕上がり水分12~13%までよく乾燥します。
●穀実に、脱穀が不十分な穂や茎葉が混入している場合は、脱穀機や粗選機を用います。
●穀類選別機(ふるい選別、風力選別、石取りなど)を用いて、ていねいに選別を行います。
●精白粒を販売する場合は、さらに手選別によって、念入りに異物などを取り除来ます。

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雑穀の乾燥・調製施設(岩手県花巻市)

畑地直播栽培

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ヒエ「達磨」の畑地直播栽培(岩手県軽米町)

表4 畑地直播栽培における栽培時期(△播種適期、○収穫期)
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表5 岩手県におけるヒエ直播栽培の作型(早生種)
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「圃場の準備」
●重粘土や排水不良でも育ちますが、作業に支障が出ないよう、排水の良い畑地を選定します。
●作土のpH矯正は通常は必要ありません。pH4.2以下の強酸性土壌やpH7.2以上のアルカリ性土壌では、生育が劣るので避けるようにします。
●堆肥は、牛厩肥であれば2t/10a程度を施します。
●施肥は10a当たり窒素3~4kg、リン酸6~8kg、カリ3~4kg程度(いずれも成分量)を目安に施肥を行います。肥沃な圃場では施肥量を控えるか無肥料とします。

「種子の準備と播種」
●平年の晩霜日を過ぎた頃が播種適期です。
●ヒエは生育が旺盛で分げつ数が多いので、播種量は控えめにし、1~2L(1Lは450~490g程度)とします。
●条播が一般的で、条播機を用いて、うね間60cm程度(中耕培土機に応じて加減して下さい)、まき幅10cm程度とします。
●真空播種機により点播する場合は、うね間60cm程度(中耕培土機に応じて加減して下さい)、株間15cm程度とし、1株に5~10粒を播種します。
●覆土は1~2cmとし、播種機の鎮圧輪でしっかり鎮圧を行います。

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真空播種機による点播作業

「間引き」
●出芽揃い後に苗が混み合っている場合、出芽揃い後10~14日頃と、そのおよそ10日後を目安に、間引きをします。あわせて株間の表土を攪拌し、除草を行います。
●条播では1mに30~80本くらいの苗立ち数になるように間引きます。点播では1株当たり5本程度に間引きます。

「中耕培土」
●播種後20日頃からうね間を攪拌し、株もとに培土(土寄せ)を行います。中耕培土が遅れると、雑草の繁茂をまねくおそれがあるので、先手の作業を心がけましょう。
●その2~3週間後に2回目の中耕培土を行います。しっかり株元に土を寄せて、雑草の発生を抑えることが大切です。

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乗用管理機による中耕培土作業(岩手県軽米町)

●追肥は、生育が劣る場合のみ、2回目の培土に合わせて、10a当たり窒素成分量で1~2kgを施肥します。

「病害虫と対策」
<アワノメイガ>
(水田移植栽培と同様)
<アワヨトウ>
●乾燥年に多く発生し、突発的に大発生して出芽して間もない幼苗を食害し、大きな被害をもたらします。
未熟堆肥の使用は避けるようにします。

執筆者 
及川一也
株式会社クボタ

●主な引用文献、参考図書
 及川一也著(2003) 雑穀 11種の栽培・加工・利用
 古澤典夫監修(2000)雑穀~つくり方・生かし方~ 関塚清蔵著(1988) ヒエの研究
 増田昭子著(2007) 雑穀を旅する
 小田哲二郎著(1981) 雑穀―その科学と利用―
 山口裕文・河瀬真琴編著(2003) 雑穀の自然史

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