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2007年9月18日
「ジャージィ牛とチーズ作り」
柴田千代
雨の足音を聞いたことがありますか?
ここアルザスの牧場は、山の斜面に位置している。遠くの地平線まで見渡すことができ、遠くからやってくる雨の足音を聞くことができる。
「見てごらん 雲と地面がくっついて見えるところがわかる? あそこは今雨が降っているんだ、あの雨雲はそのうちこちらに来るよ」
と、一緒に働く同じ研修生が私に言う。はじめ、まさかそんなはずは無いと思っていたが、雨が降った。
ブサンソンの農場(ヤギとブタを飼育)に別れを告げ、アルザスの牧場へやってきて一週間。毎日が雨だ。太陽はどこへ行ってしまったのかと思うほど、曇りか雨ばかり。
お陰で小麦たちは刈るタイミングを逃し、黒かびが生え、もう商品にはならないという。雨と冷害の被害は、ブサンソンよりアルザスの方が大きいと実感した。
この牧場では、牛(ジャージィ牛)、チーズ、野菜と加工品(バジルペースト・リンゴジュースなど)で生計を立てている。牛は珍しくジャージィ牛で、バター・ヨーグルト・チーズ(マンステールA.O.C)を作っている。野菜はビニールハウスが23棟あり、かなり大型の農家だ。
毎日の仕事は、動物班と野菜班にわかれる。私は動物班なので、朝7時から搾乳・エサやり・掃除・放牧地への移動などを行っている。
牛たちは、みな毛並みがとても綺麗だ。体に糞が付いていない。朝も昼も夜も、雨の日も風の日も、放牧されている。
搾乳牛はたったの21頭。少ないながら、しっかりとミルクを出す。
全部で30頭いる牛たちに、なんと乳房炎の牛は1頭もいない。搾乳する時は、お湯に雑巾を浸し、しっかりと拭き、前絞りをしてからミルカーを付ける。搾り終わったらディッピングもせずにそのまま牛舎へ戻る。
この作業の繰り返しでも、乳房炎の牛は年に1頭でるか、でないかだという。たとえ乳房炎になっても、抗生物質は一切使わずに治療を行うそうだ。
その治療法はこうだ。一日何度も手で絞り、さらに仔牛のいるところに移し、一日中ミルクを吸ってもらう。すると自然に治るという。私は空いた口が塞がらなかった。そんなことが本当にできるのか。
さて、朝晩のミルクを使い、一日一回のチーズ製造が行われる。原材料のミルク230kgほどからできるチーズは、毎日およそ23kgだ。
ミルクは驚くほどに黄色い。ジャージィ牛のミルクは脂肪分が高い上、放牧されてビタミン・β-カロチンがたっぷりの青草を毎日食べているためだ、と言う。このミルクからできるチーズやバターは、もちろん黄色だ。
大きな銅鍋を使い、ガスコンロで直にミルクを温める。
加温→スターター添加→レンネット添加→凝固→カット→撹拌→モールディング(型入れ)→プレス→反転→加塩→熟成
作業の流れはこのような順で行われる。日本での製造手順、スターター、レンネットは何ら変わらないのに、どうして味がここまで異なるのか。
おそらく一番の違いは、ミルクが無殺菌であり、銅鍋を使っていることだ。日本ではミルクへの殺菌が義務付けられているし、乳製品加工での銅鍋の使用は許可されていない。
無殺菌乳で作られるチーズは風味がよく、その土地や草を知ることができる。その牛のミルクの特徴や生活環境、季節、チーズ職人の優しさまでもが、一口のチーズから感じ取れるほど素晴らしいのだ。日本でも無殺菌乳の許可が下りることを願うばかりである。
(※画像をクリックすると大きく表示されます)
東京農業大学 食品理工学研究室(チーズ班) 卒業
新得共働学舎 チーズ工房 2年勤務
フランスワーキングホリデービザにより、現在チーズ製造技術を取得するため、フランスで農家製チーズの技術をじかに学び帰国。