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2008年9月10日
農業機械と安全作業
津賀 幸之介
残暑厳しい毎日ですが、9月になりました。
秋は、農作業が忙しくなるとともに、農作業中の事故が最も多い季節です。
数年前、秋の収穫シーズンに河川敷をサイクリングしていたところ、救急車のサイレンが聞こえてきました。近づいてみると、軽トラックが坂道下に転落し、収穫した籾が散乱しているところでした。土手の上から降りる途中、カーブした下り坂を曲がりきれず、転倒したようでした。
私の職場であり、農作業の事故調査に苦労している「農作業安全情報センター」 ※1 にとって、有効な情報になると思い、事故現場の写真を撮ろうしたところ、現場の若いお巡りさんに「(他人の不幸を写真で撮るなど)不謹慎なことはやめなさい」と注意され、たいへん気まずい思いをしたことがありました。
このように、農作業事故をライブで観察できることは、まれです。特に死亡事故では、その原因を断定する情報を得ることはたいへん難しく、後日聞き取った現場の状況から想像するしかありません。
「農作業安全情報センター」では、関係者が長年にわたり地道に事故調査とその解析を行い、安全作業啓発活動を行っていますので、農作業前には、サイトを訪問することをお薦めします。
この事故についても、後日、研究者が巻き尺等を持参し、現場状況を調査しました。
(以下、『過積載に注意』 参照)
『過積載に注意』 (農作業安全情報センター 平成17年度農作業安全コラム)
日本の労働災害による、就業者数あたりの死亡事故については、全産業で3.7件/10万人で、業種別には建設業が12件/10万人、次いで農作業が10件/10万人程度と多くなっています。平成18年の交通事故30日後の死亡者は、人口10万人あたり5.7人で、人口と農業従事者数や年齢層の違いはありますが、自然環境の良い農作業が、一般交通より死亡事故の率が高いという計算になります。
この6月に、農林水産省から発表された平成18年の農作業死亡事故 ※2 は391件で、前年より4件減ですが、長年にわたり約400件弱を推移しています。
事故区分別では、農業機械・施設の作業が7割を占めています。その内、乗用型トラクタは、普及台数が多く、圃場や公道を含む道路の通行など利用頻度が高いことから、事故件数が多くなっています。なお、乗用型トラクタの運転中の転倒事故対策として、最近は安全キャブ・フレーム(ROPS) ※3 が取りつけられ、安全性はかなり高まっていることがデータで確認されています ※4 。また、運転者はヘルメットを被り、シートベルトを装着することが重要であり、これにより、事故被害が軽減されます。
画像 :生研センター 農業機械の事故実態に関する農業者調査結果より
農作業では、65歳以上の高齢者による死亡事故が全体の78%を占め、農業従事者の高齢者の割合以上に事故率が高くなっています。まわりに、安全キャブ・フレーム(ROPS)のないトラクタに乗車する、高齢者がいる場合は、是非ともご注意願います。私も農用トラクタの大型免許を持っていますが、視力や運動能力の衰えを感じる高齢者となりつつあります。日々慎重をこころがけなくてはなりません。
画像 :安全キャブ・フレーム(ROPS) ※3 付きのトラクタ
※1 ●農作業安全情報センター
生研センターが、農作業の安全・快適性向上対策を促進するために、上記のホームページで事故の動向や啓発に関する情報を提供している。
※2 ●平成18年の農作業死亡事故について
※3 ●安全キャブ・フレーム(「ROPS」 Roll-Over Protective Structure)
トラクタが転落・転倒したときに運転者を保護することを目的にしてトラクタに装着される構造物で、安全キャブは、十分な強度が保証された運転室、安全フレームは十分な強度の保証された鉄製の枠で、柱の数によって2柱式と4柱式がある。
※4 ●安全キャブ・フレームをトラクターに付けよう! (農作業安全情報センター)
(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)
大阪府出身。農学博士。昭和43年農業機械化研究所(現:農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)入所。農業機械の開発研究に従事。同センター所長を経て、現在:同センター新技術開発部プロジェクトリーダー