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2007年10月 1日
●咀嚼の科学
鈴木建夫(宮城大学食産業学部教授)
食事内容と顎発達の関係
古代ギリシャの彫刻は、知性の宿る額は広く、顎は卑しい食べることを担うことから、小さく、製作されている。軟食化の進んだ現代人の顎も次第に小さくなってきているので、ギリシャ流の美男美女が増加しているのかもしれない。復元食を使った実験でもこれは裏付けられる。
たとえば、卑弥呼(弥生時代)はハマグリの潮汁、鮎の塩焼き、長芋の煮物、カワハギの干物、ノビル、クルミ、栗、モチ玄米のおこわを食べ、徳川家康(江戸初期)はハマグリの塩蒸し、里芋とゴボウの煮物、鯛の焼き物、カブのみそ汁、納豆、麦飯などを食べていたという。
さしずめ現代人は、コーンスープ、ハンバーグ、スパゲッティ、ポテトサラダ、プリン、パンなどを食べていることになるかもしれない。
卑弥呼の歯はすり減っていた?
表のように、卑弥呼は約1時間の食事時間を要し、4,000回も噛んでいたことになる。三食で3時間もかかり、12,000回も噛むのでは歯は磨り減って大変なことになる、とも考えられ、当時は1日2食であったことがわかる。
家康の1,500回、22分は仲間との語らいあいを含めれば、極めて妥当であったかもしれないが、現代人の600回、10分はいかにも少ない。
ところが、最近の脳研究では、食→顎→咀嚼の関係について、違った結果が得られている。味覚には、化学的な味覚(甘、塩、旨、酸、苦)と、物理的な味覚(歯応え、歯触り、喉ごしなど)があり、ご飯では約70%が物理的味覚で、残りが化学的味覚であるとの研究もある。
老化防止は咀嚼を伴う食から
65歳以上を高齢者と定義し、その人口比率が14%以上を高齢社会と定義している。日本はすでに高齢者人口20%を超え、女性は25%に達している。要介護度の進行した方に刻み食やとろみ食だけを提供するのではなく、咀嚼を伴う食を提供すると、介護度合いの改善が見られるという。また、近赤外線を用いた脳血流の測定でも、咀嚼することで脳を巡る血液を著しく増加し、老化を防止することがわかってきた。
食材の、「パリパリ」、「モッチリ」、「ネバネバ」、「カリカリ」などが脳機能と関係することを改めて認識したい。
「ひみこのはがいいぜ」
咀嚼の効用「ひみこのはがいいぜ(ひ:肥満防止、み:味覚の発達、こ:言葉の発音、の:脳の発達、は:歯の病気予防、が:ガン予防、い:胃腸快調、ぜ:全身の体力向上)」を、改めて認識したい。
(本文は斎藤滋神奈川歯科大学名誉教授の研究成果を中心に記述している)
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昭和18年仙台生まれ。東北大学大学院農学研究科修了。同大学農学部勤務、農学博士。昭和51~53年米国立衛生研究所(心肺血液研究所)客員研究員。農林水産省・食品総合研究所、農林水産省研究開発課長等を経て、食品総合研究所長(第20代)。独立行政法人化により同・理事長。平成16年、宮城大学教授、現職。