実践編 地表排水と地下排水
地表排水
近年、局地的・突発的な集中豪雨(ゲリラ豪雨)が多発傾向にあります。
1時間に50mmの降雨があった場合、10a当たりでは、200Lのドラム缶250本に相当する雨が降ったことになり、この大量の水をすみやかに圃場外に排水する必要があります。
地表と地下の排水量(出典:農研機構・中央農業総合研究センター北陸研究センター)
地下では水の移動が非常にゆっくりであるため、地表からの排水がとても重要です。
地表排水には、以下の方法があります。
1.明渠
●額縁明渠は、畦畔に沿って掘った排水溝の意味です。
●溝掘機等を使用して20~30cmの深さで、確実に落水口につなぐよう施工します。
●区画が大きい場合や粘土質土壌で排水条件が悪い圃場では、圃場内にも適宜排水溝を作ると、効果的に排水ができます。
●明渠は、田畑転換はもちろん、恒久的に畑地化した圃場にとっても有効な方法となります。
●上の図のように、地表排水が排水の約7割以上を占めることを考えると、野菜づくりにおいて、明渠の施工は必須であると考えられます。
●地下排水が難しい場合、明渠の施工のみでも十分な排水効果が得られた事例もあります。
●圃場の表面水を少しでも早く除去し、次の作業(畝立てや播種)を円滑にするため、額縁明渠は、前作が終わったらすぐにおこなうことをおすすめします(乾きぐせをつけます)。
左上 :溝堀機による明渠の施工
右下 :圃場内の明渠施工例
2.高畝を立てる
●水はけの悪い圃場では、ロータリ成形機で畝を立てます。
●畝間と額縁明渠を確実につないで、畝間の湛水を迅速に排除します。
●畝が長い場合は途中で畝を切り、額縁排水口につなぐように施工します。(右下写真参照)
●畝と排水口の落差が大きいほど効果的です(10~20mごとにうね間を連結させると理想的)。
左上 :ロータリ成形機による畝立て
右下 :途中で畝を切り額縁排水口につなぐ
●参考
▼露地野菜における高畝成形について
3.傾斜均平
●田面に凸凹があり、用水路側の田面が排水路側よりも低い場合は、圃場全体に傾斜をつけます。
●レーザーレベラーは、田面・耕盤の凹凸をなくし、排水路に向かって傾斜均平することで、地表の排水を良くする効果があります。
●レーザーレベラーの使用前に、プラウやスタブルカルチで耕起して圃場を乾燥させておくと、土の移動が容易になり、作業が効率的に行えます。
●1000分の1(100mで10cm)の傾斜でも、排水効果が確認されています(この時も額縁明渠は有効です)。
レーザーレベラーによる傾斜均平
地下排水
耕盤・心土が硬く水を通しにくい土壌では、降雨によって地下に浸透した水をできるだけ短時間に排水する必要があるため、耕盤や心土破砕で大きな孔隙を作り、水を流れやすくします。
ここでは、地下排水に関するおもな作業機を紹介します。
「サブソイラ」(心土破砕と弾丸暗渠) :適応馬力(15~50ps)
●土壌の乾田化を促進します。
●心土破砕は、耕盤などの緻密な層を線状に破壊して多くの亀裂を作り、排水性や通気性を良くします。心土破砕には、主にサブソイラが用いられます。
●弾丸暗渠は、弾丸の形をしたモールドレーナをトラクタに付け、引っ張ることによって、土中に水が流れる孔を作ります。
●サブソイラに弾丸を付けて、心土破砕と弾丸暗渠の施工を同時に行うのが一般的です。
サブソイラ+弾丸(左上)と断面図(右下)
弾丸は排水溝から施工し、"水みち"をつなげる
「ハーフソイラ」(強力な心土破砕) :適用馬力:(40ps~)
●地中のみを撹拌し、下層土を表層に持ち上げることがないため、下層に石や栽培に適さない土が多い圃場で使用します。
●水分の多い粘土質の圃場では、亀裂が閉塞しやすいため、より亀裂を大きくしたい時にはハーフソイラを使用します。そのため、大きな(馬)力が必要になります。
ハーフソイラ(左上)と断面図(右下)
「プラソイラ」(部分深耕・全層破砕) 適用馬力:(15ps~)
●すぐに排水が悪くなる土質に適します。
●サブソイラのように心土破砕を行うだけでなく、部分的に下層の土壌を表層に持ち上げる効果があります。
●サブソイラには、ナイフが土中で摩耗するのを防ぐために、ナイフガードという部品が装着されていますが、ナイフガードをモールドボード(排土板)に交換すると、プラソイラ(またはソイルリフター)になります。
