MENU
2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
2017年5月 8日
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門
カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長
杉浦 実
はじめに
果物・野菜類はビタミンやミネラル、食物繊維等の重要な供給源となりますが、これらの栄養素以外にも、その生体調節機能が注目されているカロテノイド類(※1)が豊富に含まれています。近年、果物を豊富に摂取することが健康な骨の維持・形成に重要であると、欧米を中心とする多くの栄養疫学研究から示されていますが、その作用メカニズムのひとつとして、カロテノイド類による骨代謝改善作用が明らかになりつつあります。
農研機構果樹茶業研究部門では、ウンシュウミカン(以下、ミカン)の摂取がどのような生活習慣病の予防に役立つかを明らかにするため、国内有数のミカン産地である静岡県浜松市北区三ヶ日町の住民を対象に、平成15年度から栄養疫学調査(三ヶ日町研究)を行っています。調査では、ミカンに特徴的に多く含まれているカンキツ成分であるβ-クリプトキサンチンに着目し、血中β-クリプトキサンチン値とさまざまな健康指標との関連について解析を行っていますが、平成17年度からは、骨密度調査を開始し、骨粗しょう症予防に対するミカンの有効性の検討を行っています。
本稿では3回に分けて、β-クリプトキサンチンと骨との関連について、最新の知見と機能性表示食品として消費者庁に受理登録されたミカンについて紹介します。
果物摂取と骨の健康との関係:国内外の知見
最近の栄養疫学研究から、果物を豊富に摂取することが健康な骨の形成や維持に有効であることが、数多く報告されるようになってきました。
果物が骨に対して有用である理由としては、まず、果物には、骨の形成に重要なコラーゲンを合成する上で必須な栄養素であるビタミンCが豊富に含まれていることが挙げられます。また、動物性タンパクの過剰摂取による含硫アミノ酸が代謝性アシドーシスを誘発し、その結果、骨吸収が盛んになり骨に悪影響を及ぼすことが明らかになっています。これを防ぐためには、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のカチオンの摂取が重要と考えられています。
果物にはカリウム等のミネラル類が豊富に含まれており、代謝性アシドーシスを平衡化することで骨吸収を防ぐ働きがあると考えられています。そのため、WHO(世界保健機関)とFAO(国際連合食糧農業機関)が2003年に発表した報告書「Diet、 Nutrition and the prevention diseases」では、健康な骨の維持形成や骨粗鬆症に関連した骨折の予防には、果物・野菜の摂取量を増やすことが重要だろうとしています。
このように果物・野菜の摂取が骨の健康に役立つことが多くの疫学研究から示されていますが、骨代謝に影響するのはビタミン・ミネラル類だけでしょうか?果物・野菜にはフラボノイドやカロテノイド類が豊富に含まれており、近年、これら植物性二次代謝産物の骨に及ぼす影響が検討されています。
カロテノイドと骨の健康との関係
最近の実験的研究から、骨芽細胞のアポトーシス(※2)や破骨細胞による骨吸収に酸化ストレスが関与していることが明らかになりました。実際に、骨密度や骨粗しょう症と酸化ストレスとの関係が、疫学研究の結果でも示されています。そのため、これらの酸化ストレスを抗酸化物質が抑えることで骨代謝に良い影響を及ぼしているのではないかと考えられるようになってきました。
とくに最近では、果物・野菜に豊富に含まれるカロテノイドに着目した研究結果が相次いで報告されています。欧米人を対象にした調査からは、β-カロテンやリコペン、またβ-クリプトキサンチンの血中カロテノイド値が、骨粗しょう症を有する閉経女性では健康な閉経女性に比べて有意に低下していることが、横断研究の結果として報告されています。
また最近、コホート研究(※3)の結果が相次いで報告され、アメリカの高齢者男女におけるカロテノイドの摂取量と脊椎骨、腰骨及び橈(とう)骨の骨密度の変化との関係を4年間追跡した結果では、カロテノイドの総摂取が多い人では骨密度の低下がゆるやかであったこと、また17年間にも及ぶ追跡調査から、カロテノイドの中でもとくにリコペンの摂取量が多いほど、腰骨と非脊椎の骨折のリスクが低減したことが報告されています。
調査する対象集団によって結果が異なるのは、それぞれの対象集団の食生活習慣が異なるためと考えられますが、どのようなカロテノイドがとくに骨代謝に有益なのかについては、今後の更なる疫学研究の結果が望まれます。
※1 カロテノイド:果物や野菜に多く含まれる黄・橙・赤などの天然色素の一群
※2 アポトーシス:細胞の自然死
※3 コホート研究:横断調査をベースライン調査として、その後、追跡対象集団(コホート)に対して追跡調査を行うことにより疾病と暴露要因との因果関係を検証する縦断研究
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門 カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長