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農業機械よもやま話 【2】

2008年1月15日

ほうれん草のそうじ機

    津賀 幸之介 
 

 ほうれん草は、西アジア原産で、「菠薐(ほうれん)」とは中国語でペルシャあたりを意味しているそうです。ビタミン類、ミネラルともに多く、栄養満点で、おひたしやバター炒めなど、いろいろな料理に向いています。

 ところで、お店で買ったほうれん草は、ほとんど捨てるところなく調理することができます。家庭の生ゴミになる部位はほとんどありません。これは、生産者が出荷前にほうれん草を一株ずつ、そうじ(調製作業)しているからです。実は、このそうじ時間、ほうれん草の栽培所要労働時間の半分以上を占めています。



 十数年前に各地のほうれん草産地を訪問し、このそうじのお手伝いをさせていただいたことがあります。ご夫婦が仲良く作業されているところ、十数人が並んで行っている調製部屋、夏場の産地では何十人もがベルトコンベアに向かっている体育館のような作業場など、様々でした。


 この作業のポイントは、まず、子葉が残っていればつまみ取ります。次に、下葉2枚程度を取り除きます。これは、店頭に並ぶときに黄色化するからで、外葉、古葉、あか葉など、各地で呼び名が異なります。どの葉を何枚取り除くかは、その時の状況で判断されます。


 さらに、虫食い葉やちぎれかかった葉があれば、葉柄(茎の部分)部分から取り除きます。作業者は、これらの判断と取り除く行程を、一瞬にして行います。なお、根は5ミリ程度に切りそろえるところが多いようですが、根付きとするところもあります。最後に一束150~250gとして結束やフィルム包装として出荷され、店頭に並びます。


下葉取り機での作業

 そうじ作業を手伝いながら、最新型のロボットが行えたとしても、この人間の早業には適わないだろうと思いつつ、そうじ機の開発構想ができ上がってきました。


 その後、企業との共同開発で、作業者が搬送ベルト上にほうれん草を1株ずつ供給すると、上下のベルトが葉身頂部を保持して下葉等をブラシ等で引き寄せ、上下の回転ロールにより挟んで引き込み除去する構造で、併せて根切りも行う装置が完成しました。


 なお、虫食い葉などの除去は、調製不十分な株の仕上げを別の作業者が最後に行う作業方式とし、作業能率は慣行作業の約2倍となりました。現在では、「ほうれんそう調製機」として、各地で利用されるようになっています。


 そうじのお手伝いの後半では、手慣れたものとなり、「時給を上げてやるから、明日も来ないか」と誘われるようになりました。

(「下葉取り機での作業」画像は、広島県農業情報ローカルネットワークシステムよりお借りしました)

(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)

つが こうのすけ

大阪府出身。農学博士。昭和43年農業機械化研究所(現:農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)入所。農業機械の開発研究に従事。同センター所長を経て、現在:同センター新技術開発部プロジェクトリーダー

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