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EZOからのおいしい便り 【6】

2007年10月16日

 白老町にて

    農村ライター 長尾道子


 9月下旬、札幌から登別に向かう途中にある白老町に行ってきました。チェプ(鮭)祭で行われる儀式、「アシリチェプカムイノミ」を見るためです。

 「アシリチェプカムイノミ」は、鮭が遡上する9月頃に川の河口付近で鮭を迎えるための儀式で、アイヌの人たちが昔から行ってきたもの。かつて鮭を主食とし、自然や動物などすべてのものに感謝して暮らしてきた彼らにとって、カムイノミ(儀式)はとても大切なものだと聞いていました。
そこで、今回のお祭りのことを耳にして、参加してみようと思ったのです。

 当日は真っ青な青空が広がり、肌に優しく触れるようにそよ風が吹いていました。

  


 儀式をとり行うのは白老町アイヌ民族博物館の新井田さんです。また、毎年、他の地区から応援が来るのだそうですが、今回は隣町の苫小牧市のウタリ協会の方たちが駆けつけていました。アイヌの人たちは民族衣装の模様が地域によって異なるため、その模様を見てどこ出身なのかを判断したそうです。確かに、白老と苫小牧のメンバーでは着ている衣装の模様が違います。

 儀式は厳粛な中、執り行われました。

 新井田さんがアイヌ語で火の神様に鮭漁の豊漁と感謝を祈ります。そして火の神様が伝言者となって、5つの神様にその旨を伝える。

 5つの神様とは、船着場の神様(昔は鮭漁に使う船を上げ下げしていた砂地を船着場とよんだ)、波立ちの神様(海に白波が立つ状態のときに鮭が上がりやすいため)、水源の神様(鮭が行き来するために欠かせない水を作り出すところ)、川の河口の神様(鮭が海から川へ上がってくる際に一定期間河口で息をならすために留まる場所)、きつねの神様(鮭が上がってきたことを一足先に知らせてくれる存在)です。


 儀式が無事に終了。それと同時に「あらゆるものに感謝して、おいしく無駄なく鮭を頂こう」という思いに駆られました。そう思わせるほど、この儀式は私の胸に強く残りました。

 「人の言葉は神様には届かないんだ。火の神様が伝言者となって、私たち人の言葉に足りないところを補ってそれぞれの神様に伝えてくれるんです」と、新井田さんは儀式のあとに教えてくれました。

 祭壇も、新井田さんが山から木を切り出し、一つ一つ丁寧に作ったものだそう。本当に何もかもに感謝の念が、豊漁の願いがこもっていたのです。


 30年以上北海道に生きてきて、こんなに自然を敬い、感謝の心を忘れない人たちのことを知ろうとしなかったなんて、とても恥ずかしく残念に感じました。と同時に、このようなことをずっと続けてきた人たちがいる、この北海道をとても誇らしく思いました。

(※画像をクリックすると大きく表示されます)


「チェプオハウ」(鮭の塩汁)

《今回のおいしいモノ》

塩鮭でつくる「チェプオハウ」(鮭の塩汁)。

大根、人参、じゃがいも、塩鮭が入った素朴なお汁なのですが、うまい! 

白老町のアイヌ民族博物館で、キビ入りおむすび2個と山菜のおひたしとセット500円で味わえます。作り方を教わって自宅で作ったら、夫も息子も「うまい!」とモリモリ食べてくれました。

ながお みちこ

異業種の職業を持つメンバーが「食」と「農」のあり方を真剣に考え、行動する「食農わくわくねっとわーく北海道」事務局長。食べることと農は一体。自分たちの生活を楽しくするために、「一緒にわくわくしましょう」という思いを実践する。

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