スマート農業編 トラクター
- 技術の概要
- 技術導入のメリット
- 具体的な機能
- 作業手順(作業前の確認事項)
- 作業手順(基地局やセンサ等の準備)
- 作業手順(運転前準備と自動運転)
- 作業手順(運転前準備とオートステア運転)
- 使用例
- 留意すべき点
- その他
技術の概要
●本項をお読みになる前に、基本技術となる「自動操舵(GPS)」の項をご一読いただくことをおすすめします。
●航法にはRTK-GPS(GNSS)や方位センサ(慣性航法装置など)が使用されています。
GPSアンテナと各種センサ
●人や作業環境の検出にはTVカメラ、ソナー(超音波センサ)、レーザービーム(ライダー、Lider)、接触センサが使用されています((株)クボタMR1000A-Aの場合)。
●自動運転時は、操舵機構(ハンドル)、倍速ターン機構、左右ブレーキ、スロットル(アクセル)、エンジン停止機構、クラッチ、主変速、PTOクラッチおよびPTO変速、作業機昇降機構(油圧)が自動制御されます。オートステア時は、操舵機構(ハンドル)が自動制御されます。
●自動運転やオートステアのための設定や操作には、タッチパネル式のターミナルモニタ(自動運転モニタ)を使用します((株)クボタMR1000A-Aの場合)。
ターミナルモニタ(左)、タブレット(中央)、外部操作用リモコン(右)
●自動運転時に運転者が搭乗しない場合は、初期設定等を除き、タブレットや外部操作用リモコンによって車外から操作が可能です。
技術導入のメリット
「秋起こし(有人トラクター+無人トラクター)の例」
●秋起こしを前提に、熟練運転者一人が100PS級の有人機と同クラスのレベル2自動運転機を駆使して、有人機が狭小圃場や変形圃場、手動運転が必要な自動運転後の圃場外周部の処理を行い、かつ自動運転機の移動や初期設定を行いました。その結果、慣行作業では1日(6時間)で一人あたり2.5~3haの処理量が、同じく5.3haまで向上した例があります。
●有人機、自動運転機ともに運転者の到着を待つ無駄時間(機械が稼働していない時間)が発生しますが、協調作業の効果に比べれば問題にならない時間でした。
●管理する約150枚の圃場のうち、協調作業を適用可能な圃場の数は約8割、面積比では約9割でした。
●運転者から「単調な運転作業が続く慣行作業に比べ、2台の機械の間を歩行移動することが適度な休息となり、かえって疲労感が減った」との感想も報告されました。
●他のメリットについては、「自動操舵(GPS)」を参照してください。
隣接圃場における自動運転機と有人機の協調作業(概念図)
具体的な機能
以下、主に(株)クボタMR1000A-Aの場合について記しますが、メーカーによって違いもありますのでご注意ください。
●圃場のマップに応じて自動運転を行う「自動運転」モード(レベル2)、もしくは枕地旋回等は運転者が手動で行い、往復作業の直進維持を自動で行う「オートステア」モード(レベル1、前進時及び後進時)が選択できます。
●現在のところ、自動運転が可能な作業は、「ロータリ耕うん」「スタブルカルチによる粗起こし」「代かき」「ブロードキャスタによる施肥」「耕起・同時播種作業」です。
●作業方法は、まず中央部往復行程作業を行い、続いて枕地耕(圃場中央部の隣接行程作業に続く外周部の周り耕)を実施します。
●現時点では、耕うんの場合、圃場最外周から枕地耕4周分(枕地耕を自動運転で処理しない場合)、または2周分(内周2周を自動運転で処理する場合)は手動運転となります。代かきの場合は同じく2周分、粗耕起の場合は4周分、播種の場合は作業機の作業幅によって3~6周分、施肥の場合は同様に1~4周分が手動運転となります。
自動走行行程と行手動運転行程(概念図)
作業手順(作業前の確認事項)
●大まかな手順は「自動操舵(GPS)」を参照してください。
●詳しくは、取扱説明書を参照してください。
●安全確保や確実な自動運転作業を行うために、レベル2以上の自動運転を行うには、製造者等が行う使用者教育を受けなければなりません。レベル1の場合であっても、同様な教育を受けるのが望ましいです。
作業手順(基地局やセンサ等の準備)
●可搬式基地局は、移動局(自動運転トラクター)から500m以内の地点で、移動局との間に建物や林など電波をさえぎるものがない所定の位置に、正しく設置します。
●トラクター側のGPS移動局ユニット、タブレット端末ユニット、リモコンアンテナを立て、適正な状態にあることを確認します。
●前方レーザーとソナーが装着されているフロントセンサステーを開いて、使用可能な状態にします。
●ターミナルモニタ起動画面で「自動運転」または「オートステア」を選択します。以下、「自動運転」と、続いて「オートステア」の作業手順を解説します。