プラソイラ(左上)と断面図(右下)
「パラソイラ」(無反転全層破砕) :適応馬力(50~95ps)
●土を反転させず上下に動かす「くの字型ナイフ」により、下層の土を表に出さずに土を膨軟にし、透排水性の向上を促します。
●ほとんどの土壌で使用できますが、翌年復田を予定している圃場は、他の機械の使用をおすすめします(漏水過多の恐れあり)。
パラソイラ(左上)と断面図(右下)
パラソイラは、土壌を面状に膨軟にする
「カットドレーン」(穿孔暗渠)
:適応馬力(パワクロトラクタ60~120ps、ホイルトラクタ70~120ps)
●心土が粘質で過湿な土壌に適します。
●泥炭土または粘土質土壌では、土層をブロック状に切断して動かすことで、暗渠と同程度までの深さに約10cm四方の穴を開け、排水のための「水みち」を作ります。
●水田には30馬力から使えるカットドレーンmini(穴は6cm四方)もあります。
●暗渠のない田んぼでは、集水枡を作るか畦畔を越えて、排水路側畦畔から施工することによって、本暗渠の役割を果たします。暗渠のある田んぼでは、暗渠に交差して施工し、補助暗渠の役割をします。
カットドレーン(左上)と断面図(右下)
「モミサブロー」(籾殻簡易暗渠) :適応馬力:(30~60ps)
●湿田タイプの土壌に適します。
●既存の暗渠に直交して、深さ40cm程度に溝切り機で溝を切り、籾殻を十分踏み固めながら作土直下まで入れます。
●暗渠管は用いません。
●暗渠の疎水材籾殻層と、掘削した直交部分が、繋がるように設置します。
●10~20m間隔で施工し、効果が悪ければ、次回に、その中間に施工します。
●機械的に溝を切りながら籾殻を充填するモミサブローは、サブソイラや弾丸暗渠のように密に施工できます。
モミサブロー(左上)と断面図(右下)
(参考)適応馬力一覧
排水対策の施工例
1.福岡県(平成29年度 全国農業システム化研究会実証調査)
●石炭採掘後、地盤沈下した水田に客土して整備した圃場で、耕盤は機械踏圧による作土直下のち密な層となっていた(6mおきに本暗渠)。
○額縁明渠ののち、集水桝からカットドレーンminiを放射状に施工。その後、弾丸暗渠を入れた。
○カットドレーンは、復田が可能なため、水田の裏作に適している。
・明渠施工 :溝堀機(RD252B)、パワクロトラクタ(48ps)
・穿孔暗渠 :カットドレーンmini(KSDM-03)、トラクタ(48ps)
・弾丸暗渠 :サブソイラ(S28-1S)、トラクタ(80ps)
2.福岡県(平成29年度 全国農業システム化研究会実証調査)
●1.と同様に、石炭採掘後、地盤沈下した水田に客土し、ほ場整備した圃場で、耕盤は、機械踏圧による作土直下のち密な層となっていた(6mおきに本暗渠)。
○額縁明渠ののち、パラソイラを全面に施工。
・明渠施工 :溝堀機(RD252B)、トラクタ((株)クボタ SL48)
・耕盤破砕 :パラソイラ(EPS400)、トラクタ(48ps)
下層土の緻密度が大きく排水不良になっている圃場の場合、面で耕盤破砕ができるパラソイラの効果が高かった。排水性は比較的早くに良くなる。ただし、水がたまりにくくなるため、次年度復田を考えている場合は注意が必要。
3.島根県(平成28年度 全国農業システム化研究会実証調査)(参考)
●河川流域の圃場で、断面調査では、下層に向かって砂壌土から埴壌土に移行する土性。
●深さ40~50cmに硬盤層があり、検土杖の差し込みに強い力を要する硬さであった。
●ほ場に散在する水たまりから、全面的な透水不良がうかがえた。そのため、前作の大麦の一部は収穫不能であった。
○カットドレーンによる穿孔暗渠および、サブソイラによる弾丸暗渠は深さ40cm前後に施工(硬盤層より高い位置)。
○集水枡をほ場の隅に付設し、これを起点に穿孔暗渠を放射状にほ場内部へ6本通した。弾丸暗渠は約5m間隔で平行させ、末端を明渠開口。明渠は額縁明渠とした。明渠の末端は既存の排水溝に連結した。
・明渠施工 :溝堀機(OM312E-4S)、トラクタ((株)クボタ KL34R)
・穿孔暗渠 :カットドレーン KCDS-01、トラクタ(MR77-PC)
・弾丸暗渠 :サブソイラ(S28-1S)、トラクタ(KL34R)
カットドレーンの施工跡
▼水田を利用した野菜づくりはこちら