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2007年5月25日
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所健康機能性研究チーム 主任研究員 杉浦 実
肝機能疾患には酸化ストレスが関係か?
肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、病気の発現が遅いことや、ウィルス性肝炎に感染しても本人が気づかないでいることが多いのです。肝臓病の主な原因としては、ウィルス・アルコール・薬等がありますが、放っておくと脂肪肝から急性肝炎、慢性肝炎へと移行し、やがて肝硬変・肝臓ガンへと進行します。
近年の臨床研究では、肝硬変患者の血中のビタミンレベル等が、健常者よりも低下していることから、肝臓病に酸化ストレスが関わっているのではないかと考えられてきました。
ところが疫学研究レベルで検討した報告はほとんどありませんでした。
基本健診などの血液検査で肝機能の指標値として、ALT(アラニンアミノ基転移酵素)・AST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)・γ‐GTP(ガンマグルタミン酸アミノ基転移酵素)の3種類がよく測定されます。
いずれも、アミノ酸代謝に働く重要な酵素で、ALTは肝臓に最も多く、ASTは心筋・肝臓・骨格筋・腎臓等に多く存在する酵素で、これらの組織が障害を受けると酵素が逸脱し血中に漏出してくるために、検査値が高くなります。
またγ‐GTPは、アルコール摂取などで敏感に高くなることが多いため、アルコール性肝障害の指標として用いられています。
血中β‐クリプトキサンチンは初期段階での肝機能低下に有効!
まず、アルコール摂取によるγ‐GTPの上昇と、血中β‐クリプトキサンチン濃度との関連を調べました。その結果、図1に示すように、血中γ‐GTP値は、一日当たりのエタノール摂取量が多いほどその数値は高くなりますが、毎日25g以上のエタノール(瓶ビール大一本以上)を摂取していても、血中β‐クリプトキサンチンが高いグループではγ‐GTP値がかなり低いことがわかりました。
アルコールは肝臓で代謝されますが、その代謝過程において過剰な活性酸素種が発生し、これが肝機能障害の原因の一つとも考えられています。β‐クリプトキサンチンが豊富なミカンは、アルコール性肝障害に対して、防御的に働いているのではないかと考えられます。
また、糖尿病のような高血糖状態では、通常よりも酸化ストレスが増大していることが近年の研究から明らかになっており、この酸化ストレスは、肝細胞にも障害を与えることが考えられます。
実際に糖尿病群・糖尿病予備群・正常群でALTとAST値を比較すると、高血糖群ほどこれらの数値が高く、肝機能が低下していることが確認できました。ところが、図2に示すように、高血糖であっても血中のβ‐クリプトキサンチンレベルが高いグループでは、これらの数値が正常群とほぼ変わらないレベルであることがわかりました。
今回の調査は、肝炎ウィルスや肝疾患を有する人はデータから除外しているため、β‐クリプトキサンチンは初期段階での肝臓機能低下に対して有効である可能性が考えられます。
β‐クリプトキサンチンが豊富なミカンは、肝臓を健康に保つために重要な食品である可能性が明らかになりました。今後は、追跡調査を行うことで、より因果関係を明らかにする予定です。
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門 カンキツ研究領域 カンキツ流通利用・機能性ユニット長