作業手順(運転前準備と自動運転)
●ターミナルモニタにて車両の電子制御、GPS、方位センサが正常に作動することを確認します。
1.新規マップ作成、既登録のマップの編集もしくは削除
●新規マップ作成や既登録のマップの編集・削除を行わない場合は、次項「2.各種センサやリモコンの動作確認」に、マップの編集・削除を行う場合は、<(2)既登録マップを利用する場合>に飛んでください。
<(1)マップを新規に作成する場合>
●初めて自動運転を行う圃場では、マップを作成する必要があります。ターミナルモニタ上で「マップ作成」を選択し、次いで「作業機全幅」および「作業機全長」を入力します。
●圃場の角などの位置を正確に記録するため、測位する位置はトラクター(作業機を含む)の右後、右前、左前、左後を切り替えることができます。
ポイントの測位(概念図)
●圃場出入り口の右端から圃場外周を反時計回りに走行して、圃場の外形を倣うように各ポイントを測位してください。
●圃場の外形がカーブしている場合などは、より正確に形状を計測するために細かくポイントの測位を行います。ただし、一つの圃場で記録できるポイントは最大64であり、登録するポイント間の距離は50cm以上離す必要があります。
●終了点に達したら「測位完了」ボタンを押し、正しく圃場マップが作成されていることを確認します。
<(2)既登録マップを利用する場合>
●ターミナルモニタ上で「マップ編集」を選択します。
●圃場の形状に変化があったときなどマップを変更したい場合は、「点追加」または「点削除」、あるいは「点移動」ボタンを押して、マップを修正します。
<(3)既登録マップを削除する場合>
●「マップ削除」を選択し、削除したい圃場マップを削除することができます。
2.各種センサやリモコンの点検と動作確認
●ソナーは変形や破損、水滴あるいは泥の付着などを、レーザースキャナは投受光部の傷や損傷、水滴の付着、凍結の有無などを点検します。
●ターミナルモニタ上で、自動運転モード起動時に、ソナーおよびレーザースキャナの状態が確認できます。
●次いで、外部操作リモコンの動作確認を求める画面が出るので、指示に従って「一時停止」「停止」ボタンの応答を確認します。
3.作業機の選択と作業幅の設定
●自動運転に適用可能な作業機は、予め決められています。
●ターミナルモニタの「作業選択」画面上で「耕うん」「代かき」「粗耕起」「播種」「施肥」の中から、該当する作業を選択します。
●「耕うん」の場合、使用する作業機に応じてロータリ作業幅を2.6mまたは2.8mに設定します。
●「代かき」の場合、作業幅は5.7mに設定されます。
●「粗耕起」の場合、作業幅は3.1mに設定されます。
●「播種」の場合、使用する作業機に応じて2.2mまたは2.4mを選択します。
●「施肥」の場合、使用する作業機の設定等に応じて、施肥左右散布幅を5.0~12.0mの範囲で、0.1m刻みで設定します。
4.ルートを設定
●ターミナルモニタで作業を行う圃場を選択します。圃場「自動選択」がONの場合は、その時点の車両位置に応じた圃場が自動的に選択されます。
●走行ルートは作業によって異なるので、以下に沿って設定してください。
<(1)「耕うん」の場合>
●枕地耕を「自動運転」とするか、「手動運転」とするかを選択します。
●中央部往復行程は隣接行程作業となり、現在のところ、1ライン飛ばし(1行程おきに耕うん)は選択できないようです。
隣接行程作業と1ライン飛ばし(1行程おき)作業(概念図)
○作業する方向を設定します。
○ターミナルモニタに設定したルートを表示し、必要に応じて作業する方向、中央部および枕地のラップ代(隣接行程間の作業重複幅)などの設定を行います。圃場のサイズや形状等から実行が困難な設定をした場合は、エラーメッセージが表示され、作業方向を変更するなど修正を求められます。
○ターミナルモニタの指示に従って、ポジションレバーや高さ規制調整ダイヤルを使用し、旋回や後進時において作業機を上げる高さを設定します。
作業する方向(概念図)
作業幅とラップ代
<(2)「代かき」の場合>
●枕地耕の「自動運転」は選択できないようです。
●中央部往復行程は1ライン飛ばしとなり、現在のところ、隣接行程作業は選択できないようです。
●以降の設定は<(1)「耕うん」の場合>○部分と同様です。
<(3)「粗耕起」(スタブルカルチ)の場合>
●枕地耕は、「自動運転」がデフォルトで選択されています。
●中央部往復行程は隣接行程作業となり、現在のところ、1ライン飛ばしは選択できないようです。
●以降の設定は<(1)「耕うん」の場合>○部分と同様です。
