MENU
2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
2008年3月21日
花粉と機械の話
津賀 幸之介
今年もスギ花粉が飛び始め、花粉に敏感な方には鬱陶しい日々となりました。スギ花粉の走査電子顕微鏡写真が紹介されていますが(http://www.technex.co.jp/tinycafe/discovery11.html)、コンペイトウのようにイボイボの表面形状を見ると、さらにクシャミが出そうになります。
写真1 スギ花粉の表面 拡大図 (提供:テクネックス工房様)
小学生のころ、綺麗な花や珍しい花をみつけると、その花粉を顕微鏡で拡大して観察するのが楽しかったものです。綺麗な花より、貧弱で目立たない小さな花の方が、花粉の形状は異様で珍しかったような記憶があります。
その時、20数年後に花粉の数を数える仕事をするとは想像していませんでした。さらにその20数年後、花粉症に悩まされているとは夢にも想像できませんでした。
稲の花粉をご覧になった方はいますか? カタチは直径40数μm(マイクロメートル)の球形です。 (1μmは1mmの1000分の1)
20数年前の話ですが、アメリカの種子会社から日本に、ハイブリッド米※1)の種子を売り込みたいという打診があり、「謎のコメが日本を狙う」とテレビや雑誌で話題になりました。
実はこの米はアメリカで開発されたものではなく、中国で開発されたものであり、さらに元をたどっていくと、琉球大学の新城長有教授が発見した雄性不稔の理論を用いたものでした。その後、中国ではおコメの生産全体の半分以上がハイブリッド米になったそうです。
左 :写真2 稲の花 / 右 :写真3 光学顕微鏡(透過光)で見た稲の花粉
この出来事をきっかけとして、日本でもハイブリッド米の研究が進められ、当時、送風機を利用した農業機械の開発研究を担当していた関係で、ハイブリッド米の種子生産用の機械(受粉機)を開発するよう、依頼を受けたことがあります。
自家受粉の稲の花粉は、空中にしばらく浮遊すると、乾燥してシュリンク(=縮む)し、死滅します。そこで、稲が開花した時、新鮮な花粉を送風機で飛ばして、自家受粉しない系統(雄性不稔系統※2))の花にふりかけ、F1種子の稔実率を高める能率的な機械の開発をおこないました。
このとき、基礎試験として、どの程度の花粉を飛散・付着できるかを調べるため、距離別に到達した花粉をカウントしました。実際には、顕微鏡で拡大し画像処理装置を利用しましたが、毎日、楽しい? 花粉の観察をすることができました。
でき上がった機械「F1種子生産用受粉機」の概要は、防除用の多口ホース噴頭を利用した、カーテン付花粉飛散用噴頭などと、小型送風機からなるものです。
左 :図1 F1稲種子生産用の受粉機(http://brain.naro.affrc.go.jp/e/Seika/s6008.htm)より
右 :写真4 F1種子生産用受粉機による作業
作業は、雄性不稔系と維持系※3)、または雄性不稔系と回復系※4)稲を栽植したほ場で、開花時に噴頭の送風によって花粉を飛散しておこないました。カーテンが花粉の漂流飛散を低減するため、雄性不稔系の稔実率向上に有効な結果となり、依頼者への報告を果たしました。しかし、その後、国内ではハイブリッド米の機械的な種子生産の要望は消滅してしまいました。
稲の開花時は真夏の炎天下であり、たいへん過酷な作業であったことを思い出します。毎日花粉の舞い散る中にいましたが、稲の花粉にアレルギー反応はなく、クシャミは出ませんでした。(現在は稲科花粉症の方も大勢いらっしゃるようです)
※1) ハイブリッド米 : 両親に比べて優れた性質を持つ雑種第一代(F1)の稲
※2) 雄性不稔系統 : 無精子症の系統
※3) 維持系 : 雄性不稔系を稔実させ雄性不稔系を作出する系統
※4) 回復系 : 雄性不稔系を稔実させ優れた性質を持つ雑種を作出する系統
(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)
大阪府出身。農学博士。昭和43年農業機械化研究所(現:農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)入所。農業機械の開発研究に従事。同センター所長を経て、現在:同センター新技術開発部プロジェクトリーダー