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探検! 食の最前線 【3】

2007年5月29日

●アミノ酸の不思議      
                     鈴木建夫(宮城大学食産業学部教授)


ひょんなことからグリシンが製品化!

 医薬品の有効性試験をする場合、薬品成分の入った錠剤と、成分の入っていない錠剤とを何人かに飲ませ、効き目のあることを確かめる。
 この成分の入っていない錠剤を偽薬(プラセボ)というが、ある薬品の偽薬として、アミノ酸で最も簡単な構造式を持ち、特別の作用もないと思われたグリシンというアミノ酸を用いた例がある。

たらばがに


 グリシンは日本酒の甘味の成分として知られるが、砂糖と比べるとかなり甘味度は少ない。しかしながら、たとえばホタテやカニなどの甘味物質としても知られ、独特の風味を作り出している。

 このグリシンを偽薬に使ったところ、妙な現象が発見された。担当した研究員は、奥さんを実験台に試験していたが、奥さんの寝付きが極めて良くなったのである。この会社では、このグリシンを催眠促進物質として製品化した。ありふれた物質だっただけに、極めて注目されている。


アミノ酸の直接摂取はより効果的

 人間のアミノ酸は20種類あって、これが結合してタンパク質を作る。タンパク質は筋肉など身体を形作る一方で、酵素として身体の働きをコントロールする役目も担っている。


 たとえば、我々が肉を食べると、色々な酵素がこれをアミノ酸まで分解して小腸で吸収することは、良く知られる。当然、タンパク質からアミノ酸まで完全に分解することはむつかしいことも多い。

 ハンマー投げの金メダリストである室伏広治選手の力強さは、実はタンパク質として摂取すべきところを、アミノ酸として飲んでいるからだとも言われる。直接アミノ酸として飲用することで、アミノ酸へ分解するまでの手間を省き、直接必要なところに送り込んでいるとも考えられる。

 この市販品が最近流行のアミノ酸飲料である。BCAAと言われる、人間にとって必須の分岐アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)は、実は植物でしかできない。だから、動物にとっての必須アミノ酸になる。

 アルギニンとグルタミン(共に必須アミノ酸ではないが、BCAAと一緒になると効果を増加させる)を一緒にしたものを基本に、スポーツ選手は自分に合った様々なドリンクを模索している。


はかりしれないアミノ酸パワー

 65歳以上を高齢者というが、その人口比率が7%以上14%未満を高齢化社会といい、14%以上を高齢社会という(WHOの定義)。日本は20%を優に超しており、世界でも有数の超高齢社会とされる。

 団塊の世代(1947~49年)が高齢者に入る2012年には、自分自身で栄養に気をつけ、健康年齢を保つ「義務と責任」がある。先程のアミノ酸を含んだゼリーを与えると、高齢者の健康年齢が持続するとの説もある。


 今後、アミノ酸、特に植物(=農産物)の持つ生理作用が、新しい観点から研究されると信じている。農産物のパワーはまだまだはかり知れない。

すずき たてお

昭和18年仙台生まれ。東北大学大学院農学研究科修了。同大学農学部勤務、農学博士。昭和51~53年米国立衛生研究所(心肺血液研究所)客員研究員。農林水産省・食品総合研究所、農林水産省研究開発課長等を経て、食品総合研究所長(第20代)。独立行政法人化により同・理事長。平成16年、宮城大学教授、現職。

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