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2018年3月 2日
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門
カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長
杉浦 実
果物に含まれる糖質と肥満や高脂血症、糖尿病との関係
果物には果糖が比較的多く含まれ、その甘さゆえに肥満や高脂血症・糖尿病には良くないととらえられることが多いのは、これまでご紹介してきた通りです。このような誤解は一般消費者のみならず、医療従事者にも多く見受けられます。
しかしながらアメリカ食品医薬品局は、糖類(ショ糖、果糖、ブドウ糖等)に関する1,000以上の文献を精査し、糖類の健康面における評価を行った結果、肥満、糖尿病、循環器系疾患等の生活習慣病の発症に、糖が直接的な原因であるという明確な証拠はないと結論づけました。その後、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の両機関も同様に再検討し、「糖類の摂取は肥満を促進する」という考えは誤りであり、果糖やショ糖等の糖類が生活習慣病に直接結びつくことはないとしました。アメリカ食品医薬品局の見解を支持すると同時に、果物、穀類、牛乳(乳糖を4~5%含む)等から供給される糖類(炭水化物)は、生命を維持してエネルギーの供給源として最も重要な栄養素であると結論づけたのです。
また最近では、2015年3月、WHOは肥満や虫歯の予防のために、一日に摂取する総カロリーのうち、砂糖などの糖類を5%未満に抑えるべきだとする新たな指針を公表しました。これは平均的な成人でいうと小さじ6杯程度で約25gに相当します。これまでは10%までと推奨していましたが、さまざまな研究結果から基準を引き下げました。
WHOが摂取量の制限を推奨するのは、糖類のうちブドウ糖や果糖などの単糖類と2糖類であるショ糖(砂糖)に限るとしています。これらの単糖類や2糖類はおもに加工食品や清涼飲料水等に加えられる砂糖のほか、蜂蜜や果汁飲料などに含まれるため、主として菓子類や清涼飲料水が対象となります。そのため、米などの炭水化物や野菜類のでんぷんなどは糖類と考えなくても良いことになります。また、未加工の生鮮果物・野菜類や牛乳に含まれる単糖類や2糖類は対象外となっています。ミカンやリンゴを毎日200g摂取すると炭水化物量としてはおよそ24gになりますが、これらに含まれる炭水化物のほとんどが単糖類と2糖類ですから、WHOの指針である25gとほぼ近い値となります。しかしながら、果物を生鮮物として摂取した場合には、同時に食物繊維等も摂取できるため、菓子類や清涼飲料水を摂取したときのような血糖値の上昇は起こりません。そのため、生鮮物である果物は規制の対象外となります。
これに対して、果汁飲料の場合、200ml摂取しても200gの果物とカロリーに大きな差はありませんが、果汁飲料には食物繊維がほとんど含まれず、また、食物繊維に吸着しているカロテノイドやフラボノイド類の損出が起きています。そのため、これらの機能性成分の摂取量が大きく減る上に、糖質を液体で摂取することが2型糖尿病のリスクを上昇させると、多くの研究で示されています。
果物の最適な摂取量はどれくらいか?
これまで大規模な前向きコホート研究が世界的に取り組まれ、果物の摂取とさまざまな疾患リスクとの関連について、解析が進められています。これらのデータ解析から、果物の摂取は冠動脈疾患や虚血性脳卒中、出血性脳卒中に対して確実あるいはほぼ確実にリスクを低下させるとしており、平均最適摂取量は300g/日としています。
また総死亡率リスクは、摂取量250-300g/日で約10%のリスクが減少、冠動脈性心疾患では摂取量200g/日で約15%のリスクが減少、脳卒中では摂取量200g/日で20%のリスクが減少、2型糖尿病では摂取量200-300g/日で約10%のリスクが減少、高血圧では摂取量300g/日で7%のリスクが減少すること等が報告されています。これら多数の前向きコホート研究の結果から、果物の望ましい摂取量は、200-300gの範囲にあるのではないかと考えられます。
食料需給表(平成28年)で公表されている日本人1人の1日あたりの供給熱量をエネルギー摂取量とみなすと、総エネルギー量は2429kcal、主要な炭水化物摂取源となる種類別のエネルギー量は、穀類880kcal、いも類45.6kcal、砂糖類195.5kcal、でんぷん157.4kcalのほか、野菜72.3kcal、果実60.6kcalとなっています。
炭水化物の摂取源はさまざまで、果物や野菜からも一定量摂取しています。果実の炭水化物はほぼ糖類とみなせますが、総エネルギー量に占める比率はわずか2.5%程度に過ぎません。果物の供給量は94.4gなので、仮に毎日200gの果物を食べても、総摂取エネルギー量の5.3%です。果物がエネルギーの過剰摂取につながるという考えは、当てはまらないといえるでしょう。
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門 カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長