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農業機械よもやま話 【13】

2009年3月18日

野菜用育苗トレイの標準化

    津賀 幸之介 


 春になると野菜の育苗が本格的に始まります。
 これまで、野菜の種類や地域によって、いろいろな育苗様式が発展してきました。欧米の育苗技術も導入され、機械化が進展してきた昭和の終わり頃から、セル成型苗(写真右)※1)(当時はプラグ苗と呼ばれていた)の利用が始まりました。


 セル成型苗は、プラスチック製で小型の連結した容器(セルトレイ)で育成された成型苗の一種で、

 1)小面積で大量の苗を扱えるため生産効率が高い、
 2)持ち運びが容易で輸送性に優れる、
 3)定植等の作業が容易である、

などの利点から、急速に普及していきました。国内では長野県のNKプラグ育苗などが有名で、レタス産地の朝日村等の育苗施設には、全国から大勢の見学者が訪れたようです。

  
左 :レタス セル型苗育苗 / 右 :レタス育苗状況 


 一方、この苗の移植作業の機械化も、並行して進展しました。
 当時、まだ全自動移植機※2)の幕開け時代でしたので、国内外メーカーでは、各社専用の育苗トレイを利用した全自動移植機が開発されつつありましたが、利用するセル成型苗の互換性がなく、根鉢の寸法が異なっていました。そのため、野菜作等の機械化の推進に当たっては、栽培様式の標準化及び、新たな機械開発の官民共同プロジェクトが行われていました※3)

 プロジェクトの一つでは、野菜の育苗トレイの標準的な規格を設定しながら、機械部品の共通化を推進し、移植機と育苗コストの低減を図ることが必要とされていました。農業機械よもやま話(その8)にあるように、乗用型全自動移植機が商品化されると同時に、標準化したセル成型苗用育苗トレイ※4)を発表しました。

 トレイの標準数値を決めるに当たって、企業間の差、育苗上の適正、利用者の意見は様々であり、統一することは至極困難な状況でしたが、このままでは、その後の育苗・移植作業技術の進展や普及に混乱を来すことが予想されます。

 そこで、関係者が情報交換しながら、数値の標準化を検討した結果、今後の機械化は、標準化したセルトレイ利用を前提とすることになりました。
左 :野菜用 全自動移植機 


 平成6年、育苗トレイ標準規格作業部会を設けて、主として葉菜類の野菜全自動移植機に適合する育苗トレイの標準規格※5)を取りまとめ、翌年農林水産省に設置されている「栽培様式標準化推進会議」において認定を得、その後、普及推進が図られました。

 発表した標準トレイについては、 その後、全自動移植機に利用されるだけでなく、野菜の育苗トレイとして普及が進み、現在では1千4百万枚以上の製造販売が確認されています。 さらに、廉価品(海賊版)や使い捨てトレイなども、その基本となる数値が標準トレイの数値に類似していることを聞いたとき、標準化が確固たるものとなったと実感しました。


※1) セル成型苗     
 一辺が数cm以下の連結した容器(セル)で育苗した苗。セルは連結して1枚のトレイとなっている。規格化された苗の大量一括生産に適し、この技術開発により育苗の分業化が進み、全自動移植機と組み合わせることにより、移植作業を大幅に省力化できる。
※2) 全自動移植機
 苗の供給から植え付けまでを自動化した移植機 
※3) 新農業機械実用化促進(株) 緊急プロジェクト
※4) 育苗トレイの標準規格 参考サイト
※5) 128セル、200セル/トレイ、後に288セル/トレイを追加、アンダートレイは水稲用育苗箱を利用


(画像はすべて「みんなの農業広場」 農作業便利帖より)

つが こうのすけ

大阪府出身。農学博士。昭和43年農業機械化研究所(現:農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)入所。農業機械の開発研究に従事。同センター所長を経て、現在:同センター新技術開発部プロジェクトリーダー

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