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日本の「食」は安すぎる 【1】

2009年4月 6日

いよいよ生産者が減ってきた

                農産物流通・ITコンサルタント 山本謙治


 2008年4月に、「食の「ものさし」を捨てるときが来た」というタイトルで、コラムを書かせていただいた。その中に、「2000年代は、後世から観ても記録に残る「食の動乱期」になるのではないだろうか。」と書いてある。実際には、そう書いた本人の予想を上回るほどに、状況が大きく変わろうとしている。

 2000年代は、これまでの日本社会の膿が噴出し、ますます食の状況が翻弄されるだろう。でも、第一次産業従事者や流通業者が手をこまねいているわけにはいかない。備えをするために、これからどんなことが起こりうるのか、そしてどのような観点で仕事をしていけば未来につながるのだろうかということを、考えていきたい。


◆◆◆

 個人的なことだが、昨年度は、数えてみると年間120日以上を出張に費やしていることが判明した。そのほとんどが稲作・野菜・果樹の産地への出張だ。行けば必ず現地の職員さんに、地域の元気な農家さんの圃場を案内してもらうことになるので、いろんな経営を目の当たりにしてきた。

 そういう場合、先方が案内してくれるのは、地域内でも篤農家といわれる優秀な人たちが多い。だから、それだけをみれば「日本の農業はまだまだ大丈夫だなぁ」などという感慨を持ってしまいがちだ。でも、それでコトを判断してはいけない。「後継者はどうですか」と尋ねると、だいたいみんなの顔が曇る。


 「一部の元気な人が頑張ってますけど、残るは65歳以上の人ばかりです・・・」
農林水産の統計をみると、耕作放棄地の面積が、H15年とH17年の間でグンと上がっている。それまでは、高齢でもう生産できなくなった人が、近隣の信用できる人に耕作を依頼して、だましだましやっていたのが、近隣のみんなが高齢でできない、という臨界地点に来てしまったとみるべきなのだろう。


 「これからは、お金を出してもいいものが買えなくなるかもしれない。」
 これは、あるスーパー業界の人の言葉だ。昨年、中小スーパーが200社集まる場で講演をした。いいチャンスだと思い、思い切り言ってやった。
「あなた方スーパーマーケット業界が、食べ物を安く売りすぎるから、メーカーや生産者が疲弊して偽装が起こったり、食がおかしくなったんだ!」と。


 さぞかし文句を言われるかと思ったら、全く逆だった。終了後、「おっしゃるとおりです」と、ある社長さんが僕の前に座ったのだ。

 「実は、毎年契約栽培を依頼してきた産地が『もうみんな高齢化してしまって、来年からはとても注文に応じられません。』と、出荷を断ってきたんです。これからは、本当にいいものを生産できる農家さんの取り合いになるかもしれません。」

 これは幻想ではない。現在篤農家と言われている人の多くは、ご高齢だ。いいものを手に入れようと思ったら、これからは優秀な農家を囲い込んで、鼓舞しながらじゃないといけないということなのだ。その社長さんが続けて言ったのがおもしろいことだった。


 「だから私たちグループで、産地の一番いいホテルの宴会場を借り切って、生産者グループを招待するんです。嫁さんも連れてこいって。それで、うちは値切りませんよ、というようなことを説明して、おみやげ持たせるんです。そうしたら、農家さんが『なんでお客さんである貴方たちが、こんなことしてくれるんかな』って言うんですよ!」

 もしかすると、これからは、レベルの高い生産者のほうが「お客様」になる時代になるんだろうか。(つづく)


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やまもと けんじ

株式会社グッドテーブルズ代表取締役・農産物流通コンサルタント。
一次産品の商品開発のアドバイザーをする傍ら、全国の郷土食を食べ歩いている。「週刊フライデー」、「きょうの料理」、「やさい畑」などに連載を持ち、著書に「激安食品の落とし穴」(KADOKAWA)「日本の食は安すぎる」(講談社)、「実践農産物トレーサビリティ」(誠文堂新光社)などがある。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」も人気が高い。

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