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2007年4月18日
●「旬」を科学の目で見ると
-農産物も日傘をさす- 鈴木建夫(宮城大学食産業学部教授)
オゾン層は厚さ3ミリメートル!
地上15,000メートルにあるオゾン層の厚さはどのくらいかご存じですか?
地表にオゾン層を持ってくると(大気圧下)、僅か3ミリメートルの厚さしかないのです。オゾン層がいかに壊れやすいか想像できるでしょう。このオゾン層は有害な紫外線をカットする役目を担っています。
繊細な人の細胞
私たち人間の身体は、体重1キログラム当たり約1兆個もの細胞からできています。体重50キロであれば約50兆個にもなります。この膨大な数の細胞の一つ一つに、約2メートルもの遺伝子が折りたたまれて入っています。
この遺伝子情報の作用で細胞が働き、身体を動かしています。したがって、細胞の壁はきわめて薄く、遺伝子はきわめて細いことが容易に理解できるでしょう。
過酸化脂質の功と罪
人間は一生の間に酸素を約18トン消費します。また、エネルギーやホルモンを作るために1.7トンの脂肪を摂取しています。
これらは共に大切な要素ですが、問題となるのは酸素と一部の脂肪からできる過酸化脂質で、少量であれば外部から進入する異物(細菌など)を攻撃する際の「弾丸」の役割をしますが、大量に生成すると、細胞の壁や遺伝子を傷つけてガン、アレルギーそして老化の原因になることがわかっています。
人間にとって諸悪の根源ともいえるこの過酸化脂質は、紫外線によって、より大量に生成することがわかってきました。「子供は外に出て遊びなさい」は、実は子供の寿命を短くすることだったのかも知れないのです。
ポリフェノールは「日傘」の代わり
人間は家の中に入ったり、日傘を差したり、化粧をしたりして、この紫外線の害から身を守ってきました。実は、植物(農産物)も細胞と遺伝子からできていますから、紫外線は大嫌いなのです。ただ動けないので我慢(?)しているだけ。
植物はこの紫外線の害を防ぐために日傘を差すことを覚えました。この日傘の総称がポリフェノールなのです。人間が農産物を食べているのは、この植物のポリフェノール、すなわち、植物の日傘を利用して、過酸化脂質の害から身を守っていると考えられます。
「日傘」をうまく利用しよう
露地ものとハウスものでは栄養成分が異なることはご存じだと思います。露地ものや「旬」のものが栄養成分に富むのは、この日傘物質を持つからなのです。
しかし欠点もあります。
この日傘(ポリフェノール)は「えぐみ」や「あく」の原因となることがあります。ハウスものは軟らかく、えぐみもなく、料理され、仕上がる長所もあるのです。植物の持つ日傘をうまく利用しようと考えることも、農業を楽しくする一つではないでしょうか。(つづく)
(図)農産物はポリフェノールで紫外線の害から身を守る(食品総合研究所 亀山真由美・画)。
昭和18年仙台生まれ。東北大学大学院農学研究科修了。同大学農学部勤務、農学博士。昭和51~53年米国立衛生研究所(心肺血液研究所)客員研究員。農林水産省・食品総合研究所、農林水産省研究開発課長等を経て、食品総合研究所長(第20代)。独立行政法人化により同・理事長。平成16年、宮城大学教授、現職。