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農業機械よもやま話 【7】

2008年6月23日

“テデトール”と防除機

    津賀 幸之介 

 
 家庭園芸を楽しまれている方が、「我が家は“テデトール”で防除できるから安心だ」と話されていました。

 害虫や雑草は手でつまみ取るのでしょう。たぶん病害についても、自然農薬※1)の利用や耕種法など、“家庭版”総合防除※2)を実行されているのだと思います。

トマト青果


 小面積で短時間に行えるときは、“テデトール”は有効です。しかし、業として行うにはたいへんな労力を必要とし、また不確実でもあるため、大面積に短時間で農薬を散布・施用できる防除機が活躍してきました。

 そして、病害虫の大発生や細菌の蔓延が予測される場面では、薬剤散布が重要な作業となっています。


 水田での日本初の薬液散布は江戸時代で、おけの中の油をほうきで振りかけ、水田に落ちる害虫を油膜で防除したものとされています。

 その後、明治時代には人力噴霧機を輸入、大正時代に国産化されました。

 第二次世界大戦以後は、農業労働力の減少とともに動力噴霧機による共同防除が奨励され、防除機も、農薬の発展とともに食糧増産へ貢献してきたのです。防除機と農薬は、鉄砲とタマの関係と同じく重要で、液剤、粉・粒剤、くん煙剤など農薬の剤型等の発展とともに、いろいろな防除機が普及してきました。

ブームスプレーヤ


 最近では、環境や安全面に対する配慮が重要視され、防除機には、農薬の目的外飛散(ドリフト)を最小限にして、防除効果を維持できる散布技術の開発が求められるようになりました。


 平成15年に農薬取締法と食品衛生法が改正され、平成18年からポジティブリスト制度※3)が導入されたことで、農薬の不適切な使用のみならず、農薬飛散に起因する近接作物への農薬残留が生じないよう、散布する器具や散布方法にこれまで以上の十分な配慮が必要となりました。


 そのため、たとえば、慣行と同等の能率で作業ができ、防除効果を確保しつつ、漂流、飛散しやすい農薬微細粒子を大幅に低減したドリフト低減型ノズルが開発され、普及が推進されています。


田植え同時薬剤散布

 また、粒剤では、ドリフトの心配も少なく、水稲育苗の播種時に育苗マットに施用する方式や、田植機の苗載せ台のマット苗に施用する方式のものが開発され、これに対応できる散粒機が普及し始めています。田植え同時作業で省力化され、均一散布で目的外飛散も少なく、注目されています。


 このように、防除機は、今後も農薬製剤の開発動向と密接な連携を取り、総合防除(IPM)についても関連しながら発展していくと思われます。


虫食いブロッコリー

 ところで、昨年、我が家の狭い庭に植えたブロッコリー苗の葉っぱは、“テデトール”では追いつかず、いつも見事に虫に喰われ、丸坊主でした。

 春先には回復し、やっと小さな花芽をつけ収穫することができましたが、葉っぱは穴だらけ、鳥たちに喰われていました。


※1)自然農薬
 化学合成された薬品ではなく、自然素材(有機質)で作った農薬。その多くは緩効性であり、生態系と協調し、時間の経過と共に分解される。減農薬の一助として有効。

※2)総合防除
 総合的病害虫・雑草管理(Integrated Pest Management)とは、化学農薬だけでなく、経済性を考慮しながら、様々な防除技術(耕種的防除・化学的防除・生物的防除)を組み合わせ、病害虫や雑草の発生を抑制すること。

※3)ポジティブリスト制
 基準が設定されていない農薬等が一定量以上含まれる食品の流通を原則禁止する制度。「食品衛生法などの一部を改正する法律」(平成15年法律第55号、平成15年5月30日公布)。その前までは、残留してはならないものを示すネガティブリスト制度を採用していたため、基準が設定されていない農薬については、いくら残留があっても規制できず、食の安全確保上の大きな課題となっていた。


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つが こうのすけ

大阪府出身。農学博士。昭和43年農業機械化研究所(現:農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)入所。農業機械の開発研究に従事。同センター所長を経て、現在:同センター新技術開発部プロジェクトリーダー

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