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いま、郷土食が面白い! (4)

2013年10月17日

宮崎県民も価値をよくわかっていない「冷や汁」


農産物流通コンサルタント 山本謙治   


つづき
■冷や汁を知ってますか?
yamaken_201310_6.jpg 「冷や汁」という料理をご存じですか?
 宮崎県の中でも、宮崎市を中心とした一体で愛されている郷土料理の代表格。宮崎と言えばチキン南蛮や地鶏、マンゴーといったものが有名ですが、実はこの冷や汁のほうが、圧倒的に郷土性の高い食べ物です。「冷や汁」と書いて「ひやしる」と読みます。むかし、宮崎の居酒屋で「ひやじる」と発音したら、隣にいた知らない方に「そげなにごった、汚い読み方はせん。『ひやしる』と読むのが本当や」と怒られました(笑)。


 この冷や汁、単に味噌汁を冷たくしたもの、ではありません。宮崎における冷や汁の基本的なスタイルは「すり鉢で作る」。アジやトビウオを焼いたもの、または煮干しの身をすり鉢であたり、さらにゴマもすり、味噌を加えて混ぜ合わせる。この滋養に満ちた味噌をすり鉢の内側に均等に塗りつけて、コンロなどで表面を香ばしく焼き付ける。この焼き味噌に水または出汁を加えて伸ばしたところへ、キュウリや大葉、潰した豆腐などを加えてできあがり。麦飯にたっぷりかけてサラサラといただくというものです。


yamaken_201310_1.jpg  yamaken_201310_2.jpg


 魚入りの焼き味噌を造るところがこの料理の要で、どの魚を選ぶかによって味が大きく変わります。また具材に何を入れるかは家々によってまったく違い、宮崎の友人いわく「子供の頃、友達の家で食べさせてもらった冷や汁の味がまったく違うから驚いた」「隣りの家でお呼ばれしたら、トマトが入っていたので腰が抜けそうになった」など、枚挙にいとまがありません。このように、広い範囲で食べられているのに、家庭ごとにレシピがあるということが、冷や汁が真の郷土食であることの証拠と言えるわけです。しかし本当の「郷土食」の証拠はもう一つあります。


■地元の人が一番価値を知らない!?
yamaken_201310_3.jpg もう一つの証拠とは、この冷や汁があまりおおっぴらに売られていないということ。
 私はこの冷や汁が大好きなのですが、宮崎市内で冷や汁がウリという店はあまりありません。もちろん「宮崎料理」と郷土の料理屋という冠をつけたお店は数店あり、メニューには大きく冷や汁があります。また、郷土料理とことわりがなくとも、メニューに冷や汁がある飲食店はもちろん多々あります。ただし、どこへいっても主役級ではないのです。宮崎の人にきくと、「あれは家で食べるもんでしょ」「わざわざお店ではくわんけん」というのです。


 私はこれに不満(笑)をもち、ある新聞のコラムに「なぜ宮崎県は冷や汁を活用しないのか?」と書いたのです。そうしたらみごとに大反響!

「冷や汁って宮崎以外にはないの?」
「日本中で冷や汁を食べてると思ってた」
「冷や汁がご馳走だってホント?」 と、思ってもみなかったという反応が寄せられました。


yamaken_201310_4.jpg これはよくある話なのですが、地元の人がいちばん価値を知らないのです。それもそのはず、彼らは冷や汁をごく当たり前に、飽き飽きするほどに食べてきているわけです。宮崎県外に足を運ばない人なら、これが宮崎にしかないものだなんて思いません。だから飲食店にはあまりないのです。


 そしてもう一つ面白いのは、他人の家の冷や汁を食べたことがない宮崎県人が多いということ。お呼ばれしても、冷や汁なんて失礼だから出さないよ、という家が多いのです。宮崎の仕事相手に「お宅の冷や汁食べさせて下さいよ」と頼んでも、「あんなの、お客さんに出すもんじゃない」というようなことをいつも言われました。


■「地元の宝」を再発見
 そこで、宮崎市の農家のお母さんが作ってくれた冷や汁味噌を三種集め、同じ出汁と具材で溶き伸ばして食べ比べをしてみたのです。味噌が濃厚なもの、カツオ出汁の香りが強く香るもの、クリームチーズが入った現代的なもの、、、そうしたところ、仕事先の宮崎の人達が一番びっくり。「ええっ!? こんな冷や汁、初めて!」という驚きの声が続出したのです。みな、地元の宝物が見えていなかったのです。そこでみなさん、ようやく価値に気づき、とある事業を使って、冷や汁のガイドブックを作りました。市内でおいしい冷や汁が食べられる店を紹介し、市民の冷や汁名人の作り方も掲載しました。電子版も用意しましたので、関心のある方はご覧下さい。レシピも、おいしい冷や汁を出してくれるお店も選り抜いて掲載しています。


yamaken_201310_5.jpg 地方の時代だと言われても「うちにはおいしい郷土料理なんかないよ」と思っているところが多いはず。けれどもそれって「地元目線」で見ているからではないですか? 外部の人間からみたら「おおおおおっ!」と驚くものがあるかもしれない。郷土のお宝発見には、外部からの目線が大事なのです。


本文中の冷や汁ガイドブックのPDF版が無料でダウンロードできます。
▼宮崎市雇用創造協議会 ダウンロードはこちらから


写真上から
●プロが作った冷や汁
●家庭の冷や汁1 まずはゴマをする
●家庭の冷や汁2 煮干しだしを味噌に合わせる
●家庭の冷や汁3 具材を切って入れていく。お母さんから娘さんへと味が継承される
●家庭の冷や汁4 完成! ご飯にかけていただく
●家庭の冷や汁5 一家一同、冷や汁が大好き 

やまもと けんじ

株式会社グッドテーブルズ代表取締役・農産物流通コンサルタント。
一次産品の商品開発のアドバイザーをする傍ら、全国の郷土食を食べ歩いている。「週刊フライデー」、「きょうの料理」、「やさい畑」などに連載を持ち、著書に「激安食品の落とし穴」(KADOKAWA)「日本の食は安すぎる」(講談社)、「実践農産物トレーサビリティ」(誠文堂新光社)などがある。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」も人気が高い。

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