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2020年1月23日
「関係人口」と「にぎやかな過疎」
ジャーナリスト 村田 泰夫
「関係人口」という言葉をご存知だろうか。地域おこしのキーワードとして、近年、注目されるようになっている。わが国では、地域問題といえば「少子高齢化」や「人口減少」が諸悪の根源だと言われてきた。しかし、少子高齢化や人口減少は、止めることができない。人口を増やす妙案は、なかなか見つからない。であるならば、人口減少を所与のものとして受け入れ、関係人口を増やしていこうという考え方が出てきたのだ。
そもそも「関係人口」とは、何なのだろう。2016年にこの言葉を広めた一人で、雑誌「ソトコト」の編集長である指出一正氏によると、言葉の通り「地域に関わってくれる人口」だそうだ。似た言葉に「交流人口」があるが、指出氏によると、関係人口は「『交流人口』と違い、積極的に地域の人たちと関わり、その社会的な足跡や効果を『見える化』しているのが『関係人口』といえる」という。
明治大学教授の小田切徳美氏によれば、説明は明解である。人々と農村との関係は「多様で段階的」だという。「特産品を購入する」だけの関係から、ふるさと納税など「寄付する」関係、リピーターなど「頻繁に訪問する」関係、「地域でボランティア活動をする」関係、地域に拠点を持ち一定期間住む「二地域居住」の関係、そして「移住・定住」まで多様で、段階的である。観光で訪れるだけの関係から移住・定住まで、さまざまな段階があるわけだが、ざっくり言ってしまえば、「関係人口とは、観光以上・定住未満の関係を保つ人口」と言えるだろうか。
関係人口の存在は、地域にとってどのような意味を持つのだろう。その地域に住んでいるわけではないが、関係の濃淡はあるものの、特定の地域のことを常に心にかけ、その地域に関わり続けようと思っている人たちが関係人口である。したがって、よその地域から訪れてくれて買い物をしてくれるなど、地域の消費拡大に貢献する。また、地域のイベントや新しい事業の創出に参加してくれる可能性だってある。つまり、関係人口は、地方創生を支える主要な担い手と言えるのである。
人口減少が不可避である現状において、関係人口の果たす役割は極めて大きいと、明治大学の小田切教授は力説する(「AFCフォーラム」2019年12月号)。関係人口の多い地域では「にぎやかな過疎」と呼ばれる現象が起きているという。
「にぎやか過疎」とは面白いワーディングである。小田切氏がここ数年、訪ねた地域で「過疎地域にもかかわらず、にぎやかだ」という印象を抱くことがあって、この言葉を見つけたらしい。人口の動向はデータを見る限り減っていて、地域の過疎化は紛れもなく進んでいる。しかしながら、地域内では新しい取り組みや動きが見られ、なにやらワイワイガヤガヤして、楽しげな雰囲気が漂っている。
「にぎやかな過疎」を演出しているのは、開かれた地域づくりに取り組む地域住民が主役であることに間違いないが、小田切氏によれば、地域でみずから「しごと」をつくる移住者(その候補として「地域おこし協力隊」)、地域に関わりを求めて活動する関係人口、それにNPO法人や大学、社会貢献活動をする企業などプレーヤーは多彩である。
小田切氏は指摘する。「にぎやかな過疎とは、地域内外の多様な主体が人材となり、人口減少社会にもかかわらず、内発的な発展を遂げるプロセスを指している。そこには農山村のみならず、日本の地方部全体がめざすべき姿が示されている」。多様な人材の中で、とくに「関係人口」の存在は大きい。
そんな関係人口は、どのくらいいるのであろうか。国土交通省が公表した資料に、興味深いデータがある。2019年9月に東京、関西、名古屋の三大都市圏に住む約3万人を対象にインターネット調査をしたところ、有効回答のうち約34%が「日常生活圏、通勤圏以外に定期的・継続的にかかわりのある地域」があるという。そのうち、「実家訪問」など地縁・血縁先の訪問を除いたものを「関係人口」と定義すると、実に全体の24%にのぼることが明らかになった。この数字は驚くべき多さである。
さらに細かく聞いた調査結果によると──。関係人口の関わり先への訪問頻度は「年に1回程度」や「年に数回」が半分以上の56%を占めている。しかし、「月に1回程度」が13%、「月に数回」が14%おり、「月に10回」訪問している人が10%もいた。また、約半数の52%は「日帰り」だが、「1泊2日」以上の長期滞在組が47%もいる。長期滞在者が半数近くいるのも驚きである。
関係人口の地域での過ごし方については、「地域ならではの飲食や買い物(地場産品の購入)」や「趣味や地域の環境を楽しむ」が圧倒的に多いが、「地域の人との交流や人脈づくり」や「祭りや地域体験プログラムへの参加」もある程度いる。
さらに「特定地域と関わりのない者」に対して、居住地以外と関わりたい希望があるかどうか聞いたところ、「とくに関りを持ちたくない」は70%いたが、残る30%は「関わる地域があるとよい」と考えている。なお関係人口が広がる余地のあることをうかがわせる数字である。ちょっぴりだが、希望が持てるではないか。(2020年1月21日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。