MENU
2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
2022年8月23日
何のことやら、DXとGX
ジャーナリスト 村田 泰夫
最近、農業の業界専門紙にもDXとかGXという活字がおどるようになってきた。何と読むか、どういう意味か、ご存知だろうか。DXは「デジタル・トランスフォーメーション」と読み、GXは「グリーン・トランスフォーメーション」と読む。
「X」をトランスフォーメーションと読ませるから、よけいわかりにくくなる。トランスフォーメーションは「変容」という意味なので、DXを直訳すると「デジタルによる変容」となる。つまり、DXとは「デジタル技術を使って、製品やサービス、ビジネスモデルを変革すること」をいう。デジタル化とかグリーン化なら、アナログ世代の高齢世代の農業者にも、なんとなくわかった気になれる。
これまで、私たちは紙に文章を書き、それを郵便やファックスでやり取りしてきた。これをアナログという。それに対し、スマートフォンやパソコンを使って、メールで済ますことをデジタル化という。農業の分野でいえば、「どこの水田で、どれだけの肥料や農薬を散布し、何kgの収穫があった」というデータをノートに書いていたアナログ作業に換えて、高性能なセンサーがパソコンやタブレットに自動的に入力することをデジタル化という。
パソコンやスマホを使っても、それまで紙に書いていたアナログ作業をデジタル機器に入力し直しただけでは、DXとは言えない。デジタル機器を使いこなすことで、データを分析して経営の効率化につなげたり、広く顧客に情報を提供したりして、経営のあり方を変革して初めてDXと言える。デジタル機器を使いこなして経営に役立てれば「X」がつくと、理解すればいいのではないか。
ちなみに、グリーン・トランスフォーメーションと読ませるDXは、地球温暖化の進行を止めて温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラルをめざすグリーン化に取り組むことで、経済社会を変容させることをいう。環境保護政策をてこにした成長戦略と言ってもいいだろう。
農作業の記録をデータ化することに、どれだけのメリットがあるか、いまなお実感できない農業者が多いと思う。しかしながら、若い世代にとって、スマホやパソコンなどのデジタル機器は、産まれたときから身近な存在である。年配の世代とは真逆で、手紙は書かずスマホのメールで済ませ、国内外の情報・ニュースは、新聞やテレビなどのアナログではなく、ネットで得ている。その代わり、「郵便の宛名を、封筒のどの位置に書くのかわからない」若者がいるという。
農業者がデジタル化に対してどれだけ親しみを感じているか、世代間の違いがはっきりわかる調査結果がある。日本農業法人協会が8月に発表した「2021年版農業法人白書」によると、デジタル化導入のひとつの指標である「スマート農業の導入」について聞いたところ、若い経営者ほど導入割合が高かった。
経営者が30歳代の経営体では68%がスマート農業を導入しているが、年齢が高くなるほど、その割合が下がっていき、80歳代では37%になってしまう。でも、年齢が60歳代で50%、70歳代で47%と、経営者が比較的高齢であっても、日本農業法人協会に加入している大規模な経営体では、スマート農業(デジタル化)を手がけている割合が多い。
実は、農業者の高齢化や労働力不足が顕在化しているいまこそ、デジタル化を導入する意義が大きい。デジタル機器とGPS(全地球測位システム)を組み合わせたトラクターを使えば、無人で播種や施肥、収穫ができるようになり、労働力不足を解消できる。これは最先端の技術を導入した場合だが、初歩的なデジタル技術であるホームページの開設でネット販売を始めれば、新たな販売先を容易に開拓できる。これからの農業にとって、デジタル化は不可避といってもいいのである。
NPO法人の中山間地域フォーラムが全国町村会と7月下旬に開いた合同シンポジウムのテーマは、「ゼロカーボンとデジタル化」だった。ゼロカーボンは、2050年までに地球温暖化の原因となる二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするグリーン化戦略だから、今年のテーマは「GXとDX」だったのである。
中山間地域をはじめ、わが国の農山村は人口減少や高齢化の進行で、ますます「生活のしにくさ」などマイナス面が目立ってきている。しかしながら、農山村には自然資本が豊富である。太陽光、小水力、バイオマスなどの地域資源を最大限に生かす余地がある。また、人とのつながりやデジタル機器を上手に組み合わせることで、人口減少や高齢化の進行というマイナス面を補い、豊かさや幸せを分かち合える地域社会のトップランナーに作り変えることができる。
そのことを、コロナ禍が私たちに教えてくれたような気がする。過密社会である大都会での仕事や暮らしが必ずしもいいわけではなく、低密度社会である中山間地域のよさが見直された。ゼロカーボンやSDGs、デジタル化への対応が、新たな地域を作り直すチャンスになるかもしれない。(2022年8月19日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。