<(4)「播種」の場合>
●枕地耕を自動運転で処理するか否かを選択します。
●中央部往復行程について、隣接行程作業または1ライン飛ばしを選択します。
●ターミナルモニタに設定したルートを表示し、必要に応じて枕地作業回数(3~6周)、作業方向、隣接行程間のラップ代の設定を変更します。圃場のサイズや形状等から実行が困難な設定をした場合は、エラーメッセージが表示され、枕地作業回数、作業方向や枕地走行時のラップ代を変更するなど修正を求められます。
●資材補給について、圃場の辺(補給を行う農道に接する辺)、および資材投入量、資材消費量、補給モードに入る時の資材の残量割合などを設定します。
●以降の設定は<(1)「耕うん」の場合>○部分と同様です。
<(5)「施肥」の場合>
●枕地耕の「自動運転」は現在のところ選択できないようですが、手順として枕地耕を「手動運転」で処理する旨を選択します。
●1ライン飛ばしは選択できないようです。
●ターミナルモニタに設定したルートを表示し、必要に応じて作業方向、隣接行程間のラップ代の設定を変更します。圃場のサイズや形状等から実行が困難な設定をした場合は、エラーメッセージが表示され、作業方向やラップ代を変更するなど修正を求められます。
●資材補給について、圃場の辺(補給を行う農道に接する辺)、および資材投入量、資材消費量、補給モードに入る資材の残量割合などを設定します。
●作業機を上げる高さをターミナルモニタ上で設定します。
5.作業の開始点にトラクターを移動
●ターミナルモニタ上でエンジン回転数、主変速およびPTO速度段、旋回時にAD倍速を使用するか通常の倍速を使用するか、を設定します。
●自動運転における直線作業行程への進入精度を、「通常」「高能率」「高精度」のいずれかに設定します。
●現在の位置から自動運転開始点まで手動操作するか、自動誘導するか、開始点誘導設定を行います。自動誘導を選択した場合は、キャビン内の自動運転スイッチまたはリモコンの「開始」ボタンを押すと、自動誘導を開始します。速度段の設定やセンサの状態等によって自動誘導ができない場合は、手動操作に戻してください。
6.自動運転可能な状態に設定
●正しい向きで自動運転が可能な位置まで移動すると、ターミナルモニタの表示が自動運転開始条件画面に変わるので、指示に沿って変更・確認を行います。
●自動運転開始条件の設定を確認後、車内の自動運転モードスイッチまたは外部操作用リモコンを「ON」にして自動運転モードにします。
●副変速レバーは耕うん、代かき、播種では「低」に、粗耕起と施肥では「高」に設定します。シャトルレバーは「中立」、左右ブレーキは「連結」、PTOスイッチは「切」、油圧レバーは「作業位置」、アクセルレバーは「最低」にします。これらの条件を満たさない場合は、自動運転を開始することができません。
7.中央部往復作業の「自動運転」を開始
●車内の自動運転スイッチまたは外部操作用リモコンの「開始」ボタンを押すと、青色の状態表示灯が点灯し、ホーンが3回鳴って自動運転を開始します。
●所定の一時停止条件を満たした場合、もしくは作業の継続ができない状態になった場合、およびトラクター内の自動運転スイッチまたは外部操作用リモコンの「一時停止」スイッチ押した場合は、走行が停止します。停止した状態でブレーキを踏むと自動運転モードが解除され、手動運転が可能になります。
●「手動運転」になった場合、ターミナルモニタ上で作業を「中断」か「終了」を選択可能で、「中断」の場合はこのときの作業状態が記憶され、後で中断した位置から作業を再開することができます。
●停止した状態で、主変速、エンジン回転、耕深、走行ライン、モンロー角度を変更し、自動運転を再開することができます。
●作業はターミナルモニタの起動画面で「作業再開」ボタンを押すことで、作業内容等を確認の上、再開されます。
8.中央部往復作業の「自動運転」終了
●枕地耕の自動運転処理を選択した場合は、中央部の往復耕が終了すると一時停止し、ホーンが1回鳴って状態表示灯が全灯点灯します。選択していない場合は10.に飛びます。
9.枕地耕の「自動運転」
●自動運転スイッチ(車内)または外部操作用リモコンの開始ボタンを押すことで、自動枕地耕を開始します。
10.枕地耕の「自動運転」終了
●使用者がトラクターに搭乗しない場合、7.~10.まではタブレットにて監視、操作が可能です。
●自動運転作業終了点に達し、あぜ寄せが可能な場合、状態表示灯が全灯点灯します。あぜ寄せが可能で無い場合は11.に飛びます。
●自動運転スイッチ(車内)または外部操作用リモコンの開始ボタンを押すと、青色の状態表示灯が点灯し、ホーンが3回鳴って、自動あぜ寄せを開始します。
11.自動運転終了
