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2007年8月20日
「野山を駆け巡るブタたち」
柴田千代
ある1頭の雌ブタの様子が、夕食の時間、何かいつもと違う。エサやりの時間帯は「早く ご飯をちょうだい!」とせかすのに、今日は何も言ってこない。むしろエサを食べないのである。
長い間横になり、時に立ち上がったと思ったら、敷き藁を鼻で押し、土の中をほじっている。落ち着かない様子だ。牧場主のディディエさんに伝えると、
「よしよし もうすぐかもしれない」
「えっ なにがですか?」
「子供が産まれるのだよ」
「あぁ 彼女は母ブタなのですか」
どのブタも体が大きく、私は彼女が妊娠中だとは気づかなかったのだ。母ブタをよく見ると、お腹のたわみが他のブタに比べ明らかに違うことがよくわかった。
次の日の朝、いつもと同じ時間にエサやりに向かう。いつもと違い、泣き声の高いトーンが聞こえるようだが?
「ぴーぴーぴー」
「ん? 誰だこの鳴き声は」
泣き声に近づくと、何やら手のひらサイズの小さなピンク色がもぞもぞ動いている! 子豚が産まれそうだということを、すっかり忘れていた。
「わぁ 子ブタがいっぱい産まれている!」
どうしたらいいのかわからず、全力疾走でディディエさんを呼びに行った。
冷静なディディエさんは新しい藁をやり、子ブタの数を数える。
「10頭か よくがんばったね」と母ブタに言う。
子ブタは13頭産まれていたが、すでに3頭が死んでいた。死因は、未熟児や、母ブタに踏まれてしまい窒息死、などである。
母ブタの体250kgに対し、子ブタは300g程度なのだ。母親は自分が踏んでしまったことに気づいていないことが多い。他の動物ではありえないが、ブタの世界ではよくあることだという。
ある晴れた日。
母ブタに連れられた子ブタが、家の外に出てきて、野原で遊んでいる。
子ブタたちは外の世界にドキドキしながらも、太陽の光を浴びながら、草の匂いをかぎ、走り回り、初めて目にする世界に興奮しながら、母ブタの後を追いかける。大きく丈夫に育つのだよ! と私は心の中で願った。
日本にいた時、ブタに対するイメージは、「潔癖」。無菌スーツを着て、全身殺菌してからでないと豚舎には入れないものと思いこんでいた。
フランスで出会った、野を駆け巡るブタの姿はとても衝撃的だった。「ブタって 走れるんだ 緑の草が好きなんだ」と単純ながら感心し、「そうだよね ブタも動物だもんね」と思ったのだった。
(※画像をクリックすると大きく表示されます)
東京農業大学 食品理工学研究室(チーズ班) 卒業
新得共働学舎 チーズ工房 2年勤務
フランスワーキングホリデービザにより、現在チーズ製造技術を取得するため、フランスで農家製チーズの技術をじかに学び帰国。