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2017年6月20日
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門
カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長
杉浦 実
機能性表示食品としてのミカン
2015年4月より、消費者庁において「新たな食品の機能性表示制度」が施行されました。本制度では、科学的根拠を示すことができれば、事業者の責任で、ミカンなどの生鮮物にも機能表示が可能になり、今後、生鮮物の消費拡大のための大きな起爆剤になることが期待されています。生鮮物としてのミカン、あるいは100%果汁などの一次加工品については、これまで蓄積されてきた数多くの科学的知見により、本制度への申請が可能になります。今回の表示制度では当初からミカンが最も可能性の高い生鮮食品と期待されており、JAみっかびでは早くから申請に向けての準備が行われました。
ミカン中のβ-クリプトキサンチン含有量
JAみっかび産の興津早生及び青島温州について、特秀・秀・優・良の4等級を分析した結果、いずれもβ-クリプトキサンチン含有量は正規分布を示しました。等級の高いミカンほど、糖度は高く、またβ-クリプトキサンチン含有量も有意に高いことがわかりました。糖度とβ-クリプトキサンチン含有量について相関分析を行ったところ、図1に示すように有意な正相関を示しました(r=0。687、 P<0。001)。光センサー選果機による糖度選別は、β-クリプトキサンチン含有量を全数検査することにほぼ等しいと考えられ、光センサー選果機による選果が、β-クリプトキサンチン含有量の保証に有効であることが判明しました。
JAみっかび産の興津早生及び青島温州を機能性表示食品として消費者庁に申請するため、一日当たりどれくらいの量のミカンを摂取すれば、骨代謝への効果が期待できる3mgのβ-クリプトキサンチンを摂取できるかについて検討したところ、最もβ-クリプトキサンチン含有量の低い興津早生の良品でも、可食部として270g(中心階級のMサイズをおよそ3個)摂取すれば3mgのβ-クリプトキサンチンを摂取できることがわかりました(表)。興津早生の良品よりも糖度の高い等級(優・秀・特秀)、及び青島温州(すべての等級)は、いずれもより多くのβ-クリプトキサンチンを含有していることから、JAみっかび産のすべてのウンシュウミカン(興津早生及び青島温州のすべての等級)が、機能性表示食品として申請可能であることがわかりました。
生鮮物では初めての機能性表示食品として受理
JAみっかびから申請した「三ヶ日みかん」が、2015年9月8日に生鮮物では始めて機能性表示食品として消費者庁に登録されました(受付番号A-79)。同年の早生ミカンから、段ボール等の包装資材に「本品にはβ-クリプトキサンチンが含まれています。β-クリプトキサンチンは骨代謝の働きを助けることにより骨の健康に役立つことが報告されています」と表記して販売が開始しています(図2)。
その後、JAみっかびを成功事例として、他の産地においても同様の取り組みが行われています。2016年11月には、JAみっかびに続きJAとぴあ浜松の青島ミカン(受付番号B-189)、さらには2017年3月には、JA清水の青島ミカンも機能性表示食品として受理登録されました(受付番号B-467)。
生鮮物としてのミカンを機能性表示食品として届出する際には、販売しようとするミカン中のβ-クリプトキサンチン含有量の分析データを添付する必要がありますが、受理登録された後も、販売する年のミカンについては毎年、その含有量が一定量以上含まれていることを示すことが求められています。
しかしながら、分析にはそれなりの時間と費用が必要であり、分析してから結果が得られるまでの間、機能性表示ミカンとしての販売ができなくなります。
これを回避するため、受理された各農協では、β-クリプトキサンチンが糖度と相関することを根拠に、非破壊糖度センサーでミカンを選果することイコール、β-クリプトキサンチンの含有量を保証することになるということを届出書類に明記し、受理登録後は、毎年分析をしなくても良いということになっています。したがって、非破壊糖度センサー選果機を導入している選果場であれば、このような申請が可能となります。一方、非破壊糖度センサーがない産地であっても、一定量のサンプリング検査をすることで届出申請は可能であり、届出受理後も一定数以上のミカンの糖度のサンプリング検査を行えば、含有量の保証は可能と考えられます。
ミカン果汁飲料でも機能性表示食品として受理
一方、ミカンの加工品については、(株)えひめが開発したβ-クリプトキサンチン高含有ミカン果汁「POMアシタノカラダ」が、機能性表示食品として登録されました(受付番号A-105)。えひめ飲料は、ミカン果汁の加工製造について長年の開発実績がありますが、今回受理登録された「アシタノカラダ」はミカン1個分のカロリーで3個分のβ-クリプトキサンチンを含んでおり、低用量(125ml)で1本あたり55kcalとなっています。通常の搾汁方法で製造されたミカン果汁には、100mlあたりおよそ1mg程度のβ-クリプトキサンチンが含まれますが、えひめ飲料ではβ-クリプトキサンチンを高濃度に含むパルプ画分を抽出する技術開発を行い、この高含有素材を果汁に戻すことで、125mlあたり3mgという高含有果汁飲料の開発に成功しました。
果物は、生で食べる分にはさまざまな健康効果が期待できますが、果汁飲料については、飲み過ぎるとインスリン抵抗性や肥満・糖尿病の危険因子になることがよく知られており、今後、健康機能性を訴求した果汁飲料を開発する場合は、アシタノカラダのような商品設計も重要になってくると考えられます。
また一方で、「アシタノカラダ」ほど高含有でなくても、果汁製造時の搾汁方法やその後の遠心処理方法等を検討することで、180mlあたり3mgβ-クリプトキサンチンを含有するミカン果汁飲料の製造も可能です。この方法により製造された和歌山の農業生産法人早和果樹園の「味一しぼり」が、ミカン果汁飲料では2つめの機能性表示食品として、2016年12月に、消費者庁に受理登録されました(B-298)。
おわりに
現在、各産地におけるミカン果実中のβ-クリプトキサンチン含有量について調査を行っていますが、産地間及び品種間において多少の差は認められるものの、早生及び晩生品種であればミカン3個程度で十分な量のβ-クリプトキサンチンを摂取できることが明らかとなり、いずれも機能性表示食品として申請できることがわかりました。糖度が低い極早生品種については、秀品などの等級の高いミカンに限り申請が可能と考えられます。また、三ヶ日町研究の10年後調査から、骨粗しょう症以外にも糖尿病や肝機能異常症、脂質代謝異常症、動脈硬化症などについてもリスク低下が明らかになっており、今後さらに幅広いヘルスクレームが可能になりなると期待されます。これらの知見については、引き続き本稿でご紹介します。
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門 カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長