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2008年11月 4日
農作業ロボット
津賀 幸之介
人間の代わりにロボットが農作業を毎日やってくれれば、こんなにありがたいことはありません。現在の農業機械は、大きな力仕事や繰返し作業をスピーディーに行うことができますが、1年のうち、ほとんど倉庫で眠っている田植機やコンバインのように時期や作業を問わず、一年中働いてくれる農作業ロボットこそ、機械化の理想像だと思います。
1960年代の産業用ロボットブーム以来、大企業や専門企業がロボットを製造し、機械製造業等へ導入してきました。最近では、掃除や介護など、生活支援を視点においたロボットが登場し、開発の主流が、ハードウエアからソフトウエアに移っています。ロボットの対象は、機械産業から情報産業へ、在来型ロボットから次世代ロボットとへと変わりつつあるそうです。 ※1)
農業用ロボットも数多く研究されてきました。その中では、野菜苗の接ぎ木ロボット※2) 、果樹の無人防除機※3) 、搾乳ロボット※4-5) などが各地の農業現場で活躍しています。しかし、これらは産業用ロボット同様、汎用機ではなく専用機です。
左 :きゅうり接ぎ木ロボット作業風景※2) / 右:誘導ケーブル式果樹無人防除機 リンゴ園での無人散布※3)
もともと、ロボットは人間に似た知能と機能を備えた機械であり、その特性は「何でもできること」、つまり、汎用性にあるものです。
しかし、現実には、汎用的な機械は存在しません。経済性や効率を求めると、どうしても専用機になってしまいます。
つまり、ロボットは、目的を限定すればロボットでなくなり、ロボットの特性である汎用性にこだわれば適用対象を失うという、自己矛盾をかかえた機械なのです※1)。冒頭の果樹園で働く農作業ロボットのように、なんでも手伝ってくれるヒューマノイド※6)のような農作業ロボットの出現は、まだまだ先のことでしょう。
昭和の時代に、農業機械化研究所に勤務していたとき、地中に埋めた電線に生じる磁界を検知して無人走行する、果樹用農薬散布機の開発研究を担当しました。山形県園芸試験場の協力を得て、寒河江市のブドウ畑で、2シーズン通年散布の実用試験をしました。
その時の制御機器は、写真のように大型スーツケースほどの大きさでした。機械の振動などにより電子部品の不具合を生じるので、修理のため何度も現場に出かけたものでした。
その後、平成になり、全く同じ原理で無人走行する「誘導ケーブル式果樹無人防除機」※3)が商品化されました。この制御機器は弁当箱程度となり、信頼性も高くなっていました。
これは、世の中の技術全体がレベルアップしたことにより、個々の技術も格段に進展した事例です。現在の携帯電話は、若者の利用から普及が始まりましたが、その普及と技術進展の凄まじさは、20年前には想像もできませんでした。
農業現場でも、そう遠くない時代に、人間との共生型ロボット※8)が活躍しているかもしれません。
※1) ロボットは人間になれるか: 長田 正 2005.P1-208 PHP研究所
※2) 野菜接ぎ木ロボット 参考
※3) 誘導ケーブル式果樹無人防除機 参考
※4) 搾乳ユニット自動搬送装置 参考1・参考2
※5) フリーストール牛舎などの放し飼いの管理形態に適合した搾乳ロボット。
オランダのプロライオン社、レリー社、ガスコインメロット社、スウェーデンのデラバル社、日本のオリオン社製の5社から販売。
※6) ヒューマノイド [humanoid]
SFなどで、人間のような外形をした生命体やロボットのこと。人間型。
※7) 「無人操縦式少量散布機に関する研究」 農業機械の安全性に関する研究(第3報) 農業機械化研究所 研究成績書 昭和55年3月
※8) 共生型ロボット
人間とコミュニケーションしたり生活空間で人間をサポートしたりする「共生型」の次世代ロボット
大阪府出身。農学博士。昭和43年農業機械化研究所(現:農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)入所。農業機械の開発研究に従事。同センター所長を経て、現在:同センター新技術開発部プロジェクトリーダー