ソバ栽培
概要
「由来と特徴」
●ソバは、タデ科、ソバ属に分類される一年生草本作物です。
●栽培されるソバの仲間には、ダッタンソバという別の種類もあり、利用される野生種には多年性の宿根ソバ(シャクチリソバともいう)があります。
左上 :ダッタンソバ。虫が無くても受精する自殖性
右下 :宿根ソバ(シャクチリソバ)。花はソバに似ているが野生の多年性
●原産地は、中国南部の四川省から雲南省にかけての山岳地帯、特に三江地域と推定されています。
●4600年前のソバの種子が東チベットの遺跡から見つかっており、起源地から東アジアやヨーロッパに伝わったと考えられています。
●日本では、縄文時代晩期に各地で栽培されていた証拠があります。
「栽培状況」
●現在の栽培地は、中国、ロシアなどの夏に涼しい地帯が中心です。イネが栽培できないアジアの中山間地では、主食用に栽培されています。
●日本では、北海道や中部地方などの冷涼な地域で栽培が盛んであり、水田転作作物としても各地で栽培されています。
●水田転換畑では明渠や暗渠が湿害回避のために有効ですが、もし湿害が発生したら、亜リン酸水溶液の葉面散布が効果的とされています。
「利用法」
●原産地の中国では、種子は麺、饅頭、粥、プリン(蕎涼粉)、茶として利用されています。茎葉部は蔬菜として食べられています。
●インドやネパールでは、焼きパン(チャパティ)が、ロシアやポーランドでは主に粥やクレープ、イタリアではパスタとしても利用されています。
●日本では、麺にして食べるのが主流ですが、熱湯などを粉に加えてかき混ぜる「ソバがき」や、団子としても食べられてきました。
主な品種と種子の入手方法
●地方在来品種は日本にも多数ありますが、他殖性なので改良品種と混ざり合い、純粋な在来品種は減りつつあります。
●ソバの改良品種は、日本では約30品種が登録され、各地に特色ある品種があります。
●ソバの品種は、夏の栽培が可能な夏栽培型のソバ品種と、秋に栽培しないと種子がとれない秋栽培型のソバ品種があります。
●これらの栽培型は日長に対する反応の遺伝的な違いで区別されます。北海道では霜が早く来るため、夏栽培型の品種しか作れません。
●種子の入手は他の雑穀よりも簡単で、種苗会社や試験場から購入するか、栽培地の農家から分けてもらいます。
左上 :開花盛期のソバ(信濃1号)
右下 :ソバには珍しい赤い色の品種もある(高嶺ルビー)
栽培
「播種前の準備」
●ソバは極めて成長が早いので、雑草防除のために深く耕す必要はありません。
●ロータリー耕あるいは鍬で土を細かく砕いておくと、出芽率が良くなります。
●ソバは生育中だけでなく、発芽前でも湿害を受けやすいので、水はけの良い畑を選ぶことが大切です。水田を畑に転換して栽培する場合には、圃場に溝を切りましょう。
●施肥は、堆肥ならば10aあたり500kgから1tほど施します。ただし、ソバはたいへん倒伏しやすい作物ですので、前作の肥料の残効のある土地では、施用量を少なめにしましょう。
●堆肥が入手できない場合は、元肥として化学肥料(窒素、リン酸、カリ)を10aあたりそれぞれ3~4kg程度施用します。
「播種」
●播種する時期は、夏に夏栽培型品種を栽培する夏栽培(いわゆる夏ソバ)と、秋に秋栽培型品種を栽培する秋栽培(いわゆる秋ソバ)では異なります。夏ソバは6月初旬に、秋ソバは8月初旬に播種します。
●夏栽培型品種は秋栽培も可能ですが、秋栽培型品種を夏栽培することはできません。
●播種量は10aあたり4~6kgが標準で、畦幅30~50cmで条播し、それぞれの畦の中の播き幅は10cm前後にします。播種量の目安は、10aあたり5kgの場合、畦幅30cmならば100mで150g程度とします。なおコンバイン収穫を予定する場合には散播でかまいません。
●播種深度は1cm程度とし、深くならないように注意し、足で丁寧に鎮圧します。ロータリーカルチベーターを用いる場合は、軽く表面のみ攪拌します。
●間引きは、個体密度が高い場所以外にはしません。
左から上から ロータリーシーダー / 播種後の鎮圧
「除草と土寄せ」
●ソバは、除草がいらない作物です。ただし、暖かい地域での夏ソバでは雑草が発生しやすいので、畦間の除草をします。
●土寄せ(培土)をすることで、明らかに収穫量が多くなるので、畦間の除草を兼ねた土寄せはおすすめです。
「収穫・調製」
●種子の褐変程度で、登熟程度を判断します。種子の色が60%以上褐色になったら、収穫します。コンバインの場合は、80%以上まで褐変するまで待ちます。
●手刈りの場合には、図のように結束して、圃場に1~2週間程度干します。手刈りの後に島だて乾燥すると、機械収穫よりも品質が良好です。
●脱穀には、イネ用の脱穀機を代用できます。ゴミなどを取り除くため風選するか、または篩(ふるい)にかけます。
●ソバは過乾燥すると食味が損なわれるため、水分を15%程度に保持することが必要です。
左上 :結束して乾燥(島だてと呼ぶ)(松本市奈川)
右下 :コンバインでの収穫(宮崎県国富町)
「病害虫」
●病気が少ない作物と言えるでしょう。
●害虫の被害は通常ではほとんど無く、稀にヨトウムシによって葉を食べられることがあります。
●指定農薬はありません(2009年現在)。
ソバの受精は昆虫や風にたよる他殖性。イチモンジセセリはイネの害虫だが、ソバにとっては大切な益虫
井上 直人
信州大学 農学部教授
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