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2007年8月22日
●食の安全を斜めから見ると・・・
鈴木建夫(宮城大学食産業学部教授)
アメリカが把握した食中毒の実態
2001年の10月10日に、米国財務省から「食の安全保障」と題する報告が出された。世界貿易センタービルに対する、いわゆる同時多発テロのわずか一カ月後のことである。
病原性大腸菌、ボツリヌス、フグ毒など食品周辺に散らばる「毒物」は数多いが、「貧者の核兵器」ともいわれるこれらの毒物をテロに利用したら、甚大な被害が出るのは想像に難くない。
そこで米国政府は、テロの起こっていない時点で、食品が関わっている中毒事件の正確な数を把握しておこうと考えて、この報告を作成した。繰り返すが、食品に関する人為的な害が生じていない時点での数を、把握したのである。
日本では2300人が食中毒で死亡?
その結果、米国疾病管理予防センター(CDC)の報告では、7600万人が何らかの食品に関する病気になり、そのうち32万5000人が入院し、さらに5000人が死亡していると述べている。
米国の人口は2億8000万人であるから、人口1億2800万人の日本であれば、3500万人が病気になり、15万人が入院し、2300人が死亡することになる! このような事態は日本では起こっていないとされるが、本当に起こっていないのであろうか?
医療関係者にも食育が必要
日本の食を、特に微生物の面から研究している東京農業大学の小泉武夫先生は、医学部に通われているお嬢様の教科書を眺めて愕然としたという。食に関する知識の教育が余りにも希薄であり、医食同源(薬食同源)が空虚に思えたとも述べておられる。
生活習慣病の過半の原因が食にあることもあり、お医者さんへの食育が必要かも知れない。
日本の食をささえる‘お寒い’研究体制
米国農務省の食に関わる国の研究者は、約9000名であり、生産部門、加工・流通部門、栄養・教育部門にほぼ均等に配置されている。
これに対して、わが国の食に関わる国(現在では独立行政法人)の研究者約3000名は、2つの省(農林水産省と厚生労働省)にまたがり、生産部門に約2700名、加工・流通部門約200名、栄養・教育部門約100名と、極めていびつに配置されている。
食の安全・安心の担保は、健全な食産業の育成にあると考える。そのためには、長期にわたって記録を残す「トレーサビリティー」など、食の安全に対する真の理解が大切であると考え、少し斜めからの私見を記した。
※一部画像は、素材屋Hoshino様よりお借りしました。
昭和18年仙台生まれ。東北大学大学院農学研究科修了。同大学農学部勤務、農学博士。昭和51~53年米国立衛生研究所(心肺血液研究所)客員研究員。農林水産省・食品総合研究所、農林水産省研究開発課長等を経て、食品総合研究所長(第20代)。独立行政法人化により同・理事長。平成16年、宮城大学教授、現職。