安全編(3) 農作業事故の実態 III
機械別事故発生の解析
ここでは、それぞれの農業機械が起こしやすい事故とその原因を解説する。
「トラクタ」
●トラクタにおける転落・転倒事故の発生は、圃場内と道路上の両方で、同じ程度発生している。これは、トラクタの構造・作業環境・道路事情によるものと推察される。
●トラクタは、圃場内での作業効率をよくするため、ブレーキが左右独立して使用できるが、道路走行中は連結することが基本である。多くの事故例からは、「連結忘れ」が散見される。
●圃場から出る際、道路に出る瞬間、必ずブレーキを踏むが、ブレーキ未連結の場合には、ハンドルを取られ、転落・転倒につながりやすい。
左 :ブレーキ非連結(圃場内作業時) / 右 :ブレーキ連結(圃場内作業以外)
●また、機体後部に作業機を搭載しているため、後部加重になり、操縦不能につながりやすい。
●トラクタは構造上、乗用車等と比べ重心が高く、サスペンションもないため、路面や圃場の凹凸の影響を直接受けやすく、転倒や操縦不能につながりやすい。
左から上から 作業機搭載により重心位置が移動 / トラクタの転倒角
●道路走行時は、カーブ等での遠心力の作用が大きくなりやすく、作業機を搭載した路上走行では、その影響が大きくなる。
遠心力の影響
● 走行速度が15km未満の小型特殊自動車に分類されるトラクタでは、以下の理由から現代の交通事情に不適な場合がある。
①他車(普通自動車等)との速度感覚の違い
②保安部品(方向指示器・制動灯・後退灯)の整備不良や汚損等による、交差点での交通事故
③反射板や車幅灯の汚損・不整備による、薄暮時間帯の他車からの認識遅れ など
「歩行型トラクタ」
●歩行型トラクタでは、格納庫やハウス・施設の柱や壁、木との間に挟まれる事故が多い。これは、後退時の後方に対する注意不足、挟まれ始めてからのクラッチ操作の困難さなどが原因と考えられる。
●また、歩行型トラクタは構造上、後退時にはハンドルを持ち上げる力が作用するため、挟まれやすくなっている。
小型トラクタの挙動
「農用運搬車」
●農用運搬車には、道路上を乗車して走行できる乗用型と乗車できない歩行型とがある。
●荷台の荷物の積載方法により、重量バランスが崩れたり、路面の影響を受けたり、道路側端に寄り過ぎることによる転落・転倒が見られる。
●農用運搬車を運転するのは高齢者が多く、身体能力低下による判断遅れや操作遅れ、誤操作などによる事故が多くなっている。
●道路走行時に他車からの発見・認識が遅れて、衝突・追突されることがある。
<自脱型コンバイン・動力防除機>
●圃場内の凸凹、畦越え時、圃場の出入口の傾斜角などに起因する事故が多い。
●自脱型コンバインなどの履帯式走行装置(クローラ)では、畦越え等の場合、畦に対して直角に走行するのが基本であるが、斜めに通過すると転倒しやすい。
●グレンタンクに籾が入っている状態では、重心が高くなり転倒しやすくなる。
<動力刈払機>
●圃場周りの法面の草払い時に体勢を崩したり、滑落などによる刈刃との接触事故が多い。
●刈刃に雑草が巻きついた際、エンジンを止めずに除去する、適宜休憩を取らずに、キックバック時に刈払機を制御できない事による事故も散見される。
●作業者自身よりも、他の作業者等を傷つける場合が多い。
●ハンドル振動・騒音対策としても、こまめに休憩をとることが望ましい(連続使用30分以内)。
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