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2008年7月14日
天敵資材のサンプリング
山中 聡
カスガマイシンという殺菌剤をご存知でしょうか。
これは、春日大社(奈良市)の土壌サンプルから分離された放線菌の一種が産生する抗生物質を、実用化したものです。新規微生物や新規物質の命名には、サンプリングした場所の名前をつけています。
前回掲載したBT剤のバチルス チューリンゲンシスも、ドイツ・チューリンゲンの穀物倉庫で見つけられ、メイガの一種から分離されたために名付けられたものです。
このBT菌は、実はドイツで発見される10年以上前に、日本の石渡繁胤先生が、カイコの卒倒病を引き起こす菌、としてバチルス ソットーと命名していましたが、国際的な発表をしていなかったために、バチルス チューリンゲンシスの方が、広く一般的になったものです。(写真 右:カイコのさなぎ)
新規微生物の発見は、医薬分野だけでなく、化学、農薬学等あらゆる分野の研究の基礎として、現在でも盛んに行われています。
研究に携わる人たちは、出張でも遊びでも、外出時にはスプーン(薬さじ)とビニール袋を持って行き、見知らぬ土地の土壌を採集して帰ってきます。
私も数百点のサンプルを採集し、大きな荷物を抱えて帰ったこともありますし、空港の手荷物検査で、かばんの中からコガネムシの幼虫や土が出てきて、いぶかしげに思われたこともありました。
何かがいそうなところには特徴があるか? と聞かれることがありますが、畑地のように手の入っている場所とそうでない場所、森林でも、広葉樹の含まれる雑木林と人工植林された杉、檜が多い針葉樹林では、土壌サンプルから出てくる微生物にも違いがあるようです。
一般微生物を土壌サンプルから分離する場合には、土壌を水に溶かして、その希釈液をシャーレ等の培地に塗布し、培養することで、目的とする微生物を拾い上げていくことができます。
昆虫病原性の線虫や糸状菌を拾い上げる場合には、土壌をフィルムケースやアイスクリームカップ等の容器に詰めて、直接ガの幼虫を容器に放り込み、しばらく放置しておくと、害虫が感染した状態になっていることもあります。
こう言うと簡単なように見えますが、拾い上げた後、本当に実用化される素材はごくわずかです。
天敵昆虫類を集めて利用する農家があると聞きますが、微生物を自分たちで集めて利用することは、なかなか困難です。微生物でも天敵昆虫でも、商業生産されたものを利用するほうが労力的、経済的、品質の面でも効率的といえると思います。
(※画像をクリックすると大きく表示されます)
東京生まれ、横浜育ち。農学博士。
農薬メーカー研究所にて各種生物農薬の研究開発に従事。
現在、アリスタライフサイエンス(株) IPM推進本部 開発部長