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2007年12月 4日
チーズの熟成管理
柴田千代
今日はチーズ熟成庫の「チーズ洗い」を任された。
熟成庫はチーズ工房の真下(地下)にあるため、程よい湿度が保たれている。温度管理の機械は設置されていたが、年中動かしているようではなかった(必要に応じた時だけ動かす)。
「チーズ洗い」とは、棚に並べられているチーズの表面を、定期的に(週に2、3回程度)塩水で洗うことだ。塩水で洗うことでチーズに水分を与え、加塩が風味の向上、雑カビの繁殖防止になる。そして塩基性のリネンス菌(表皮に生えるオレンジ色の酵素)の繁殖を促す。
チーズを洗う液は、2リットルの水に対し、一掴みの塩を入れる。この液を手に付け、チーズの表面を洗う。
洗う作業は熟成の古いものから行い、徐々に若い物を洗う。そうすることにより、熟成されたものから良い酵母や菌、風味や色が液に移り、若いチーズを洗う頃には「洗い液」がいい色に(オレンジ)なっている。
上段にあるのは若いチーズで、下段にあるのは、2週間程洗われ熟成されたものだ。真っ白な上段に比べ、下段はほんのり色付きはじめているのが良くわかる。
ちょうど真ん中あたりに、黒い粒々したコショウのような物が入っているチーズを見ることできるが、これはクミン入りのマンステールだ。クミン入りマンステールはとても味と香りが強く、私は苦手だが、フランス人は「この味が美味い!」と言って、たくさん食べていた。私は何度も挑戦したが、やっぱり駄目だった。残念!
この牧場で作っているチーズは「※マンステールA.O.C」である。伝統的な製法を厳しく守り、ほぼ昔と変わらぬ製法で作りその味を守り続けている。
熟成期間中は「マンステールA.O.C」の指定する地域内で、最低3週間過ごさなければならない。このほか細かく規定が定められていることで、しっかりとした品質が保たれている。
国、町が協力し、定期的にコンクールや審査会が開かれる。審査員に3回警告を受けると「マンステールA.O.C」の認証を剥奪されてしまう。小さな農家にとっては、認証を受けているのかいないのかは商品の価格に響き、売り上げに大きな影響を与える。だから、品質安定には必死になる。
高品質の製品を作り続けるのは、やはり小さな農家にはとても難しいことである。季節、天気、エサ、お産をするなどによって、牛の体調は毎日のように変化し、乳成分、胃の酵素活性などが変わるからだ。
この変化に合わせて製造するところに、チーズ職人の腕がかかっている。ミルクの状態に合わせ、レンネット(凝乳酵素)の量、乳酸菌の発酵時間、ホエー(乳清)の抜き加減などで調節してゆく。
季節の変わり目、牛の体調管理それら全てを一番近くで見ている農家だからこそできる技である。
牛と同じ土地を歩き、牛からチーズ作りを学ぶ。その原点がこの牧場にあると確信した。
※マンステールA.O.C
●マンステール = ウオッシュタイプのチーズの名前
チーズには様々なタイプのものがあるが、マンステールはウオッシュタイプ(まわりを塩水で洗う)のチーズ。“くさや”のような匂いがするとも言われているが、味はマイルドで意外に食べやすい。
●A.O.C = Appellation d’Origine Controlee = 原産地呼称統制
国、業界、専門家による運営を行い、地域の伝統、製造方法、品質を管理し保証している。
この制度は「乳製品」「ワイン」「農産物加工品(オリーブオイル・蜂蜜・ハム・ソーセージなど)」の対象になっている。
ちなみにイタリアにも同じ様な統制があり「D.O.P」と呼ばれている。
(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)
東京農業大学 食品理工学研究室(チーズ班) 卒業
新得共働学舎 チーズ工房 2年勤務
フランスワーキングホリデービザにより、現在チーズ製造技術を取得するため、フランスで農家製チーズの技術をじかに学び帰国。