●車内のモードスイッチを「OFF」(手動運転モード)にします。その後、桃色の状態表示灯が点灯し、ホーンが1回鳴って手動操作に移行します。なお作業終了後も作業結果が記憶されています。
●手動運転にて処理すべき枕地耕を実施し、圃場から退出します。
作業手順(運転前準備とオートステア運転)
●ターミナルモニタにて車両の電子制御、GPS、方位センサが正常に作動することを確認します。
●以下、(株)クボタMR1000A-Aの場合について記しますが、メーカーによって違いがありますのでご注意ください。
オートステアにおけるA点、B点とオートステア運転可能行程(概念図)
1.作業条件を設定
●ターミナルモニタの作業条件設定画面上で「ABライン」(後述3))を作成する条件として、作業幅とラップ代を設定します。
●オートステア作業時における、マップ上の作業軌跡を表示する条件を設定します。
2.車両を直進させる際の基準となる「ABライン」を作成
●「A点登録」ボタンを押して、現在の車両位置を登録します。
●B点とすべき位置に移動して、「B点登録」ボタンを押してB点を登録します。
3.オートステア運転を開始
●走行モードを2WD以外に設定し、シャトルを「F」に入れて車両を走行させながら、画面の直線が水色になったことを確認の上、自動運転スイッチまたはターミナルモニタ上の「開始」ボタンを押せば、オートステア作業を開始します。画面の直線が薄赤色の場合は車両位置と走行予定ラインがズレているので、水色になるよう車両を直線に近づけ、直線と矢印の方向を揃えるようにしてください。
●車両はオートステアモードとなり、画面がオートステア画面に切り替わり、設定した作業幅、ラップ代でABラインに平行になるようにステアリングが自動操作されます。
●画面上の「設定変更」ボタンによって、制御感度(強弱)を変更できます。
●同様に、左右位置を変更する必要がある場合は、±1cm単位(+は右に、-は左に)で走行ラインを左右にずらすことができます。
4.オートステア運転を解除
●オートステア運転は、ハンドルの手動操作、モードスイッチ「切」、運転者の離席、シャトル「N」または「R」、副変速レバー「N」、駐車ブレーキ「ON」、走行モードスイッチ「2WD」、車両位置が走行ラインから大幅に外れたときなどに解除されます。
●枕地旋回後などにオートステア運転を再開する場合は、自動運転スイッチまたはターミナルモニタ上の「開始」ボタンを押します。
●車両方位検知の異常やエンジンの異常などの状態では、オートステア作業を継続できないので、「手動操作」にしてください。
5.オートステア運転の終了
●前項の解除の状態で「次へ」ボタンを押すとオートステア運転が終了し、作業結果が保存されます。
使用例
●一般的な使用例は、「自動操舵(GPS)」の項目を参照してください。
●下記の農林水産省のホームページにスマート農業実証事業における自動運転トラクターの使用例が公開されています。
▼水田作 令和元年度 実証関係データ
留意すべき点
●一般的な自動運転やオートステアに共通する留意事項や安全の確保については、「自動操舵(GPS)」の項目を参照してください。
●自動運転開始前に、車両の電子制御に異常が無いこと、GPSの測位品質が安定していること、方位センサが正常に作動していることをターミナルモニタから必ず確認してください。
●(株)クボタMR1000A-Aの場合、圃場の傾斜が5度以上の場合、自動運転を開始することができません。
●マップの作成や登録は基地局が同じ場所にあることが前提なので、可搬式基地局設置場所は、位置決め杭などを用いて毎回同じ場所になるようにしてください。自動運転中(オートステア運転も含む)は基地局が動かないよう、周りを囲うなど人が触れることのないようにしてください。
その他
●一般的な自動運転やオートステアに共通する「その他」については、「自動操舵(GPS)」の項目を参照してください。
●ここでは、「具体的な機能」や「作業手順」などについて、自動操舵トラクター・(株)クボタMR1000A-Aの取扱説明書に沿って概要を記載しました。
●ここでは(株)クボタ製の可搬式の基地局を前提に記しましたが、条件が一致すれば他の可搬式基地局、地方公共団体やJA等が運営する固定式の基地局、VRSが使用できます。この場合、自動運転トラクターおよび移動基地局のメーカー、固定基地局の設置・運営団体、VRSの運営事業者と協議や契約、条件を一致させるための調整等が必要になります。
●なお、上記の内容は2022年1月現在の情報です。これらの情報は日々更新されますので最新のものを確認するようにしてください。
農研機構 農業機械研究部門 機械化連携推進室
画像提供:株式会社クボタ