MENU
2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
2017年5月29日
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門
カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長
杉浦 実
三ヶ日町研究からの知見
三ヶ日町の住民健診受診者のうちインフォームド・コンセントが得られた方を対象に、①空腹時採血による血中カロテノイド値の測定、②DXA法(二重エネルギーX線吸収法)による橈骨3分の1遠位における骨密度測定および、自記式問診票調査等を実施しました。
問診票によるアンケート調査、骨密度測定および、血中カロテノイド値の分析が完了した676名(男性222名、女性454名)について、自記式問診票調査から一日当たりの総摂取カロリー、ビタミン・ミネラル摂取量を求め、血中カロテノイド値と骨密度との関連を横断的に解析しました。
骨密度と血中カロテノイド値との関連について、骨密度に影響すると考えられる要因を統計学的に調整した上で分析を行ったところ、とくに閉経女性では、血中β-カロテンとβ-クリプトキサンチン濃度が、弱いながらも骨密度と有意に相関していました。さらに、ビタミン・ミネラル類の摂取量を調整しても、β-クリプトキサンチンは有意に相関していました。
次に、骨粗しょう症にかかったことがなく、月経のない女性293名をカロテノイド6種の血中濃度(最も血中濃度の低いグループQ1から最も高いグループQ4までの4グループ)に分け、それぞれのグループにおける多変量調整(※)した骨密度を解析しました。その結果、調整骨密度は血中β-クリプトキサンチンレベルが高いほど、有意に高い傾向が認められました(図1左)。
また、それぞれのグループで骨密度が低下していると考えられる多変量調整オッズ比を計算しました。骨密度が低下していると考えられる基準値は、今回月経のない女性全体のうち、最も骨密度が低いグループ(下位25%)を境界値(骨密度0.501g/cm2)としました。データ解析では対象者の数が293名と小規模であったため、血中カロテノイドレベルの最も低濃度のグループ(Q1)とそれ以上のグループ(Q2~Q4をまとめて一つのグループ)とで、骨密度低値の出現割合を計算しました。その結果、β-クリプトキサンチンの血中レベルが高いグループでは、リスクが半分以下であることがわかりました(図1右)。
三ヶ日町研究では追跡調査を継続して行っていますが、平成17年度からはじまった骨密度調査に協力頂いた方を対象に、4年後に調査を実施しました。
現在、日本国内では、日本骨粗しょう症学会の「骨粗しょう症の治療(薬物療法)に関するガイドライン」において、若年成人における平均骨密度値に対する値であるT-スコアが70-80%で「骨密度が低下している」、70%未満では「骨粗しょう症の疑いがある」と診断されます。追跡調査の結果、調査開始時にすでに閉経していた女性においては、ベースライン時にすで骨粗しょう症と考えられる被験者は11.8%でしたが、4年後の調査では18.5%に有意に増加していました。
一方、男性被験者と閉経前女性被験者(ベースライン時)では、4年後の調査においても骨粗しょう症を発症したと考えられる被験者はいませんでした。閉経女性のうち、調査開始時にすでに骨粗しょう症を発症していた被験者を除いて、血中のβ-クリプトキサンチン濃度について、低いグループから高いグループまでの3グループに分け、各グループでの骨粗しょう症の発症率を解析すると、血中のβ-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける骨粗しょう症の発症リスクは、低濃度のグループを1.0とした場合0.08となり、統計的に有意に低い結果となりました(図2)。
また、この関連は、ビタミンやミネラル類の摂取量などの影響を取り除いても統計的に有意でした。同様に、β-カロテンにおいても血中濃度が高いグループほど発症リスクが低くなる傾向が認められましたが、有意な結果ではありませんでした。
※ 多変量調整:(骨密度に)影響があると考えられる要因を統計的に補正すること
作用メカニズムに関する研究とヒト介入試験
β-クリプトキサンチンの骨代謝に及ぼす影響については、これまで詳細な実験的検証が行われており、大腿骨組織培養系を用いた実験において、β-クリプトキサンチンは、骨代謝マーカーであるアルカリフォスファターゼの活性上昇作用や骨中のカルシウム含量を高めることで骨組織中のカルシウム量を有意に増加させ、骨石灰化を増進させることを明らかにしています。また、各種骨吸収促進因子による骨塩溶解(骨吸収)を抑制する作用があることが明らかにされています。
さらに、β-クリプトキサンチンは、骨芽細胞による骨形成に関与する各種タンパク分子(Runx2、 αI collagen、 IGF-I およびTGFβ1)の遺伝子発現を高めることで骨形成を促進する作用があることが明らかになっています。
一方、健常成人を対象にしたヒト介入試験において、β-クリプトキサンチン含有ミカンジュースの長期間摂取により、骨形成の促進と骨吸収の抑制が起きることが、骨代謝マーカーの変化から確認されました。これまでのヒト介入試験および三ヶ日町研究による栄養疫学的な検証から、骨代謝に効果が期待できるβ-クリプトキサンチンの摂取量は3mgと考えられます。
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門 カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長