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2020年8月24日
農協への評価と不満
ジャーナリスト 村田 泰夫
「自己改革8割超が評価」。7月30日の日本農業新聞の1面トップに、大きな見出しが躍った。「農協の機関紙だから、都合のいい記事を載せたのだろう」などと、ひねたことを言ってはいけない。ほぼすべての農協が参加し、全組合員を対象に実施した大規模な調査結果で、390万もの有効回答件数があったというのだから、評価しなければならない。
新聞によると、「JAの営農関連事業は正組合員の8割以上が『改善した』『もともと良い』など、自己改革を肯定的に評価した」という。
どんな調査方法をとったのであろう。新聞によれば、「原則全ての正・准組合員を対象に、JA自己改革への評価や総合事業の是非などを尋ねた。JA役職員が戸別訪問して意見を聞き取ることを想定し、組合員との関係強化も目指した」という。調査用紙は約606万人の組合員に配布。「対面ベースの民間調査としては異例の規模」になったという。そうであろう。こんな大規模な調査は、国勢調査ならいざ知らず、聞いたことがない。しかも、「訪問・対面は8割超で実現した」というから驚きである。
組合員との対話は必要なことであり、農協の役職員が農業者や准組合員と会って、直接話を聞くことは大切なことである。しかし、アンケート調査を訪問・対面方式で実施して、公正な結果があらわれるだろうか。農業の役職員が自宅に訪ねてきて、「農協の評判はどうですか」と聞かれ、組合員はどう答えるだろう。
面と向かって、なかなか不満は言い出せないのではないか。「改善した」と言いたくないけれど、せめて「改善しつつある」ぐらいのことを答えないと失礼かな、と配慮してしまうのではないか。事実、「もともと良い」や「改善した」より、「改善しつつある」という答えが圧倒的に多かった。
農協の評判についての調査は、農林水産省でもやっている。2017年3月に公表された「農業協同組合に関する意識・意向調査」によると、農協自身が実施した調査とは異なり、やや辛口の結果が出ている。
農業者を対象とした調査で、農薬や化学肥料それに農業機械など農業生産資材の購入と、農業者の生産した農畜産物の販売について聞いてみると、農協に対する農業者の満足度は高いとはいえない。農業生産資材の購入先では、肥料では70%、農薬では68%、農業機械では37%の農家が農協から購入していた。
ところが、満足度について聞いてみると、「満足していない」が52%と最も高く、「どちらともいえない」は33%だった。満足していない理由について聞いてみると、「価格が高い」と答えた者が圧倒的で、75%を占めた。生産資材について農協に望むこととしては、「価格の引き下げ」が82%を占めた。
一方、農業者が生産した農畜産物の主な出荷先を聞いてみると、「農協」(直売所を除く)が55%と最も多く、次いで「民間の集出荷業者・卸売業者」と「直接取引」(加工業者、外食、小売店、生協、消費者への宅配)が、それぞれ15%と並んだ。
組合員・農業者の生産した農畜産物を農協が有利に販売してくれているか、販売事業の満足度を聞いたところ、「満足している」は、わずか10%に過ぎなかった。「どちらともいえない」が41%と最も多く、次いで「満足していない」の35%だった。
農協の販売事業で満足していない理由を聞いてみると、「精算価格が安い」が51%と最も高く、次いで「手数料、検査料が高い」が24%、「買取価格でないため手取りが不安定」が11%だった。販売事業で農協に期待することとしては、「販売力の強化」(価格交渉力の強化、直接販売、販路の拡大、買取販売など方法の多様化)が77%と圧倒的に多かった。次いで「消費者ニーズに把握と生産現場への情報提供」の27%だった。
17年に公表された農水省の調査は、農協改革の集中推進期間(14年6月~19年5月)の真っただ中での結果であり、農協の改革努力が反映されていない。農協改革途上での農協への評価であり、農業者が農協に何を期待しているかがよくわかる調査結果といえよう。
最近、農業者と話をしていると、農薬や肥料などの資材価格の引き下げや、生産した農産物の販売で、農協が努力していることを聞く。「大口取引ということで、肥料価格を割り引いてくれた」とか、「かつては農産物を卸売市場に運ぶだけだった販売事業が、最近では大都市の需要家に直接売り込んでくれた」とかである。
19年9月に公表された「農協改革についての状況」で農水省は、「農協の自己改革は進展している」と評価している。認定農業者を対象としたアンケート調査によると、自己改革前の16年度は、農協の購買事業について認定農業者の24%、販売事業について26%しか評価していなかったのが、改革期間後の19年度は、購買事業について44%、販売事業について40%が評価している。農協自身のアンケート結果の8割には及ばないが、農協の自己改革を評価する農業者が増えていることは喜ばしいことである。(2020年8月21日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。