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2022年9月26日
広がれ学校給食の無償化
ジャーナリスト 村田 泰夫
小中学校の学校給食の無償化の動きが、ちょっぴりだが、出てきている。私が住んでいるのは千葉県内だが、新聞の千葉県版に「市川市が2023年1月から、市立小中学校の給食を無償化する」というニュースが載っていて、驚いた。田舎の小さな町村ならいざしらず、人口20万人を超える都市部では珍しい。
そうしたら、東京都葛飾区が23年度から小中学校の給食の完全無償化に踏み切るというニュースも飛び込んできた。東京23区では初めてだという。学校給食の無償化の広がりは好ましい。
ちょうど1年前、このコラムで私は、神奈川県の横浜市が、まともな学校給食を実施していないことを嘆いた。
その際、私は憲法で「義務教育は無償とする」とあり、小中学校の給食は無償にすべきだと訴えた。給食は単なるおなかを満たす「昼ご飯の提供」ではない。食材がどこでどうやって栽培されているか、どのような栄養があるか、どうやって調理され、食事マナーや後片付けはどうするかなど、いわゆる「食育」という教育の一環だからである。
学校給食法には「自治体は学校給食を実施するように努めなくてはならない」という趣旨のことが書いてある。このため、学校給食を実施している学校は、小学校で99.1%、中学校で86.8%にのぼる。そのほとんどが、主食におかずやミルクからなる「完全給食」である。これは文部科学省が2018年5月に実施した調査結果であり、ほとんどの学校が給食を実施しているといっていい。
ところが、学校給食のメニューの考案や調理にかかわる費用は自治体が負担しているが、食材費については「保護者の負担」としているところが圧倒的に多い。
その文部科学省の調査(2018年)によれば、小中学校で学校給食費の無償化を実施しているのは、全国1740自治体のうち76自治体にすぎない。割合にすると、わずか4.4%だ。そのうち、「市」は5つだが、人口は3~7万人台と小規模な市である。「町村」は71だが、そのうち人口1万人未満が77%を占める。人口の大きな市町村で、給食費を無償にすると、財政負担が大きくなるので、これまで実施に踏み切るのが難しかったのであろう。なお、給食費の一部を補助している自治体は424と、少なからずあった。
今後、学校給食の無償化が広がるかどうかである。学校給食を無償化する理由について、千葉県市川市の田中甲市長は「子供たちの成長を社会全体で支えるため」としている(日本経済新聞9月11日)。市川市の場合、市の財政負担は17.7億円増えるという。大きな財政負担を覚悟のうえ、無償化に踏み切った決断を高く評価したい。無償化の理由について、「食育という教育の一環として取り組むため」と踏み込んでくれたら、なおよかった。
報道によれば、東京都葛飾区のほかに、青森市も2022年10月から、市内の小中学校の給食を無償化する。学校給食の無償化が広がりつつ背景には、ウクライナ危機や円安による食料品の値上がりによる保護者の経済的負担を軽減するねらいがあるそうだ。本来なら、義務教育なのだから、自治体もさることながら、国がもっと負担していい話である。
文部科学省の調査では、2018年の場合で、学校給食費の保護者の月額負担額は、小学校で4343円、中学校で4941円だった。月額5000円近い負担額は少なくない。小中学校に通う子どもが2~3人いる家庭では、負担感はなおさら大きい。
学校給食で、さらに言っておきたいことは、食材の地産地消である。以前、千葉県いすみ市の有機栽培米を取材したとき、学校給食に地元産の有機栽培米を使っていた。厳密に言うと「特別栽培米」である。いすみ市では、化学肥料や農薬を使わない有機栽培米の作付面積が増えているが、3年以上続けて化学肥料や農薬を使わない田んぼで栽培した米でないと、有機栽培米として表示できない。だから、有機栽培に転換途中の米は、厳密には特別栽培米としか表示できない。もちろん、安全・安心だし、おいしい。それを子どもたちに食べさせている。
それを知った市内の農家のお母さんたちが、自宅の畑で作った無化学肥料・無農薬の野菜を、学校給食に使ってほしいと提供し始めた。有機栽培の野菜は、慣行栽培の野菜と比べて、おいしさの違いが際立つ。市内の学校給食に使う野菜の全量を有機野菜というわけにはいかないそうだが、子どもたちの「食べ残し」が減ったという。
学校給食で出された牛乳が「臭い」とか「まずい」というニュースに接することがある。健康被害につながったことがないことは救いだが、良質でない食材が学校給食に提供されたことは間違いない。原因はわからないが、酪農家によれば、牛乳の味は乳牛に与えるエサが影響するが多いという。もし、そうだとするなら、良質なエサを与えて絞った牛乳を子どもたちに飲んでもらいたい。
学校給食の無償化については、国や自治体にもっと努力してもらいたい。そして農業者には、有機農産物でなくてもいいから、地域の誇りである良質でおいしい農産物を子どもたちに食べてもらうように努めてもらいたい。(2022年9月16日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。