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2007年5月31日
「バイオマス・ニッポン」の困惑
全国農業改良普及支援協会会長 大森 昭彦
5月23日、世界農業情報センターのレスター・ブラウン所長が、「バイオ燃料が食卓を脅かす」との講演を東京で行い、25日にはNHKの「クローズアップ現代」に出演して、同じ趣旨の話をしていました。
このところ、海外でバイオ燃料(エタノール)のブームが過熱気味です。
米国のブッシュ大統領が生産拡大の火をつけ、ブラジルのルーラ大統領が輸出の拡大を目論んでいると報道されています。
所長は、トウモロコシやサトウキビが人や家畜の胃袋に入らず、自動車のガソリンタンクへ吸い込まれていくことにより、飼料や食料品原料価格の高騰、貧困、飢餓人口の増加、森林破壊や農地の地力低下等の諸問題を誘発すると警告しています。
この状況は、4年前に地球温暖化の防止と農山漁村・農林水産業の活性化を目的に策定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」の目指した方向と大きく食い違うものです。
戦略が意図したものは、第一に、廃棄物や未利用資源などの有効利用から始め、エネルギー作物の栽培は将来の問題と位置づけています。食料自給率の低い我が国としては当然のことです。
第二に、地域に根ざした循環システムとして「バイオマスタウン構想」で市町村単位の計画策定、実行を掲げています。
そして、第三に、国産のバイオマスが普及するように各種の制度改善や助成措置で支援していくというものです。食料の輸入大国が、バイオマスまで輸入することは許されないとの立場からの提案です。
ところが、海外のバイオ燃料ブームは、真っ向からこの戦略に冷水を浴びせるものになっています。
穀物の最大の輸出国、米国が穀物からエタノールを大量生産することにより、「食料かエネルギーか」の論議に発展することは、我が国のバイオマスの推進にとってブレーキになることが危惧されます。
また、仮にブームに乗ってブラジルからの輸入に走ることになっては、草の根的な国産の努力を踏みにじることにつながりかねません。
幸い、我が国でのガソリンへのエタノール添加は試験段階なので、直ちに大量輸入にはつながらないと思いますが、穀物の価格高騰は既に畜産経営を圧迫しはじめています。
そもそも、ブッシュ大統領は京都議定書に背を向けており、ルーラ大統領は温暖化ガス排出量削減の約束の外側にいますから、この二人の行動は地球温暖化の防止を目的にしたものではないことは明白です。
戦略策定の当事者として、我が国の先進的なバイオマスへの取り組みを支援する立場から、この問題への関係者の冷静な対応を切に望む昨今です。
社団法人全国農業改良普及支援協会 会長